僕達のライブの始まり
4ヶ月間を全力で走り切った僕達3バンドが主催するライブ
ついに開催日となった。
チケット売り上げは全10バンドで合計1969枚
僕達No Nameは573枚のチケットを販売して圧倒的な大差をつけて販売1位の座を獲得した。
支援してくれる多くの人がチケット販売を手伝ってくれたり宣伝してくれたのだ。ありがたい。
中学2年生と1年生で構成されているバンドがこんなに大きな事をしても大丈夫なのか?
目立ちすぎていて少し怖かったがあきちゃんが中心にいるのだ。
この人の才能は計り知れない。
神様からの様々な恩恵を総取りしているような人なのだ。こうなるのも必然だとも感じる。
僕達は恥ずかしい想いをしないように一生懸命実力を伸ばす努力をするだけだ。
リハに入る前からライブハウスの付近は多くの人でいっぱいだった。
ライブハウスに向かう僕達にあちこちから声をかけてくれて来てくれた人達の期待を感じる。
リハを効率的に素早く出来るようにリハの時間は参加バンド全員がフロアで他のバンドのリハを見学する決まりにした。
リハ中に次のバンドが話し合い効率よく立ち位置を決めてマーキングが進む。
入り時間を削ってライブ時間を6時間にしているのだ。
時間を押してしまうわけにはいかない。
なんとかギリギリだけどリハ無事にを終えて開場時間となる。
開場と同時に大量の人が流れ込んでくるのだ。
開演までの1時間の間だけで700人を超える来場者だった。
大成功の予感がする。
僕達3バンドはステージ上で来場者を迎えた。
開演までの時間も楽しんでもらおうと決めていた。
開場後のアトラクションは対談。
僕達3バンドがステージの上でマイクを持ち、ひたすら音楽についての話やライブについての話などを語り、来場したお客さんにも自由に話しかけてくださいと伝えた。
台本も打ち合わせもなく、自由に楽しく話すだけの時間だがそういった時間がまた新鮮で来場者の方々からも様々な質問が飛び交い大いに盛り上がる。
開演時間が近くなり、最初のバンドがステージに上がる。
最初のバンドの準備の邪魔にならないよう気をつけながら対談を続ける。
『さあ、皆さんまもなく開演時間ですよぉ♪
楽しむ準備は出来てるかなぁ?
このライブは今後シリーズ化して4ヶ月に1回開催します。
今日はその第1弾!!伝説の幕開けだよぉ。』
あきちゃんのMCでライブは開演した。
初回はベテラン勢にトリを任せ、僕達は中盤である5組目に演奏する事にしていた。
次回は9番目の演奏、その次開催するときは10番目のトリを演奏する。
3バンドで5番目、9番目、10番目とローテーションする約束だ。
3番目のバンドと4番目のバンドの演奏の間に僕達の余興の時間が入る。
15分の持ち時間だ。
今回の僕達の余興時間はCD販売のお知らせと今後のライブ予定の告知だ。
5番目演奏の担当のバンドが毎回この役割を請け負う事に決めていたのだ。
CD販売はライブのフライヤーに記載して告知していた。
入場の際に先着順で「CD購入希望」の人に販売していたのだ。
『このライブでは枚数限定でオリジナルCDを販売しています。
「No Name」「Another」「空彩」の3バンドが各5曲ずつレコーディングして作ったこのライブでしか手に入らない限定生産CDです。』
『本日の分は開場から開演までの1時間の間に全て売り切れてしまいました。
300枚用意していたのですが少し少ないと感じたので次回から500枚販売します。
お求めの方はお早めのご来場お願いします。』
続いて次回のライブの告知
1995年12月24日(日)
天使のような悪魔のGigs Vol,2
開場12時 開演13時 閉演19時
本日よりチケット販売開始しています。
参加バンドを確認の上、お求めください。
次回のライブの申し込みを数日前に済ませていて、参加バンドを決めてフライヤーとチケットも印刷し終わっていたのだ。
次の手を打つのは早い方がいい。
ライブの開催日に告知が出来る様に準備しておいて次回に繋げる。
さすがとしか言いようがない周到な準備だった。
余談だが、この日だけで次回のライブのチケットは全バンド合計で400枚以上売れた。
僕達の余興の時間はこうしてCD販売のお知らせと次回のライブ予告を行った。
正直、作曲や主催企画などの準備で時間に余裕がなかったので余興を考えなくても済んでとても助かったと思っている。
他の2バンドと違って僕達No Nameは経験がなく、曲数も少ないので時間に追われていたのだ。
5組目の演奏時間になり、僕達はステージに立った。
本日すでに、対談をしたり余興をしたりと何度もステージに立ってはいたがやっぱりライブの為にステージに立つときは格段にテンションが上がる。
