第17話 初めての共同訓練

 サチさんは中庭にある異質なレバーを幾つか操作すると、訓練所の姿が徐々に変化していった。先ほどまであった的が小さくなったり、動いたりするようになり、さらには風が吹いたりし始めた。

 

 それは間違いなく、エルさんがさっきまで行っていた訓練よりもはるかにレベルがアップしているように見えた。

 そして、そんな様子を前にエルさんは、どこか緊張した様子で訓練場の様子を眺めていた。そんな彼女に僕はすぐに声をかけた。


「大丈夫ですか、エルさん」

「大丈夫、私、今すごくワクワクしてるから」


 エルさんはわずかに体を震えさせながらもその表情はとても笑顔だった。


「僕も応援しますから、頑張りましょう」

「うん、よろしくね」


 そうして、エルさんと共に訓練所に足を踏み入れると、サチさんが僕を呼んだ。


「おいコマリ、ちょっとこっち来い」

「あ、はい、なんでしょうか」


 サチさんの元へと向かうと、彼女は真剣な顔で僕を見つめてきた。


「コマリ、お前ドールと組んだことはあるんか?」

「いえ、一度もありませんが、ドルマの才能があるということだけは聞かされています」


「そうか」

「あまり実感したことはありませんが、僕の声は良く届くそうです」

「そりゃ結構だが、ドルマにもドルマの資質が必要だ。お前がどれだけエルに寄り添えるかがこの訓練の成功につながる」


「はい、弓の事はよくわかりませんが、彼女を応援することならできます、頑張ってくださいねエルさん」

「う、うん、ありがと」


 本当にこんなことを言うだけでいいのだろうかと、不安になるくらいに人事な感じだった。それだけに僕はこれから始まる訓練が不安に思えてきた。

 厳しい環境下で、動く的を射抜こうとするエルさんに対して、僕は何とかほかの言葉で応援できないかと考えていた。


 そうして、考えているうちにエルさんは弓を引いて矢を射ち始めた。


 きれいな姿勢で放たれる矢は目で追えるようなものではなく的に中った音と、矢賀真央のど真ん中に刺さっていることに僕はとてもうれしくなった。


「やった、すごいよエルさん、お見事っ」


 思わず出た言葉、すると、エルさんは僕の言葉に敏感に反応すると、照れくさそうに「えへへ」と笑った。

 そしてエルさんは次々と弓を引いて矢を放ち、あちこちにある的に命中させていき、結果は百発百中だった。

 感動する光景を前に、僕はたまらずエルさんの方へと目を向けると、彼女はどこかキラキラと輝いているような気がした。


 そして、彼女は何を思っているのかわからないが、その場で立ち尽くしていた。

 

 そんな彼女のもとへと向かおうと思っていると、突然サチさんが僕の目の前に立ちはだかった。


「コマリもう一度だっ、エルも分かったかっ」


 サチさんはどこか動揺した様子でそういうと、エルさんも少し困惑した様子で再び弓を構えた。そんなエルさんに再び声援を送った。


「エルさん、次も頑張ってくださいっ」


 余計な言葉は必要ないと思った、だからシンプルな言葉で声援を送ると、エルさんはどこか精悍な顔つきで黙ってうなづいた。

 そうして再び、さらには三度とエルさんの訓練が行われたが、エルさんの行射はまるでリプレイでも見ているかの様だった。

 

 ドールという存在の底力を見せつけられた僕は思わず拍手をしていると、エルさんは茫然とした様子で立っており、サチさんは声を震わせながら「当然じゃ」とつぶやいた。


「サチさん、エルさんはやっぱりすごいですね」

「ん、あぁ当然じゃ、これがエルの本当の力なんじゃ、わかっとらんのは学園の奴らなんじゃ、わしはまちがっとらんかったんじゃ」


 サチさんは嬉しそうにそういうと、エルさんがとことこと僕たちのもとまでやってきた。すると、サチさんはエルさんを抱きしめた。


「エル、ようやった、お前は本当に最高の娘じゃ」

「も、もう恥ずかしいよ、でも私今までの訓練で一番頑張れた気がする」


「もちろんじゃ、」

「でも、たぶん私一人の力じゃないよ」


「エル、それは・・・・・・」

「コマリ君がいてくれたおかげだよ、コマリ君が私の事をたくさん応援してくれたから、コマリ君の声が聞こえてくるたびに力がみなぎってきて、集中力が増して、世界が止まって見えるくらいだったもんっ」


 エルさんは嬉しそうにそう語ると、僕に目を向けてきた。僕はただ応援していただけなのに、そういわれえるとなんだか照れ臭くなった。

 すると、サチさんがエルさんから離れて僕のもとまで歩いてくると、サチさんは右手で僕の頭をガッとつかむと、乱暴に頭をなでてきた。


「まぁ、お前もようやった。ドルマの才能アリってところだ」

「あ、あはは、ありがとうございます」









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