第11話 コークス隊の追撃

 雲海の世界に昼も夜も無い。

 ただ静けさだけが続く、墜落した飛行船の船室で、ロンとハナはスヤスヤと眠っていた。


 『ドゴーン』


 『バサバサバサ』


 近くで爆発が起きた。

 静寂をかき乱すように、沢山の羽ばたく音が聞こえてくる。


 「わゎー!?」


 「ふんにゅ〜。何〜」


 シーツをまくりあげて、飛び起きるロン。ハナも目を擦りながら目を覚ました。

 飛行船の窓から見えるアバロンの遺跡が、ぼんやり赤く照らされていた。

 慌ててハッチを開け、外に出るロンとハナ。落ち着かないコルルの喉をさすりながら、赤く照らされた方角を眺める。


 『ドゴーン ババババン』


 火器を使った戦闘が起きていたのだ。

 火災が起き赤く照らされた空には、沢山の黒い影が舞っている。おそらく何者かが、目玉の怪物と戦っているのだろう。


 「近い!?」


 「まさか…。帝国兵が、雲海の底まで私を追って来たのでしょうか…」


 「ずいぶん、野蛮な奴等が来たものだ。心当たりがあるのか?」


 マンガンも目を覚まし、外の様子をうかがいにきた。


 「はい…。あの火の手は、おそらく私達を追ってきた者達です。私達が逃げてきたせいで、ドワーフさん達が大切にしてきたこの地を荒らすことになってしまい、申し訳ございません。すぐに立ち去りたいのですが、ベルマンが動けないので…」


 「ご心配おかけしました」


 飛行船のハッチから、ベルマンが顔を出した。


 「修理が、終わったのかい!?」


 「えっ、えぇ〜まぁ〜」


 少し不満げにハッチから出できたベルマン。何故か飛行船の船員が着ていたトレンチコートを羽織っている。


 「どうしたんだ? 左手、どうなったんだ?」


 ベルマンは、恥ずかしげにトレンチコートで隠された左腕を見せた。するとトレンチコートの下から、4本の砲身を束ねた無骨なガトリングガンが出できた。

 上流階級の執事として、優美な紳士のように作られたベルマン。その身体には、あまりに不釣り合いな左腕だ。


 「なっ…、何か…すげ〜な。」


 「飛行船の対空砲を、取り付けてやったわい! 生身の人間なら、肩の関節が外れるほどの威力じゃ。アタッチメント式で、取り換えも出来るぞい!」


 ドヤ顔で説明をするマンガンに、どこか納得出来ていないベルマンだった。


 「ベルマン、素敵! まるで帝国ムービースターの、アーノルド・ストロンガーみたいよ!」


 「さっ、左様でございますか。いや〜、マンガン殿。救けていただき、何と御礼を申せばよいか」


 おそらく帝国領土内で人気のある、アクション映画俳優なのだろう。ハナに褒められたベルマンは、最初の態度とはとってかわり突然有頂天になっていた。


 「ところで、お前達は何処へ行く気なのだ? このまま雲海の底、アバロンを彷徨うわけにはいかんのだろう。あては、あるのか?」


 「地上へ上がる為に、バルハラ大峡谷へ向かう途中でした。このドラゴンでひとっ飛びすればよいのですが、空には凄腕のドラゴンライダーが待ち構えているもので…。とは言え、歩いて行こうにも、目玉の怪物や追手がいては…」


