第185話 無抵抗
「スピカ……、スピカ・コン・トレイル。たしか編入生で――、君のお弟子さんでしたか」
シモンは小さな声でそう呟いた。彼の独り言に近い言葉を聞き取ろうとするルーナに対して、2人の剣士は容赦なく斬りかかってくる。
「やれやれ……、忙しない忙しない。ゆっくりお話もさせてくれないとはねぇ……」
ルーナは地面からわずか数センチだけ身体を浮かせ、ホバリングのようなに空中を滑って襲い掛かる斬撃を躱す。
「王国軍に任せるとスピカのことは後回しにされてしまうだろうからねぇ。きちんとお話するには今しかないと思いまして……」
「なるほど……、君が最近
ルーナはシモンの言葉によって行動範囲を縛られていた。それが相手の作戦と理解しながらも彼の声が届く範囲で守りに専念している。
「ああ、じれったいじれったい。そちらもここで時間を費やすのは望まないでしょう? こちらは知っていることを話してくれれば引き下がってもいいのですよ?」
ルーナは敵の刃をかいくぐりながらシモンに問い続ける。しかし、そんな彼女に余裕があるかといえば疑問に思われた。
魔法使いであるルーナにとって剣士との接近戦は当然分が悪い。さらに相手は2人、直接的な反撃はないだろうと強気に攻めてきている。
重力魔法を巧みに使って攻撃を躱してはいるが、それをいつまでも続けられる保証はなかった。
当然、シモンもここでルーナを仕留めるつもりでいるのだろう。ただ、彼女が言うように時間をかけること自体に大きな危険をはらんでいるのだ。
「――ならば、ルーナ。君の大事な愛弟子を守るためにも見逃してはくれないだろうか?」
彼の発した言葉に一瞬、足を止めるルーナ。その刹那、凶刃が彼女を襲い、漆黒の厚いローブが切り裂かれた。
2人の剣士はさらに追撃を加えようとするが、ルーナはすかさず大きく距離をとって難を逃れる。
しかし、左の肩を握った手は鮮血に染まっている。彼女の服は黒尽くめのため、見た目には判断しにくいが、それなりの出血があるとみられた。
「ああ……、痛いねぇ。――それでシモン先生? スピカを守るため、とはどういう?」
彼女は真っ赤に染まった右手に一度目をやり、それから顔を上げてシモンを見据えた。
「そのままの意味です。私たちがその気になればスピカ・コン・トレイル、彼女にいつでも危害を加えることができる。彼女を大切に思うのならここは退きなさい。決して悪いようにはしない」
シモンの言葉は続く――、と同時に2人の剣士はルーナへの距離を詰めていく。一方の彼女は右手で左手の肩を抑え、片方の手で大きな杖を握っていた。
そして次の瞬間、そこに深紅の飛沫が飛び散るのだった……。
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