第179話 予感
あまりに一瞬のできごと、そして生を失った男の姿にアトリアは――、近くにいた学生たちも同様に絶句していた。
「――教師がいる前で言うことではないかもしれませんが……、私から助言、いいえ、忠告だけしておきます」
アイラは感情のない声でそう口にしながらアトリアを――、続いてベラトリクス、サイサリーへと視線を走らせた。
「優秀な魔法使いになりたいのなら――、戦場では個人的感情は捨て去ることです。余計な感情は命を無駄にします」
それだけ言うと彼女は学生たちへの興味を無くしたかのように目を背け、教師陣のいるところへと歩いて行った。
◇◇◇
アイラが演習場へ突入し、「傷跡」を倒すより時間は少し遡る。
研究棟の地下を訪れたアフォガード。彼はすぐにその異変に気付いた。そこには隠すつもりもなく明らかに人が踏み入った形跡が残されていたからだ。
『私の消極的な性格はいかんな……。1人のときに限って予想が当たってしまう』
彼は「起源の書」の在処の検討を付けていながらも、それが外れていた場合を考え、人を集めるではなく、一旦自分だけで確認することを選択した。ただ、結果的にはその予想は的中しており、ひとりで来た選択を後悔することとなる。
『問題は――、まだいるのか、否か……』
人の気配、あるいは魔力の気配を探りながら倉庫代わりと化している地下室を進むアフォガード。人の歩いた痕跡を辿り、足を進めるとその奥に下へ下へと続く通路を見つける。
自身の安全を考えた慎重さと、敵に捕まっているであろう学長とシモンのことを考えての急く気持ち、両方にうまく折り合いをつけて足音を殺しつつも速足で彼は進んでいく。
そして彼は気配――、ではなく「臭い」に気付いた。
かすかに表情を歪めたアフォガードは、その猫背の姿勢ゆえか、まるで猫のように俊敏な動きで奥へと駆けていく。
そして彼は、それを目にするのだった……。
魔鉱石のか弱い灯りが照らすそれは、姿よりも臭いの方がより雄弁とその正体を語っていた。
辺りの床や壁には赤黒い汚れが飛び散っている。さらに地面に転がっているのは元々「人」であったであろう黒い塊――、それも2人分。
アフォガードはポケットからハンカチを取り出して口と鼻を覆い、それに近付いていった。彼はあくまでも冷静に――、目の前の状況を確認する。
周囲の汚れからここに横たわる2人はおそらく刃物で斬られたのであろう。さらにおそらくは火の魔法によって焼かれた、と。
争った形跡はほとんどなく2人とも不意打ちでやられたのか? 焦げ跡を見る限りは魔法でやられたというより、斬られて絶命した後に燃やされたと考えるのだ妥当か……。
彼は遺体の傍らにしゃがみ込むと、その衣服の袖口に触れた。
『この装飾――、やはりこの2人は学長とシモン先生なのか……』
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