06
「一時間程度お勉強をしてからでいいので付き合ってもらいたいことがあるんです」
「それなら先にそれを済ませよう、どうせ六車は今日もやる気が出ないみたいだからな」
「そうですか、ならお買い物にいきたいです」
なにか作る予定なのかと聞いてみると誕生日に渡すための物を買いにいきたいみたいだった。
ちなみに、六車は五月で既に迎えているし対象者はここにはいない。
同性ならいいが敢えて異性に渡す物を六車もいる状態で選ぶというのも微妙だ。
「男子にあげるのか?」
「はい、お父さんにあげるんです」
「あ、なんだ、身内が相手なら問題ないな」
しかも父ならもっと問題もない。
「一緒にいる男の子は六車君か先輩ですからね、どちらのお誕生日も知らないので渡しようがないです」
「六車は五月だ、というか言ってこなかったのか?」
「教えてくれることはなかったですね」
まあ、自分からは言いづらいか。
歩くことも面倒くさいみたいなので今日も今日とて背負って運んでいるが会話に全く参加してこないから困る。
みんなが黙ると気まずいからこうしているものの、これだと積極的に三澤と話したくてしているように見えてしまうのが問題なのだ。
ツッコミ役も一人だけでは足りないのでこういう日こそ姉にいてもらいたいところだった。
でも、姉は姉で今日も元カレと出かけるみたいだからどうしようもない、距離的にもいちいち来てもらうわけにもいかないからな。
「やっぱりネクタイとかですかね、どうせ渡すなら使ってもらいたいですからね」
「俺だったらその日で消える物の方がいいな、常日頃身につけられたり、相手の部屋にいったときに存在していたら恥ずかしいからさ」
「その場合はお酒ですかね、でも、買えないのでコーヒーとかになると思います」
「ま、引っ張られすぎる必要はない、三澤がしたいように動けばお父さんも喜んでくれるだろ」
ただ道を歩くだけならいいが店内でずっと背負っていても微妙だから歩いてもらうことにした。
怪しいとか無駄なことを言って不満気な顔をしていたぐらいなのだから積極的に彼女と行動すればいいのに横で突っ立ったままだ。
姉と一ヵ月以上会えていないとかでもないのになんでこんなにやる気がないのか。
「最近はどうしたんだよ、六車らしくないぞ」
「瀧本先輩は俺になにか買ってくれますよね?」
「は? だから誕生日は……あ、クリスマスプレゼントを欲しがっているのか。まあ、世話になったからなにか買ってやってもいいぞ?」
一年に一回のことだから千五百円ぐらいの物なら買ってやれる。
あとセンスの方はないから相手が欲しがった物を買うでもいいのなら受け入れる。
「それなら安いやつでいいので物と、あとは名前で呼んでください」
「物はいいけど後者は六車が姉貴に対して頑張れたら、だな」
「そんなに叶子さんと付き合ってもらいたいんですか?」
「やっぱり上手くやれるといってもどうにもならないから元カレと会うぐらいならって考えてしまうんだよ」
本人からすれば余計なお世話でしかないがな。
「本当は瀧本先輩が叶子さんを取られたくないんじゃないですか?」
「なんでだよ、もしそうなら元カレだけじゃなくて六車とだって出かけないように言うだろ。だけど実際は逆だ、寧ろ勧めているぐらいなんだからなにをどうすればそんな考えになるのかがわからないぞ」
というか、これだと付き合っていると言えないから三澤に付いて回ることにした。
あれこれ手に取っては違うのか戻していくところを見て六車相手にもそれぐらい頑張ってほしいとまた考えた。
そもそも真面目に勉強をやっていたわけでもないのにどうして俺に頼んできたのか、好きな人間を利用したくない気持ちはわかるが目の前でそういうことばかりしていると勘違いされてしまう可能性だって出てきそうだ。
「うーん……これだという物がありません」
「時間ならまだまだあるからゆっくりでいいぞ」
遊びにいくうえに今日の夜ご飯担当は姉だから尚更ゆっくりでいい。
これが早く帰ったからといって先にやると拗ねるからな。
「買いたい物を見つけてから先輩達を誘った方がよかったですね、すみません」