お客さんの期待値も違い、視線が期待に溢れている。
僕達の演奏を楽しみにし続けてくれていたのだ。
『今日何回もここからみんなを見てるけどやっぱり演奏前は雰囲気違うね。
今日の演奏は新曲3曲から行くからねっ。CDに収録してる曲だからCD買ってくれた人は是非聴いて覚えてきてねっ♪』
あきちゃんのMCはさすがだ。
次回CDが欲しくなるようなMCをサラッと入れてしまう。
商売の才能もあるんだなこの人は。なんでも簡単にやってのけてしまう。
4月にしたライブの時よりも人が多く入っている。
入り口のスタッフさんに来場者数を聞いてみると1200人を越えているとの事だ。
このライブハウスの限界キャパに近くなっている。
密度がすごく人で埋めつくされてきている事に感動した。
3バンド合同とはいえ、自分達が主催のライブなので感じるものは多い。
演奏が始まってた。
前回よりも声援が多く、僕達目当てで来てくれているお客さんがかなり増えた事や気になって耳を傾けていてくれる人が多い事を感じる。
これも主催メンバーになって目立ったからであろう。
やたら目立つ中学生の集まりがどのくらいの演奏をするのか気になるのだと思う。
演奏は曲を重ねる毎に反響が良くなる。
オリジナル楽曲なのでお客さんは歌詞が分からず一緒に合唱したりする事は出来ないが、行き場のないハイテンションを縦ノリで表現して会場内は熱気と狂喜に包まれている。
今までの僕達が演奏するライブの中で1番盛り上がったのではないだろうか?
と言うよりも、毎回ライブの度に1番が更新され続けている。
まだまだ伸び盛りの実力なのだろう。
演奏する度にファンになってくれる人が増えていく。
そんな実感を噛み締めながら僕達5人はライブを思いっきり楽しんだ。
音楽を始めて良かった。
あきちゃんと出会えて良かった。
この環境に至るまでの全ての因果に僕は感謝した。
最高潮の盛り上がりの中、僕達No Nameの演奏時間の30分は終了した。
盛り上がりすぎたので6番目のバンドの後に予定していたAnotherの余興時間を先倒しにして間に入れる事にした。
お客さんが疲れ果ててしまいそうだったからだ。
Anotherの余興は主催3バンドがステージに集まり雑談をする。
テレビのトーク番組みたいな感じの事を僕達でするのだ。
司会は余興時間の主であるAnotherのボーカルのゆうじくん。
『さぁ2回目の余興の時間です。
今回の余興を仕切らせて頂くAnotherのゆうじです。』
Anotherメンバーと空彩メンバーが次々とステージに上がってくる。
『No Nameのライブすごかったですね。めちゃくちゃ盛り上がってた。
演奏中に心がけてる事とかはあるのかな?』
ゆうじくんは僕達に質問を投げかける。
『思いっきり自分達が楽しむ事だよ!
あき達が楽しまないとそれを見てる人達も楽しめないじゃん。』
あきちゃんは即答で答える。
確かに打ち合わせをした訳ではないけど僕達はみんな楽しむ事を第一に考えている。
『なるほどね。それはすごく大切な事で当たり前の事なんだけど意外と難しいんだよね。
失敗したらどうしようとか盛り上がらなかったらどうしようとか、雑念が邪魔をしてパフォーマンスを落としてしまう人が多いからね。』
『サラッとやってのけるキミ達がすごいよ。中学生とはとても思えない。
見た目もみんな大人っぽいし意識してそうしてるの?』
質問が続く。さすがベテランだけあってトークも上手い。
『見た目はめちゃくちゃ意識してるよ。中学生が子ども丸出しで見た目を放棄したらやっぱり舐められるし子ども扱いされちゃうもん。
演奏を本気で聴いてもらうためには対等に見てもらいたいからね。
ファッション雑誌を読み漁ったり歩いている人を観察したり、感性を磨くのもライブで人前に立つための必然だと思ってるから。』
あきちゃんはトークだけは本当に大人っぽい。
頭が良すぎるのだ。見た目はめちゃくちゃ若いのに。ギャップ萌え。笑
『要するに人前に立つんだからあらゆる面でお手本にならないとダメだと思ってると。
ダサいカッコして最高の演奏しても良さが半減してしまいそうだもんね。』
ゆうじくんはあきちゃんの意見を綺麗にまとめてくれた。
『空彩は今回のライブの意気込みとかはある?』
続いて空彩に話題が振られる。
『私達は逆に全員就職してて普段働いてるし髪型を含め見た目に限界があるからねぇ。
楽しむ事ってのは私達も共通で同じ考えだよ。』
空彩のボーカルあやちゃんが答える。
『ここは大ベテランだからこそ語れる秘話を聞きたいんだけどねぇ。』
ゆうじくんはあやちゃんにプレッシャーを与えているつもりだ。
