37 アレはまがいもののマッサージって思い知ったよ。

「なにか言い聞かせてる? パイアお姉ちゃん」

「そ、そんなことはアリマセン」

「なんだい? どうかしたのかい?」

「い、いえいえ」


 言ってみなってグイグイ来るから、言ったよ。ああ、言ってやったさ、脳筋バンザイってなあ!


「だってそこまで頭は回りませんしー!」

「あっはっは、いいさいいさ。裏方でも経験しなきゃ、身に付きはしないよ」

「そうそう。突っ込んでいくのも大事だぜ!」

「ベルグレ、あなたはもう少し考えて行動するように」


 やめてくれ、ホファンさん。それは僕にも効くヤツ。

 あ、ン・シーとサムネイさんにも効いてるみたいだ。

 つまりサンセットでは、ホファンさんの負担は相当なものなんだろうなあ……3人中、2人が考えないタイプなんだし。


「私たちがサンセットに入るのは、相当ヤバイことになりますね」

「うん。5人中4人が考えなしで突っ込むと、ン・シーは判断っ!」

「やはりナシ、が正解ですね」


 ものすごーく、納得されましたとさ。


「それで報酬の件だけどね──」


 今すぐってわけじゃないらしい。スラムを領軍が精査してからになるそうだ。といっても今日には開始されるそうなので、遅くても明後日には振り込まれるだろうってさ。


 マフィアの構成員は、多分だけど壊滅。準構成員とかいうヤツらなら、上が消えればどうとでもなるそうで、スラムの解体や建築に従事させる予定だそうだ。金が入れば文句も言わないってことか。食えなくて悪事の手伝いとかも多いらしい。

 新しい区画ができるし、仕事も増えるなら真っ当に暮せるか。


 そうは言っても、全員が全員ってわけじゃないだろうけどな。そうなったら憲兵のお世話になるんだろう。

 そして僕のお家。領主にはきちんと伝えてくれるそうだよ。とはいえ、あんまり期待するなとのことだけどね。


「わかりました。私ももらえたらラッキーくらいのつもりですし」

「さて、あたしは行ってくるかね」


 何気に長いこと一緒に朝食を取ってたようで、朝ギルドの混雑も落ち着いている。お金を預けて、僕らは帰るか。

 満腹だし。


 金のインゴット1と大金貨8は全部預けておくか。なんせ9個で1800万相当と思われる価値のものだし……持ち歩いてたの正気じゃない…………。

 マジで。

 金貨も半分預けておこう。300万越えてたっ。ヤベェ。


「ン・シー、そろそろ帰りましょ」

「モグー」


 預金手続きを終わらせてン・シーに声を掛ける。お馴染みのモグ返をもらった僕は、謎の幸福感に包まれた。モグカワイイ。


「朝だとガチャで儲けられませんね」

「うん。やっぱり夕方じゃないと、みんなも稼ぎがないっ」


 だよねえ。結構なお金持ちにはなってると思うけど、家を買うということを考えると足りないと思うんだよね。庭付き一戸建ての値段って、なんとなく3~4千万なイメージ。ひょっとしたら安いかもしれないけどさ。


 先は長い。だってマフィア潰れたし。ワンチャン他の街に行ってマフィアの資金源を盗んでくるという案も? 起きてからン・シーと2人で考えるか。なんだかんだ昨夜はいっぱい働いたしな。

 お昼くらいまでは寝ることにして、まずはお風呂に入らないとね。


「さすがに朝からは使えないわよ。昼間で我慢するか公衆浴場に行って来なさいな」

「夜勤は不都合が湧いてきますねえ。仕方ありません」

「途中で気付けばよかったねっ」


 冒険者ギルドから宿までの間に、お風呂屋さんがあるからな。無駄な工程をはさんでしまったよ。でもまあ話によるとマッサージとか脱毛とかもできるそうだし、丁度いいかもしれない。


 僕もン・シーも、ちょいとお邪魔しますよ風に生えてきてるので。カウンターで脱毛とマッサージとドリンクのセットを頼んで、お風呂場に。お風呂屋さんと言うよりスパってヤツかも。


「「あああぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁあぁ」」

「あはは、お客さんお疲れですねえ」


 マッサージを受けながら、あーってしまう僕らにウケてる。揃って言っちゃったから仕方がないかもだ。でも自分らでやるのとは違って、心地良いのです!

