第22話 聖地、ラ・グリシーヌ①

 バルハラ大峡谷の雲河にそびえ立つ、青い花に包まれた巨岩ラ・グリシーヌ。

 飛行船フライハイトは、その周囲で大きな円を描き旋回を始めた。

 得体のしれない客人に、ワイバーン達も驚き様子をうかがいに飛び立って来ている。


 「コルル、起きて。友達がたくさんいるよ」


 『コルゥ〜〜〜』


 貨物室で寝ていたコルルは、まだまだ寝ぼけてウトウトしている。


 『ガコンッ グオォ〜〜〜ン』


 貨物室のハッチが開き、光が差し込んできた。

 コルルの瞳孔が、縦に細く締まる。

 徐々に目が慣れてくると、真っ白な雲河に飛び交う無数のワイバーンが見えてきた。


 コルルの瞳孔が再び開く。


 『アギャー アギャー (ドスドスドス)』


 興奮し足踏みをするコルル。

 野生のワイバーンの鳴き声に興奮したのか、帝国に捕まり改造される前の記憶が呼び起こされたのか、バル・バル・バルーンのワイバーンと出会った時とは、明らかに違った反応だ。


 「うわぁ〜。ドラゴンが、暴れてる〜〜〜」


 「スピカちゃん、大丈夫よ。この鞍にしっかりつかまっていれば、あとはロンが上手に操ってくれるから」


 「仲間がいっぱいいて、嬉しいんだね! さあ、皆乗って。出発だ!」


 ハッチの操作レバーの側で、親指を立ててロン達に合図をおくるベルマン。

 ロンとハナの手をつかみ、コルルに飛び乗るスピカ。途端にコルルは、雲河へ飛び込んでいった。


 「キャーーーーーー」


 スピカの叫び声と共に落下するコルル。

 大きく翼を広げると、フワリと風にのり舞い上がっていく。


 「うわぁ〜〜〜。飛んでる〜〜〜、風が気持ちイイ〜〜〜」


 「スピカ。あんなに叫んで、バル・バル・バルーンに住んでいるのに、飛び降りるのが怖かったの?」


 ロンは、いつかスピカに言われた、無邪気だが意地悪な質問をやり返した。

 ムスッとホッペを膨らますスピカ。


 嬉しそうなコルル。ロンは、しばらく自由に飛ばしてあげることにした。

 ラ・グリシーヌに飛び交う他のワイバーンに、近寄ったり、後付きしたり、興味津々のコルル。

 でも、何故か他のワイバーン達は、皆コルルを見るやいなや直ぐに離れて逃げていってしまうのでした。

 しまいに、元気がなくなっていくコルル。


 「皆、離れていく。恥ずかしがり屋なのかな。」


 「そんなことないよ。スピカもパパとママにつれてきてもらった時は、皆ワクワクしながら近寄ってきたもの」


 「ロン。ラ・グリシーヌの頂上にワイバーン達が集まっているわ。あそこに降りてみましょう」


 ラ・グリシーヌの頂上は平らに広がっており、沢山のワイバーンがくつろいでいた。


 ヒラリと舞い降りようとするコルル。


 『ギャー ギャー ギャーーー』


 一体のワイバーンが気づき威嚇をすると、周りのワイバーン達もつられて威嚇をはじめる。


 『ギャーギャーギャーギャーギャーギャー』


 口を開き鋭い牙を見せつけるワイバーン達に、再び舞い上がりたまらずその場を離れるコルル。


 ラ・グリシーヌの側壁の少しひらけた所へ、ひっそりと舞い降りるコルル。


 『グルルルル………』


 すっかり気を落とし、うずくまるコルル。

 それでも飛び交うワイバーン達は、威嚇を辞めなかった。


 「コルル、可哀想………」


 「同じワイバーンなのに、どうしてかしら」


 「きっと帝国に改造された姿が、異様に見えたんじゃないかな。早く用事を済ませよう。ここにいると、コルルが可哀想だ。さあ、どうする?」


 「そうね。スピカちゃん、スカイエルフはラ・グリシーヌで何をするの?」


 「うん、じゃあ………ついてきて。スピカにはきっと必要ない事だけど」


 空から見た美しいラ・グリシーヌと違い、ジャングルのようにグリシーヌのツルが絡み茂って鬱蒼としている。さらに小さな虫が飛び交い、ワイバーンの獣臭とウ◯コの臭いが漂っていた。

 それでもスピカは、まるで通い慣れた道のように、ヒョイヒョイと頂上へ向かい進んでいく。

 ついていくのがやっとのハナは、息を切らしながらスピカにたずねた。


 「ねぇ………、ちょっと待って。スピカちゃん、こんなに険しい所、よく平気ね。まるで、以前来たことがあるみたい」


 「ハナねー、やっぱりお姫様だから、こういう所ダメなんだね。ここをくぐれば、もう頂上だから、ガマン、ガマン」


 プックリとホッペを膨らますハナに、気を使いなだめるロン。


 自然にできたとは思えないほど、美しいグリシーヌの花のトンネルへ入っていくスピカ。

 青い花の房が垂れ下がり木漏れ日が照らす中、スピカがボソリと話し始めた。


 「昔、パパとママによく連れてきてもらったの。だから大好きな所だったの。でも…、一度全部燃えちゃたんだよ。帝国兵がね、ワイバーンを捕まえに来たの。止めに来たパパも、ワイバーンも、ラ・グリシーヌも、全部燃えちゃったの………。そして帝国軍は、捕まえたワイバーンを使って、ヨルムンガンドを攻めて…。ママ、悔しかったのかな…、帝国に立ち向かって…、帰ってこなかったの………」


 前を歩くスピカ。

 顔は見えないが、肩が小刻みに震えていた。


 「戦争を知ってるスピカって、俺達より年上なの!?」


 空気の読めないロンの質問を、打ち消すようにハナが睨みつける。


 花のトンネルを抜けた先、平らにひらけたラ・グリシーヌの頂上。真っ青な空の下、ワイバーン達が穏やかに過ごす楽園が広がっていた。


 「昔々のお話。スカイエルフが、まだバルハラ大峡谷の底でエルフだった頃のお話。エルフとワイバーンは、ここで出会い惹かれ合って、一つの種族スカイエルフになったの。それ以来、ここはスカイエルフの聖地。惹かれ合ったエルフとワイバーンは、自然と見つめ合い、どちらかが死ぬまで寄り添うつがいになるの」


 振り向き満面の笑みでスカイエルフの慣わしを話すスピカ。ホッペには、朝露のような涙が輝いていた。

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