『もう引退もちらほら考える老体に鞭を打つな。』
サラッと流すあやちゃんもさすがは大ベテラン。トークも慣れている。
3バンドが集まって20分間ほどの雑談を交わし、フロアの熱狂を覚ますと同時に和やかな雰囲気にリセットする。
余興の時間を取ることにしてこのようにテンションのコントロールが出来るのもすごく良いことだと感じ次回からも取り入れようと決まった。
6バンド目から8バンド目までの演奏が終わり、9バンド目であるAnotherの出番前に最後の3回目の余興の時間だ。
空彩の余興時間、僕達主催バンド3バンドは楽器を持ってステージに集まるように言われていた。
最後の余興は3バンドをシャッフルしてプロの曲をコピー演奏
即興で演奏できる曲を出し合い演奏する。
始めて音合わせするメンバーとの演奏。
今までシュウやゆいちゃん、ノブとの演奏だったものが違う人となるだけで雰囲気が全然違い別の曲を演奏しているようにすら感じる。
僕が演奏した音にあきちゃん以外のボーカルが乗るのも変な気持ちだ。
みんなどう感じていたのかわからないが、即興ライブの割にはお客さんも楽しみ盛りあがった。
5分くらい余興時間が余ったのであやちゃんが僕達に提案した。
『最後にさぁ、No Nameであの曲やってよ。
文化祭ですっごい盛り上げてたアレ。私達実は身内がキミ達と同じ学校に通ってて去年のあの文化祭ライブ観に行ってたんだぁ♪
アレからずっとキミ達の事知ってて共演したかったんだよ。』
文化祭を熱狂させた、学校中に認められたあの曲、僕とあきちゃんが初めて練習したあのちえさんから与えられた課題曲だ。
あきちゃんはいつもの「ニヤリ」の顔で頷く
『よしみんなっ。あき達がまだコピーバンドだった時に1番得意だった曲をやるよ。
びっくりして惚れる準備が出来てない人は聴かない方が身のためだからね!』
あきちゃんの煽りはお客さんのテンションを必ず上げる。
同じ学校の人達で聴いたことのある人達もフロアにいる。
大歓声が沸き起こり僕達に降り注ぐ。
『OK OK。惚れる準備はもう出来たんだねっ。
しっかり楽しんで最高の時間を過ごしちゃおう♪』
ゆいちゃんのハイハットシンバルが鳴り響き演奏が始まる。
CDも販売されている人気バンドの代表曲だ。
曲を知っている人がほとんどで大合唱が起こる。
あきちゃんは文化祭でやったみたいにフロアを煽り、合唱を促しマイクをフロアに向ける。
『さぁ、みんなで思いっきりサビ行くよ〜』
あきちゃんがマイクで歌う音量と、フロアから響く大合唱の音量が大きく混ざり合い最高の熱狂の中演奏はサビに入る。
まるで地響きのようにメロディに力を感じながら大音量の演奏はこの日1番盛り上がっていた。
余興時間が終わり、Anotherが演奏でテンションを繋ぐ。
恐ろしく盛り上がった余興時間のテンションを崩すことなくうまく調整しながら繋ぐあたりはさすが経験豊富なAnotherだ。
僕達だったら上げすぎたりしてしまいお客さんは疲れ果ててついて来れなくなりそうだ。
お客さんの体力を調整しながら上げたり下げたり調整しつつ盛り上げてAnotherの演奏が終わり、最後のトリとなる空彩が演奏を受け継ぐ。
空彩はテンション抑え気味の曲から始め、徐々にペースを上げる選曲だった。
これもトリだからこその選曲なんだろう。
MCも絶妙に挟みながら予定時間ギリギリまで会場を熱狂させた。
こうして僕達3バンド合同主催の対バンは終わりを迎えた。
次回開催日が決まっている事から再度告知をして次回のフライヤーを帰るお客さんに手配りで配ると多くの人から握手を求められた。
『絶対次も来るのでよろしくお願いします!』
『めちゃくちゃ楽しかったよ♪』
『大ファンだからね!次も期待してるよっ』
数々のお客さんから称賛の声をもらい、僕達はやる気に溢れた。
全てのお客さんが帰った後はフロアに集まり集客バックの配布だ。
総来場者数1339人
1400人を超えると入場規制をかけようとしていたそうだ。
僕達の来場バックは79600円
398人だった。あと2人で400人だったので少し悔しかった。笑
もちろん集客数も僕達No Nameが堂々の1位で満足だ。
ただもし仮に、ワンマンライブをしたとすれば、僕達はまだ400人くらいしか集められないと言う事なのだ。
この吉沢さんのライブハウスでワンマンをしようと思えば1000人くらいを入れないといけなくなるのでまだまだ実力が足りないと痛感した。
ちえさん達はここでワンマンライブをやっていたのだと言うので僕達の目標はまだまだ先が遠いんだと感じた。
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