第168話 手練れ

「いつかの遠征を思い出すなー? ベラトリクス?」


「おうよ! どーいう理屈で魔法が使えねぇか知らねえが、それでこっちがなんもできねぇと思ったら大間違いだってこと教えてやろうぜ、筋肉女!」


 ゼフィラとベラトリクスは互いを鼓舞しながら相手の様子を窺っていた。彼らは力強い言葉を口にしつつも内心は理解している。目の前の敵は4人、いずれも武器を所持している。さらに1人ひとりが訓練された手練れだということを……。


 相手が素人ならいざ知らず、腕に覚えがある者となれば果たして1対1でも勝てるかどうか、と。



「ゼフィラ! ベラトリクス! 僕は無事だ! もうなにも遠慮する必要はない! 思い切りやってやれ!」



 いつの間にか同級生たちの中に合流していたサイサリーが大声で叫ぶ。彼の声を聞いてベラトリクスは小さく口角を上げる。


「――気付いてねえわけねぇだろ、お前が捕まったまんまなら抵抗できねえよ」


「そうそう、そういうこと! ――けど、今ってそれが問題ってわけじゃないんだよなー。このおっさんたち、けっこうヤバめな臭いプンプンなんだよ」




「人質が逃げたか……。自分から捕まりに来て、今度は向こうまで走ってと――、忙しい小僧だな」


 傷の男はこの場全体の様子を眺め、ほんの1秒程度目を瞑っていた。そのわずかな時になにか考えをまとめたのだろう。


「数人残ってさえいればここを出る際に利用できるだろう。面倒そうな奴はここで黙らせろ。下手に時間を使わされる方が厄介だ」


 彼はそう指示を飛ばすと自らも剣を抜いた。しかし、学生の方へ行くわけではなく、以前として正面の入り口付近に陣取ったままでいる。


『こちらの状況が察知されれば外の魔法使いどもが乗り込んでくるかもしれん。悠長なことは言ってられんな』




 シャウラはなにか小さな声でぶつぶつと呟きながら走っていた。その目の前に武器を持った男が迫ろうとしている。


『……シャウラの狙いはわからないけど、あなたを守れば――、勝機はあると思っていいのね?』


 アトリアは剣を手にした相手の前に開手の構えで立ち塞がった。自分がシャウラの壁になる、という強い意思をその目に秘めて。


「……あんたたちなんかより100倍強い人から剣を習ってるの。突破できると思わないで」


 その彼女の気迫が伝わったのか、あるいは敵も相応の手練れゆえにアトリアの構えに只ならぬものを感じ取ったのか、男は彼女と一定の距離をとって踏み込むのを止めた。


『……ハッタリじゃないって理解できたのね。ただ、それが逆に不気味。油断したら危なそう』

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