「だから気にするなって、俺だってどうせずっと集中しておくなんて無理だからありがたいぐらいだよ」
腕を掴まれているためやる気の出ない彼を連れていくのも楽だった。
それでも時間がかかるようならもうここで食事を済ませてしまってもいいかもしれない。
あまり出かけてほしくもないが俺のせいでしたいこともできずに途中で帰るなんてことになってほしくないからだ、姉に対しては特にそういう気持ちが強かった。
うんまあ……彼が唐突に変なことを言ってきたとしても仕方がないぐらいには優先しているな俺は。
「あ」
「見つかったか?」
「これ……ですかね」
「喜んでもらえるといいな」
「はい、お会計を済ませてきます」
これは間違いなく余計なプレッシャーになった形になる。
大丈夫、問題ないという伝え方ももう少しぐらいは考えてしなければならないようだ。
少しほっとしたような顔をしていたことは悪いことではなかったが。
「本当にそれでよかったのか?」
「はい、人に、瀧本先輩に買ってもらえたという事実が重要なんです」
でも、写真立てを買ったのはいいが肝心の写真はあるのだろうか?
これから撮るとしてもいちいちデータから変えるというのも面倒くさそうだ。
結局、忘れ去られて埃まみれになっているところが容易に想像できる、だからやはり消える物の方がいいのだ、他よりも気にしているからこそだ。
「さ、もう暗いので三澤さんを送って解散にしましょうか」
「だな、三澤もそれでいいだろ?」
「はい、自分のことばかりで少し申し訳ないですけど」
「気にするなよ」
いるのかどうかはわからないが俺のこのスタンス的に姉には当日に買えばいいだろう。
仮に誰かと遊ぶとかでいなくてもいい、どうせその日には消える物を渡すのだから考えすぎるだけ無駄だ。
問題は元カレと集まることを選んだときだが……上手く大人の対応で送り出してやろうと思う。
振られたとしても一度は好きになって彼女になったぐらいだからそのときのことを思い出して仲良くしたくなっても仕方がないだろう、いい点は元カレにもう彼女がいるとかでもないから関係を戻してもただ友達と遊ぶだけでもどっちでもいい。
というか、どれだけ複雑な関係になろうと所詮特別でもなんでもない人間は関われないからな。
「クリスマス、みんなで集まりませんか?」
「みんなって姉も含めた四人でって話だよな?」
「叶子さんが無理でも三人で集まりたいです」
いきなりクリスマスに二人きりで過ごすのは無理か。
姉が大人しく家にいることを選んだ際に二人きりより四人とかの方が楽しめるだろうからまあ悪くない。
「だってよ、六車は大丈夫か?」
「はい、誘ってくれる人なんていませんからね、家族でわいわい盛り上がるタイプでもないですし」
「ならそれでいいな、場所は――」
「私の家で集まりましょう」
いまの六車の状態なら俺の家でとか言い出しそうだったから止めたかったのだろうか。
「別に遮らなくてもいいだろ、それならそれでいいよ」
「約束ですからね」
「六車、ちゃんと守ってやれよー」
「受け入れたからにはすっぽかしたりしませんよ、瀧本先輩こそ当日に急にやめるとか言わないでくださいね」
言わない言わない、おまけでも一人よりは遥かにいいからな。
姉が空気を読もうとした際にもそうなることが確定するからありがたいぐらいだ。
出しゃばらずに食べ物だけ食べていれば邪魔にもならないはずだ。
「それじゃあこれで、送ってくれてありがとうございました」
「おーう」
「またね」
で、彼女が目の前から去ってすぐに腕を掴まれて意識を向けた。
「いつも通りに戻ったか?」
「あれ、瀧本先輩に構ってもらいたくて演技をしていただけですからね」
「余計なことをするなよ、俺なら必ず相手をしているだろ」
それこそ誘ってくれるような人間がいないから後輩組がいなければ常に一人だ。
周りにあれだけ人間がいてそれってかなり寂しいことだよな、それでもなんとか前に進めてしまうのがいいことなのかどうなのかわからなくなる。
いやそりゃ、目標を達成できるまでずっと限られた範囲の中で生きなければならないなんてことになったら嫌だが、なあ?
