第20話 主従の誓

 しばらくうなり続けたエルさんは、ようやく決心がついたのか、ゆっくりと僕を見つめてきた。


「コマリ君」

「はい、何ですか?」


「私もコマリ君とパートナーになりたい」

「はい、よろしくお願いします」


 僕は申請用紙に名前を記入し、エルさんの方を見ると、彼女どこか嬉しそうに微笑んでいるように見えたが、よく見ると、笑うのを我慢するかのように口をもごもご動かしていた。


「これでいいんですよね」

「う、うん完璧」


「それで、これは、どこに提出すればいいんですか?」

「職員室、担任の先生に渡せば手続きしてくれる」


「では早速行きましょう」

「うん、でも、ひとつだけいい?」


「何ですか?」

「パートナーっていうのはね、そんなに拘束性のあるものじゃない、だから、私と釣り合わないと思ったらすぐにパートナー契約の解消していいからね」


「あの、悲しいことを言わないでくださいよ」

「でもね、本当にこの世界は残酷だよ、使えない子はいらないんだよ」


「・・・・・・僕はそう思いたくありません」

「でもね、私よりも優秀なドールはたくさんいるよ、きっとコマリ君のすごさが知れ渡ったら思い知るんだよ」


「でも、それで僕とエルさんの関係が変わらないじゃないですか、むしろ僕の不甲斐なさに呆れられないように頑張りますから」

「そ、そんな、何度も言うけどコマリ君は本当にすごいんだよっ」

「いいえ、僕からしたらエルさんの方がすごいです、これからもっともっとエルさんのすごいところを見ていきたいです」

「こ、コマリ君・・・・・・」


 はっきり言って恥ずかしい言葉を次々はいてしまったことに後悔しながら、あっけにとられた様子のエルさんはまるであきらめたかのようにため息をついた。

 彼女の優柔不断で自信のない様子に疑問を抱きながらも、僕たちは職員室に向かって歩き始めた。

 道中もエルさんはネガティブな言葉をつぶやきながらため息をついていた。どうやら、エルさんはあまり良い経験を積んできていないのかもしれない。

 だけど、彼女にはサチさんという素敵な人がいる。嫉妬してしまうほどの愛を受けている。彼女がいる限りエルさんは大丈夫だろう。


 そうして、職員室へとたどりつくと、ちょうどフシミ先生と鉢合わせた。先生は僕を見つけてエルさんと交互に眺めた後、満面の笑みを見せてきた。


「コマリ、私に用があって、何か言うことがあるのだろう?」

「はい、パートナーとなるお相手を見つけてきました。これが申請用紙になります」

「おぉおぉ、これはめでたいことだ、しかもお相手はフタバ製作所のエル、よかったなエル」


 先生の言葉にエルさんはわずかにうつむきながら「はい」と小さくつぶやいた。そして、先生は僕から申請用紙を受け取ると、「よしっ」と声を上げた。


「じゃあおまえら、主従の誓をするぞ」

「主従の誓、って何ですか?」

「そのままの意味だ、ドルマとドールが互いをパートナーとして誓うんだ。さぁ今すぐやるぞ、私の言葉に続け」


 そういうと、伏見先生は大きく深呼吸をした後に咳ばらいをすると、真剣な目で僕を見つめてきた。


「いいかい小鞠、エルの事を思い、彼女の目を見て私が言う言葉を続けるんだぞ」

「はい、わかりました」


 先生は僕の返事をしっかりと受け止めた様子を見せると、今度はエルさんの方を向いた。


「いいかいエル、君はコマリの事を思いその身にしっかりと彼の声を刻み込んだよ」

「はい」

 

 エルさんは緊張した様子で返事をすると、僕の方を向いてこわばった表情で見つめてきた。


「では始めよう・・・・・・ドールマスターである番条小鞠の命により、ドールのエルを従者として任命する」


 僕は先生の言葉をそっくりそのままにエルさんに向かって口にした。短い間だけれどエルさんとの思い出を振り返りながら口にした。


「主は従者に従者は主に、互いを尊重し苦楽を共し、すべての生きとし生けるもののためにこの命を全うすることをここに誓います」


 かなり大規模な話になってきたけど、僕はその言葉を続けた。すると、先生は一息ついた。思いのほか短い誓いだったけど、これは僕だけであり今度はエルさんの番だったりするのだろうか?

 そんなことを思っていると、先生は終わりだといわんばかりに手拍子を一回打った。


「さぁ、これにて誓いの儀は終わりだ、本当はもっとちゃんとした所でちゃんとやるべきなんだが、それはお前たちが好きな場所でやればいい」

「これで終わりなんですか?」


「あぁ、これでお前たちは立派なパートナーだ、あくまで最低限のだけどな」

「僕だけが喋って終わりですか?」


「今回はな、それにこの誓は原初の誓といってドルマとドールが一番最初にやる儀式なんだぞ」

「そうなんですか、勉強になりました」

「うむ、じゃあな」


 なんだかそっけない感じで終わり、先生は再び自らの席へと戻っていった。

 もやもやしながらエルさんの方を見ると、彼女はどこかそわそわした様子で僕をちらちらと見つめてきていた。


「あの、どうかしましたか?」

「ううん、その本当に嬉しくて、でも、心配とかいろいろあったりで、なんか落ち着かない」


 昨日の訓練の時とは違い、弱々しい様子のギャップに愛らしさを感じつつ、僕たちは職員室を後にした。























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異世界ドールの伝説 酒向ジロー @sakou_jiro

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