1.方針
ただの偶然だろうか。
秋山の奥さん、娘さんと一緒に、事故現場周辺の聞込みに回っていた。
奥さんから、自動車整備工場へ、聞込みに行ったのかと確認された。
最初に、工事現場近くの整備工場へ聞込みに向かった。
奥さんと娘さんも、この近辺を見て回っていたようだ。
気付かなかったが、どうやら、扶川刑事の後を付けていたよぅだ。
その整備工場へ勤めている森北渉が居る。
森北が、今週の月曜日から欠勤している。
追突事故があったのは、先週の金曜日。
北尾さんの遺体が、事故車両と一緒に発見されたのは、先週の土曜日。
森北が、門井自動車整備工場を欠勤し始めたのが今週、月曜日からだ。
ただ、両親から欠勤の連絡があった、との事で、森北の事は気に留めていなかった。
ところが、須賀課長から連絡が入った。
その森北が、遺体で発見された。
第一発見者は、あの秋山弘だ。
発見現場は、剣山の駐車場付近だった。
扶川刑事は、秋山の事を不思議な男、と思っている。
秋山一家が、北尾さんの遺体を発見した。
そして、今度は、森北の遺体も発見した。
しかも、殺人事件だ。
本当に、秋山が、事件に関与していないのだろうか。
殺害されたのは、昨日の朝から夜、二十時頃だ。
勿論、鑑識の結果を待たないと、断定は出来ない。
まずは、森北の土曜日からの行動を確認した。
扶川刑事は、森北の母親に事情聴取した。
土曜日は、食事と用足し以外、自室に居た。
夕食の時、母親に、月曜日は欠勤すると云った。
だから、月曜日の朝、会社へ連絡するように頼んだ。
二十時過ぎ、友達の家へ行く、と云って出掛けた。
翌日曜日、二十一時半に、母親のスマホに、メッセージの着信があった。
友達の家で、酒を飲んでいる、と云っている。
そして、今日は、友達の家に泊まる。
という事だった。
翌日、月曜日の朝、九時頃、帰宅している。
月曜日は自室に居た。
母親が、月曜日の朝、八時に森北の勤め先、門井自動車整備工場へ、欠勤の旨を連絡している。
欠勤理由は、体調不良だ。
月曜日は、朝から自室で寝ていた。
火曜日の夜、二十時過ぎに、友達の家へ行く、と云って出掛けた。
日曜日の夜と同じように、母親のスマホにメッセージの着信があった。
内容も日曜日と同じく、友達の家で飲んでいるので、今日も泊まる。
という内容だ。
だが、水曜日に森北は、帰宅しなかった。
両親は、また、友達の家に泊まるのだろうと、気にもしていなかった。
ところが、今朝になり、警察から連絡があった。
という事だ。
森北が、友達の家で酒を飲んだという事だが、その友達とは誰なのか。
火曜日、水曜日と友達の家へ出掛けているが、同一の友達なのか。
それとも、別人なのか。
あるいは、もっと別の誰かに呼び出されて出掛けたのだろうか。
しかし、もし、知らない誰かに呼び出されて、出掛けて行くだろうか。
その夜、帰って来ていない。
その誰か、知らない誰かと夜中、一緒に居るだろうか。
しかも、二晩続けて、夜出掛けるだろうか。
やはり、友達か知人の家だろう。
森北の殺人事件の捜査状況は、今のところそれだけだ。
須賀課長は、森北の友達を特定するように指示された。
自宅の近辺ではないだろう。
車で出掛けているから。
ただ、向こう三軒両隣なら歩いて行くだろう。
しかし、自宅の近辺と云っても、結構遠い。
その、遠い近辺となると、やはり探すのは困難だ。
防犯カメラを設置している所が、ほぼ無い。
近場から、ぐるぐると聞込みするしかない、
遠い所だと、もっと困難かもしれない。
しかし、住宅街付近だと、防犯カメラの台数も結構ある。
県道へ、出ている事を祈るばかりだ。
ただ、扶川刑事は、別の見方をしている。
森北は、追突事故を目撃したと思っている。
それでは、何故、警察に通報しなかったのか。
森北は、少し偏屈な性格ではあるが、問題を起こした事は無い。
やはり、面倒な事に、巻き込まれたくなかったのだろうか。
しかし、面倒な事どころか、殺害されてしまった。
つまり、警察に通報するよりも、もっと、面倒な事に巻き込まれたのだ。
森北は殺害された。
どんな面倒な事に、巻き込まれたのか。
やはり、追突事故を目撃した事が、起因しているとしか思えない。
あくまても、仮説だが。
追突事故を起こした、北尾さんの車に同乗していた男が、森北を見ていた。
男は、森北と顔見知りだった。
男は、北尾さんの車に、同乗している事を知られたくなかった。
それで、男は、森北を殺害した。
と、扶川刑事は考えている。
しかし、北尾さんが長江の車に追突した。
そう、長江が証言している。
長江は、光宗市の副市長だ。
だからと云う訳ではないが、嘘の証言をしているとは見えなかった。
森北だと思われる男は、自転車を漕いで横断歩道を渡り、去って行った。
多少、驚いていたようだが、ただ、事故に遭遇した事に、衝撃を受けたようだったそうだ。
もし、森北が、追突事故を目撃していたとすると…
北尾さんの車に同乗していた男が、森北の顔見知りだったとする。
森北は、その顔見知りの男を見て、何事も無かったように、立ち去るだろうか。
あるいは、北尾さんの車に同乗していた男は、森北に気付いた。
しかし、森北は、気付かなかった。
若しくは、その男は森北を知っていたが、森北はその男を知らなかった。
と、いう事になる。
何れにしても、森北は、日曜日と火曜日に、その男と会っていた可能性がある。
勿論、北尾さんの車に、同乗していた男と、森北が日曜日と火曜日に会っていた男とは、別人かもしれない。
待てよ。
森北が、この日曜日と火曜日に、会っていたのは、男とは限らない。
森北は三十六歳。
付き合っている女性が、居たのかもしれない。
しかし、長江の証言によれば、北尾さんの車に同乗していたのは、男性だったように思う。
と云う事だ。
ただ、長江が、車を追突された一瞬、目撃した状況だ。
もしかすると、女性だった。のかもしれない。
仮に女性だとすると、須賀課長の云う通り、森北が会っていた人物を探し出す必要がある。
やはり、北尾さんの車に同乗していた人物も探し出す必要がある。
また、森北が会っていた人物も突き止める必要がある。
同一じかなのか、別人たのか。
須賀課長の捜査方針に従うのか。
そるとも、扶川刑事の勘に従うのか。
何れにしても、地道に捜査するしかない。
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