第22話 吸血鬼
—―飛べ――
校舎の屋上に衝撃が走った。
床は砕かれ、人影が校舎から飛び降りるのが見える。
「やってやら!!」
勿論飛び降り自殺ではない。結果的にそうなってしまう可能性は、流石にないか。
白摩はあらかじめ設置していた小さなクッションに着地した。
「逃走経路っていうのは確保しとくもんだな!」
――だろ? 用意はいくらでもしとくもんだぜ。——
白摩が屋上に乗り込む前にしていた準備が役に立ったようだ。
──右に一歩、左に六歩、足を止めてから一つ間をおいてしゃがむ。──
白摩は内なる声だけを頼りに校庭を走り回る。彼には雨のように飛ぶ斬撃が降り注ぐが、彼はそれをスレスレで躱していく。その動きはとても危なっかしく、一つでも足を踏み外せばお陀仏が確定してしまうような状況である。
まあ、これに関してはある意味、内なる声が想定通りであったりする。吸血鬼はやろうと思えば、白摩を気絶させるような威力のここ一帯への全体攻撃など普通にできる。だが、面倒くさいだけ。だからこそ、今の攻撃であってももうすぐ倒せそうだという手応えを与え続ける必要があった。
「反撃の方法はねえのかよ!」
──あればとっくにやっている。今は無理だ。──
「じゃあどうすりゃいいんだよ。助けを呼べばいいか?」
──助けは恐らく来ない。吸血鬼がここを狩場とした時点で人払いの結界が張られるからな。──
「クソが!」
──あ、次は小型爆弾を前に投げてその爆風でバック。その後伸縮棒を足の裏で起動させて大ジャンプ──
避けるための動作はどんどん複雑に、そして立体的になってくる。幸いにも赤﨑小隊に支給される装備は赤﨑というおかしな奴がいる為、このような動作を可能にするだけの性能を有していた。
大きく宙に舞いたがった白摩を狙うように、吸血鬼は斬撃を飛ばす。
「おい、どうすればいい!?」
──さあな、自分で考えてみな。参考になる化け物はいるはずだぜ。──
「小隊長のマネかよ!」
赤﨑特製のミニボムの起爆し、空中を移動する。勿論、彼のように無傷というわけではない。軽い火傷に加え、姿勢の制御が崩れた状態で地面に衝突した。
──打撲に火傷、切り傷や皮が破れての出血。骨はまあ、折れるわけないがそれ以外はボロボロだぜ。──
「黙れよ。うっせえな。指示だけしてくれば良いんだよ。」
そんなことを言いながら、白摩は指示を待たずに攻勢に出る。数十の斬撃も内なる指示なしで、白摩は躱していく。目は鋭く、動きに無駄はない。極限の集中状態といったところか。
ミニボムを踏んで、一気に加速し白摩は吸血鬼の真下に入り、躊躇なく引き金を引く。しかし弾丸は吸血鬼の直前で弾かれてしまう。
──今吸血鬼の周囲には魔術によって球状の防御結界が張られている。お前の銃では突破できないと思え。──
「そうかよ。はじめに言っとけよ。」
――今張られたからな。――
「なら仕方ねえな。」
吸血鬼は飛翔をやめ、その場に落ちてきて防御結界で白摩を押しつぶそうとするが、白摩は地面を転がりなんとか回避する。だが、そこまでであった。
白摩が立ち上がろうとした瞬間、吸血鬼が一気に接近して、白摩の腹を吸血鬼の鎌が貫いた。
――内臓がやられたな。人間なら致命傷だぜ。だが、喜べ。ゼロ距離だ。——
同時に撃鉄が落とされる。
見事なヘットショットであった。放たれた弾丸は眼球を潰し、脳を貫いている。人間相手であれば勝負アリだろう。
――お見事だ。お前はかすり傷を与えることに成功した。だが、それまでだ。——
吸血鬼の傷は一瞬にして元通りになる。
ズボッ―
吸血鬼は鎌を白摩の体から引き抜くと、次は大きく振り下ろし白摩の腕を斬り飛ばす。
そして、柄で思いっきり白摩を殴り飛ばした。投げ捨てられた人形のように白摩の体は地面を転がる。
「ァ、――アァア゛ッ、———」
あまりの激痛にまともに息もできず、思考も回らない。
吸血鬼は鎌についた白摩の血を舐める。
まだ、喉は乾いている。
まだ、腹は満たされない。
吸血鬼は地面を歩き、白摩に近づいてくる。
「—————」
腹を貫かれ、右腕を失った。
白摩の体は動けない。筋肉は断裂して、その機能を失っている。まるで糸を切られた傀儡のようだ。
――このままなら、死ぬぞ——
「————」
――奥の手? まあ、無いわけではない――
白摩は最後の力を振り絞り、声に出した。
「たのんだ」
そして、内と外は入れ替わる。
「任されたぜ。相棒。」
次の瞬間、吸血鬼は本能に従い、白摩から大きく距離を取った。
白摩の体は立ち上がる。
「あー、あー、ハロー吸血鬼。ちょっと選手交代だ。」
筋肉が断裂して動かないはずの部位が何事もなかったのように動いている。
切り飛ばされたはずの右腕はいつの間にか、白摩の体に既に引っ付いている。
「まともにやるのは二回目なんだ。お手柔らかに頼むぜ。」
吸血鬼は自身の優位性がなくなったことを本能的に理解した。
異能が内在するこの世界で赤月白摩は頑張ります。 かざむき @kazamuki
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