第18話 パートナーとこれから

 その後はエルさんの依頼で続けて訓練を置こうなうことになった。


 エルさん曰く、パートナーとは一秒でも多く一緒にいることで絆が深まるらしく、それが経験値となり、より一層互いの力が磨かれるらしい。なんでも、熟練したパートナーになると言葉にせずとも意思疎通ができるようになるらしく、エルさんはそんな存在になりたいと語っていた。


 そうして、しばらくの訓練の後、辺りはすっかり薄暗くなってしまっていた。


 僕はすぐにでも帰ろうと思っていると、サチさんが「せっかくだから飯でも食って帰れ」と提案してきた。とてもうれしいお誘いであり、エルさんも控えめに僕を誘ってきていた。

 二人を前にして、どうしようかと悩みつつも、ママルさんに何も言わないというのは心配かけるかもしれないと思った僕は、また今度ということで二葉製作所を後にする事にした。


 自宅に戻ると、食卓には全員そろっており、僕が返ってきたことを待っていた。ミルフィさんやムーさんはどこか不機嫌そうな顔をしており、ママルさんとメルさんは笑顔で出迎えてくれていた。

 モカさんは終始無表情だったけど、手に持っているスプーンが今か今かと食事を待っていた様子に見えた。


「すみません、帰ってくるのが遅くなってしまい」

「そんなこたぁ、どうでもいいから早く手洗いうがいして、とっとと席につけよコマッ」


 僕の謝罪なんかよりも、食事が優先されていることが分かった。僕はすかさず洗面所で諸々を済ませた後、すぐに席に着いた。


「いただきます」


 ママルさんの落ち着いた声が聞こえると、食卓は一斉に食事にありつき始めた。そうして、僕は一息つきながらママルさんに謝ろうと思いながら今日の夕食を眺めてみると、そこにはおいしそうな鶏のから揚げが四つ置かれており、それはとてもおいしそうだった。


 思わずよだれが口の中であふれた。しかし、そんなから揚げに突如として二本のフォークが突き刺さってきた。

 一つはいミルフィさん、もう一つはムーさんのフォークだった。二人は意地悪な笑顔を見せながら「遅刻した罰だ」と口をそろえて言うと、二人はから揚げを口の中に帆折込、おいしそうに咀嚼し始めた。


「あぁっ」


 思わず声を上げたが、時すでに遅し僕のから揚げはすっかり彼女たちの胃袋へとしまい込まれていた。

 残念に思いながらも、遅刻した僕が悪いと反省していると、僕のお皿にから揚げが一つやってきた。

 

 顔を上げると、メルさんが笑顔で僕にから揚げを分けてくれており、彼女は「これでお揃いだね」とあふれんばかりの笑顔で微笑みかけてくれていた。正直うれしかったが、僕は引け目を感じずにはいられなかった。


「め、メルさん、悪いですよ。僕が遅刻したのが悪いんですから」

「コマリ君は悪くないよ」


「ですが、遅れてしまったのは事実なので」

「大丈夫だよ、私もよくやるから」


 そう言ってメルさんはまるで誇らしいことを言ったかのように胸をはった。その場のだれもがそんなに胸を張っていうことではないと思っているのか、沈黙が流れた後、僕は慰めてくれたメルさんにお礼を言った。


 そうしていると、ふと、ママルさんが話しかけてきた。


「それよりコマリ君、今日は何に夢中になってたのかな?」

「あ、実は、パートナーとなるドールの方と訓練をしていたんです」


「おぉ、それは何よりじゃないか、相手はどんな子かな?」

「よつば製作所のエルさんという方です」


「よつば製作所、あぁ、そういえば町はずれにそんな建物があった。そこに行ってたんだね」

「はい、つい夢中になってしまいまして、遅れてすみませんでした」


「夢中になるほどパートナーとの訓練が充実していたということだ、とてもいい事だよコマリ君。ドルマとドールの絆は最も大切なものだからね」

「はい」

「でも、今度からはもう少し早く帰ってくるか、連絡する手段を・・・・・・あぁ、そういえばコマリ君には渡していなかったね」


 そういうと、ママルさんは近くの小物入れから小さな手鏡を取り出すと、僕に手渡してきた。きれいに装飾されているが、嫌な派手さはなくシンプルで魅力的なものだった。


「これは何ですか?」

「連絡手段だよ、それを開いて鏡に向かって話しかけると、連絡を取りたい相手につながる」


 僕は手鏡を開いて中を確認するとそれは鏡であり、僕の顔が映っていた。これが連絡手段に使えるのだろうか?

 という疑問があったが、僕がこの世界に迷い込んできた経緯を思い返すと、この世界での鏡はこういう役割も与えられているらしい。


「これで、誰にでも連絡できるんですか?」

「いいや、鏡が知っている相手だけだ、ちなみに私たち五人の登録は済ませてあるから、いつでも連絡してくれ」


 ママルさんはそういうと食事に戻った。そうして、僕は手中にある鏡をしばらく見つめた後、大切にポケットにしまい込み、食事を続けた。

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