「どうせ『姉貴のおまけだろうけどな』とか考えていますよね?」
「違うのか?」
「それだったら毎日いきませんよ、叶子さんと会いたいときだけいくはずですよね?」
「前の六車はそうだったけど」
「前の、ならいまは違うということじゃないですか」
俺は変わらないのに周りは勝手に変わっていくから付いていけないときがある。
決して俺だけが似たような状態になっているわけではないだろうが周りは上手くやっていて羨ましくなる。
「まあいいや、琢、これでいいんだろ?」
「いいんですか?」
「今更だけど強制させるのは違うからな」
「ありがとうございます」
なんだよその顔、同性に向けるような笑みではない。
気になる異性にやっと名前を呼ばれた~とかだったらおかしくはないがあまりにも過剰だった。
求め続けていたのに勇気を出せずに言えないままでいた、なんてことはないだろうしな。
「急ですけど最近は三澤さんもよく見えます」
「本当に急だな、じゃあなんで二人で行動しないんだ? いや、本当に強制することじゃないけどチャンスはいくらでもあるのに素直に甘えようとしないからさ。三澤だって遠慮をしてしまうからどっちが頑張らないと延々に変わらないぞ?」
「え?」
今度はなんでここでわかっていないみたいな顔をするのか。
「えって、事実だろ?」
「ああ……実に太樹先輩らしいですね」
勝手に期待して盛り上がったりもする、だからすぐにそういう目線で見るなよと言いたいのだろうか。
とりあえず、その冷たい顔をなんとかしてもらいたいところだった。
「太君」
「ん-」
「好きだよ」
「待て、練習台に使うな」
いやでもまさかここまでとは、それだけ元カレはいい存在だということか。
「ん-なんか違うんだよねえ、あのときの私の好きにはもっと気持ちが込められていたというかさあ」
「当たり前だろ、そりゃ家族としての好きと特別な意味での好きでは込められている気持ちも違うからな」
「そっかあ、じゃあもう二度と同じようには言えないんだねえ」
「あれ、告白をしなおすんじゃないのか?」
「え? 振られた相手にもう一回頑張るなんてことはできないよ」
それならなんでそんな話になったんだよ……。
しかも同じぐらい人を好きになればそれだけ似るものではないだろうか。
「私が振った側だったら相手の頑張り次第では戻ったかもしれないけどね」
「な、納得できていないところがあるとかか?」
「当たり前だよ」
「そ、そうか。じゃあ俺は掃除でもしてくるわ」
休日だからってだらだらしすぎてはいけないから仕方がない。
それこそ琢なんか話にならないぐらいには冷たい顔をしていたからな、巻き込まれたらたまったものではない。
「だからクリスマスは私もいます」
「それなら二人も嬉しいだろうな」
「太君は?」
「場所が三澤の家だからな、姉貴がいてくれた方がありがたいよ」
自由に行動できない分、話しやすい人間がいるのは大きい。
別に二人に話しかけられないというわけではないがすぐに邪魔をしていることが気になってしまうからこれでいいのだ。
なんか異性相手に頑張っているあの頃の姉貴をもう一度見ることになるよりいいしな。
「毬花ちゃんには頑張ってもらわないとね、こういうときを利用しないと意外とそのままなんてことになりやすいから」
「流石経験者、だけどあの二人がなあ……」
「途中で帰ると逆効果になるし露骨にやっても同じだから上手くやらないとね」
そこは経験者なりに上手くサポートをしてやってほしかった。
俺にできるのは参加して空気を読みつつ行動するだけだから。
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