 自分らでやると、どうしても夜のフンフン風になっちゃうし……アレはまがいもののマッサージって思い知ったよ。


「徹夜で暴れてきましたのでえー」

「そうー、平和を作るー仕事したーっ」

「じゃあ気合を入れてマッサージしなくちゃ、ですねー」


 そう言ったおばちゃんたちは能力を使った。おおっ!? 魔法のマッサージ屋さん的なヤツか! ホコホコした手が、僕の身体の奥までホコホコにしていく。


「凄く気持ちいいです」

「うん、これは真似できないヤツ!」

「眠くなったら寝てくださいね。疲れが取れますので」

「「ハーイ」」


 と返事をしたあとからの記憶がない。即落ちしたらしい。そしてこのゴッドハンドは、脱毛にも効果があるようで、脱毛ポーションよりも毛の再生が遅くなるって言われた。


「2、3日くらいですけど」

「それでも嬉しいよね、パイアお姉ちゃん」

「ええっ!」


 通ってもいいくらいかも。寝てる時にツルツルになるから、脱毛処理中の強烈な羞恥に襲われないしっ。毎回真っ赤っかになりながらやってるんだよね、僕もン・シーも。


 夜のフンフンフンフンを経験済みでも、脱毛時のアレは別種の恥ずかしみがっ!

 お風呂につかりながらン・シーとも話したけど、ン・シーも賛成の派閥だったので、帰り際に回数券を買っておいた。2回分のサービスが付いてたのでお得~。


 仮眠もとってスッキリした僕ら。やることもなくなったし、中央区で服でも見ようかってことになった。メガネを買ってもいいしね。


「そういえばネイルサロンとかないのかな?」

「あー、なんかなさそうですよねえ」


 爪のケアはスパでやってもらってたけど、ケア止まりだったので疑問に思ったみたいだ。キャラスキンにはそういったものはなかったので、僕も気付かなかったな。

 もしかして商売になるか?


「マニキュアはありますし、一歩先のサービス……フム~」

「デコる?」

「アリだと思います。オシャレアイテムとして、つけ爪があったほうがいいかもしれませんけど」


 なにかしら働いてるからね。たまの休みとかに付けるならいいけど、常にっていうのは受け入れられないかもしれない。フワッとしたアイデアだけど、化粧品を売ってるところも見てみよういうことでアチコチをうろついたよ。


「つけ爪もありませんね。便利そうなんですけど」

「パイアお姉ちゃん、ネイルチップって言ったほうがカッコいい」

「はうっ」


 女子力の差が如実に!

 しかしこれはどうしようもないこと。ネイルチップ、記憶に残そう。


「ネイルチップがないってことは、錬金ギルドで研究してもらう必要がありそうですねえ」

「ホントに始めるの?」

「……それもそうですね。私の目的とは違う方向でした~。メガネ見に行きます!」

「りょーかーい。メガネのパイアお姉ちゃんは新鮮っ」

「何色が合います?」

「んーっとねえ──」


 キャッキャキャッキャ。

 ケーキ屋さんに寄って予約を入れたりしつつ、中央区でデートを満喫した。


「最後に教会に寄って行きましょう」

「うん。お礼は大事っ」


 若いから、ってわけじゃないと思う。昨日もたいして寝てないし、今日だってさっきのスパで30分くらいしか寝てない。なのに元気なままの僕ら。愛し子効果ってヤツだと思うんだよな


 不思議な世界だね。自然に信心深くなってるもん。寄付をしてから神様のシンボルの前にひざまずく。

 遊戯の神様、この世界楽しんでますよ。


「ってエエェェッ!?」


 ン・シーがビカァって光って気絶した。コレ、僕がなって教えてもらった症状と一緒じゃん。ン・シーの能力がアップグレードしたのか?

 とりあえずン・シーをベンチに寝かせる。


「あなた方は寵愛を受けていらっしゃるようですね」

「はい。私たちは2人とも愛し子と言われました」

「そのまま感謝の心をお持ちください」

「もちろんです!」


 僕たちがこの世界で生きていられるのは、神様のお陰だからね。それがなければ会話すら成り立たないだろうし。マジ感謝しかないよ。ン・シーが起きるまで、シスターとそんな話をしてたら、「まあ!」「まあっ!?」って驚きっぱなしだった。異世界人は珍しいよねー。

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