 「うむ。であれば、神の使いについていけばよい。あの龍は、バルハラ大峡谷と雲海の湖を行き来し、餌を探しておるでな。少々危険じゃが、気づかれなければよいのじゃ」


 「あの、デカい龍についていくのかよ…」


 「見て! 影がこっちに来るわ!」


 目玉の怪物の群れが、ロン達がいる飛行船の方へ押し寄せてくる。


 『バサバサバサバサ』


 「キャーーー!」


 「皆! コルルに乗るんだ!」


 『ドゴーン ドゴーン』


 飛行船が、攻撃を受ける。

 帝国軍の兵士が乗る、陸戦ドラゴンのドレイクが押し寄せてきた。その中にコークス隊長がまたがる、一際大きなドレイクがいた。


 「やはりコークス隊が、追跡してきましたね」


 「BBを殺した奴か」


 「ロン。気持ちは分かりますが、ここは逃げましょう」


 コークス隊長が大きく腕を振り、部隊に合図を送ると進軍が止まった。どうやら、こちらに気づいたようだ。


 「やっと見つけたぞ! おとなしく投降し、姫様を差し出せ」


 「テメ〜! しつけ〜んだよ!」


 「オイッ! 歯向かうのか? 脅かしてやれ」


 コークス隊長の合図で、帝国兵は一斉に攻撃を始める。


 『ドンッドンッドンッドンッ』


 飛行船は爆煙を上げ破壊されていき、ロン達は煙に包まれていった。

 マンガンがグレネードランチャーを取り出し、コークス隊に向かい攻撃をする。


 『ボウンッ  バンッ』


 帝国兵の隊列で花火が炸裂し、混乱が生じた。


 「いまじゃ!」


 マンガンの掛け声に、ロンがコルル手綱を引く。


 「ハァッ!」


 「オイッ! 毎度毎度しゃらくさい奴等だ。足の早いドレイクに追わせろ。いいか、ワイバーンの足を狙え。捕らえられなければ、あの広場に追い込め!」


 「ハッ!」


 『ババババン』


 弾丸が周囲の遺跡を砕き、帝国兵が猛追撃をしてくる。

 ドレイクは、陸上での生活に進化したドラゴンだ。足の早さではドラゴンの中でも随一で、あっという間に距離をつめてきた。


 「ロン。もっとスピードを、あげて下さい。追いつかれます。」


 「無茶言うなって! こつちは、4人も乗せてるんだぞ」


 「では、空を飛びましょう」


 「さすがに重量オーバーだって〜! それに暗くて上下が分からない。マンガンのオッサン。さっきの花火を、もう一度くらわしてやってくれよ」


 「………弾切れじゃ」


 「マジかよ〜」


 「姫様。耳をふさいでください。」


 ベルマンが、左腕のガトリングガンを後方に向けた。


 『ズバババババン』


 『ズゴーン ゴロゴロゴロ』


 猛烈な爆音を轟かせ、ベルマンのガトリングガンが火を吹いた。

 弾丸の雨を浴びせられたドレイク達は、次々に転倒していく。


 「すっ…凄いわ、ベルマン!」


 「何、何っ! コルルを操るので精一杯で、後ろが見えない。どうなったの!?」


 「マンガン殿………。コレは、やり過ぎでは………」


 「ガッハッハッハッハッ」


 マンガンは、ベルマンに取り付けたガトリングガンの威力に、大満足のようで声を大にして笑った。

 転げ回る帝国兵を飛び越え、後続のドレイクが追い抜いていく。その際、帝国兵達は意味深な合図を送り合っていた。


 『ドーン ドーン ドーン』


 後続から追撃してきたドレイクが、走りながら火球を放つ。その火球の弾道は、ロン達を飛び越え進行方向の遺跡を破壊した。


 「あわわわわ〜。道が塞がれた!」


 「ロン、あっちよ!」


 ロンが力強く手綱を引くと、コルルが地面を滑りながら向きを変えた。


 「まだ追っかけてくるのか?」


 「ええ。でも、今度のは、ちょっとノロマね」


 「よし! このまま逃げ切ろう!」


 ロン達は、ひた走り逃げていく。帝国兵に仕向けられているとも知らずに………。



 その頃、

 コークス隊長は、ロン達がいた飛行船を捜索していた。


 「隊長。こんな物が」


 帝国兵が飛行船の残骸から、船長達の日誌を拾い集めてきた。

 コークス隊長はパラパラとページをめくり、日誌に目を通す。


 「オイッ! コイツは…、あの伝説のヨルムンガンドの飛行船ではないか!」


 コークス隊長は、くぎいるように日誌を熟読する。


 「本国に、報告いたしましょうか?」


 「………。オイッ…、余計な事はするな」


 「よろしいので?」


 「バカもん! 今は、姫様の確保が最優先だ! 作戦通り、広場に向かうぞ!」


 「ハッ!」


 「フッフッフッフッフッ………」


 コークス隊長は、不気味に微笑みながら日誌を閉じた。

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