第5話 美容室でダンス強要
なぜ、店のみんなが僕を見ている?
僕がハサミを持っていないから?
血のついたハサミを持っていないから?
わからない
わからない
ワカラナイ…
訳のわからない店の状況に、僕の何かが爆発しそうになる寸前、突然、低音がズンズン響いてくるような、何かダンスミュージックのようなものが店内に流れ始めた。
美容師は笑顔を浮かべながら、僕について来いという風にあごで合図を送ると、お店の中央にある、広めのスペースに1人で移動していった。
あれ?もう髪のカットは終わってるのだろうか?
なんで僕が美容師について行かなくてはならないのか?
色々な疑問が浮かんだが、美容師の目には、何か、有無を言わさない迫力があった。
店内の人間全てが見守る中、僕は場の雰囲気に完全に呑まれ、カット用の椅子から立ち上がるとゆっくり美容師の後についていった。
服の上から着ていたビニールカバーが異常に白く感じられ、自分が、まるで何かに捧げられる生贄のように思えた。
何が、どうなってイルンダロウ。
店内に流れる、ドラムの音がズンズン響くような音楽に合わせ、美容師は突然踊り始めた。
不思議なことに、美容院でいきなり踊り出した美容師を見ても、特に違和感を感じなかった。むしろそこで踊ることが当然のようにさえ、僕には思えた。
美容師のダンスは、今時の若者がストリートでやっているようなダンスでとても上手だった。
そしてなぜか、僕に向けて踊っていた。
美容師は踊りながら、しきりに僕に向けて、目で合図を送ってきた。その意図していることは明らかだった。
僕に、一緒にダンスを踊れと合図しているのだ。
本当に意味がわからない…。
僕はダンスなんてやったこともないし、急にやれと言われても、できる訳がないのだ。
しかし、血のついたハサミを持っていない僕は、ここで踊らなければどうなってしまうのだろう?という、わけのわからない恐怖が僕を包み込んでいた。
店の中央で踊り続ける美容師。
同じく店の中央でずっと立ち続ける僕。
そして、無言のまま、無表情でそれを眺める店内の人たち。
みんなが僕に踊れと、無言で要求していた。
というより、僕がなぜ踊らないのかわからなくて、当惑してるようにも見えた。
当惑してるのは僕のほうなのに…。
そんな状況がしばらく続いて、だんだん僕は何もかもがどうでも良くなってきた。
とりあえず、踊ってしまえ。
そうすれば、楽になれる…
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