第32話 質疑応答コーナー…?
「ありがとうございます」
僕は受付嬢にお礼を言うと、無精ひげの男性がいるカウンターへと向かった。
「あの、こんにちは。ちょっと質問しても良いですか?」
「…あ? ああ、別に構わねぇぜ。それが仕事だからな」
うわあ、やっぱり門番達と同類でしょ。話しかけても愛想が無いし、なんか不機嫌な感じがする。
話すのが怖くなったけど、どうしても聞きたいことがあるから話さざるを得ない。…まあ、こういうタイプは仕事だけはしっかりこなしてくれると思うから、そうであることを祈ってちゃんと話してみよう。
「で、何が聞きてぇんだ?」
「狩ってきた魔物を買い取ってもらう為には、どうすればいいのかと思って」
そう、今のうちにビッグボアをどうにかしてしまいたいのだ。【収納】には約3体いるけど、絶対に僕はこれからも放置し続けるだろうし、使わないだろう。そして【収納】の中は時間が止まるから、多分本当にその存在を忘れる可能性がある。
あと【収納】にはちゃんと容量が存在するから、今のところはまだ空きがあるけど多分そのうちいっぱいになってしまうだろう。それを考えると、やっぱり今後使う予定の無いビッグボアは買い取ってもらいたいのだ。
「あ? んなもん、あそこのカウンターに行って『買い取れ』って言やぁ、何とかなる話だろ」
うわ、馬鹿を見るような目で言われたぞ。確かによく周りを見ていれば気付けたんだろうけど、そんな露骨に態度に出されてはイラっと来る。
まあ、僕にはそれでカッとなって掴み掛かるとか、勇気が無くて出来ないんだけどね…。
「…ありがとうございます。あと、もう一つ質問良いですか?」
丁寧にお礼をして追加の質問をしようとすると、その男性は「まだ何かあるのかよ」といったような表情で、分かりやすくため息を吐いた。おい、それで良いのか冒険者ギルドの質疑応答コーナー。これは確かにこの区画だけ閑古鳥が鳴くわ。
「ここに来る途中、武器が折れてしまったんですが、この辺りにどこか良い武器屋はありませんか?」
「そりゃご愁傷様だな」
おいコラ。そんな投げやりな返答、普通はしないだろ。冒険者にとって武器は大事なんだぞ、仮にも冒険者ギルドに所属してるなら分かってるはずでしょーが。
「…まあ、俺はただのルールの詳細を説明する係なんで、武器に関しちゃど素人なんだよ。悪いが、知りたいなら他を当たれ」
第一声、「ご愁傷さま」じゃなくてそれを言えば良かったんじゃないかな…と言いたいのをぐっと堪えて、僕は「ありがとうございました」とお礼を言ってから、他の人に聞き込みをすることにした。一応、聞きたいことには答えてくれたんだしね。
「というより、僕に聞き込みとかできるのかなぁ…」
急にそっちの方が不安になってくる。悠とカンナがいない状態でのコミュニケーションは、あんまりやったことが無い。我ながら、そういうところには依存してたんだなぁとは思うけど、実際そうなのだから仕方ない。
めっちゃ気が重たいよ…。
いやいや、今は忘れないうちにビッグボアの買い取りを終わらせて、それから後のことを考えよう。うん、そうしよう。
まずは一体だけ買い取ってもらおうと思い、僕は早速あのやる気無しの男性から教えてもらったカウンターへと向かう。
「こんにちは」
「こんにちは。はじめましての方ですね。魔物の買い取りでしょうか?」
カウンターにいた女性に声を掛けると、さっきの人とは大違いでとても愛想の良い挨拶をもらった。うん、こっちの方が話しかけやすいよね。なんで僕、あの人に話しかけようなんて思ったんだろう…。あ、そうか。あの人が質問コーナーの人だったからだ。
「えっと、はい。この町に来る途中で大物を狩ることが出来たので、買い取ってもらおうかなと」
「そうですか。ちなみに、それは大型の魔物ですか? 小型でもレアだったり強力な素材が取れる場合がありますので、“大物”と呼ばれるものがあるのですが」
「いえ、大きい魔物です」
「そうですか。では、大型魔物の買い取り専用の部屋があるので、そこへ移動しましょう」
そういうと、受付嬢は「買い取り部屋」と書かれたプレートが下がっている部屋へと僕を連れて行った。…カウンター、この人がいなくなったら誰もいなくなっちゃうけど、一体どうするんだろう。
部屋の中には、魔物の解体に使うのだろう、でっかい鉈やノコギリ等がいくつも壁に掛けられている。血とかいっぱい付いているのかな~と思ったが、全然そんなことは無く、綺麗に洗われているのかその全てが新品同様に光っていた。
そして何より目を引いたのが、常在しているのかムキムキな男の人が数人、ダンベルやら鉄アレイやら梁やらを使って筋トレしていたことだ。
…いや何で?
「では、魔物をお出しください」
「おい、野郎ども! 仕事の時間だぜぇ!!」
「「「「「うす!!!!」」」」」
受付嬢は気にせず、僕に魔物を出すよう促す。すると筋トレをしていたマッスルたちが、今さら客に気付いたかのように筋トレをやめ、受付嬢の後ろに見事に整列した。
いや何で?
「…は、はあ…」
今のこの状況を説明してほしいとは思ったが、悠とカンナの奇行を思い出したらそこまで重要にも思えなくなってきたので、喉元まで出かかっていた疑問を呑み込んで大人しく魔物を出した。
「…こ、これはっ…!」
とりあえず出したのは、僕が狩るだけ狩ってあとは手を付けていないビッグボア。すると、受付嬢はなんか驚いて呆然としているし、何やら後ろにそびえる筋肉の壁もかなり目を丸くしている。
…あれ? これもしかして、出しちゃいけないもの出しちゃった感じ…?
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