第130話 知恵比べ

「ハインデル様、遺跡内の部隊へ応援の要請は致しましたが――、一度ここは下がるべきでは……」


 ハインデルの元には各部隊に配布している魔法の写し紙での連絡と、伝令兵からの報告が次々と飛び込んでいた。


『ボールガード卿が思いの外、簡単に抜かれてしまった。まものに多少の知恵あたまがあるのは理解していたが、こうも戦略めいたことをやってくるとは……』


 外の守りにも十分な人員を割いていたハインデル。それゆえに彼のいる本営への襲撃をなんとか防げていた。しかし、敵の進攻は着実に進んできている。


『内部の調査が順調過ぎるとは思っていた。まさか初めから誘い込まれていたのか……?』


 ハインデルは考えた。遺跡内では、分岐を見つければ応援を呼び、各通路を同時進行で調査する策をとっていた。これは見過ごした通路からまものが背後に回り、挟撃される危険性に備えてのもの。


 ただ、それゆえに奥へ進めば進むほど道は枝分かれし、そこに多くの人員が割かれていく。仮に作戦序盤の段階で、敵が想定以上の数で外から襲い掛かってきたとしても、中の部隊に応援を頼むのは容易だ。


 しかし、時間が経過して遺跡の調査がそれなりに進んでいたらどうだろう?


 遺跡内の部隊は多くの「分岐」に遭遇し、各小隊ごとに分かれて行動しているはずだ。この状況で外側の攻撃が激しくなった場合、遺跡内への応援要請はむずかしくなる。情報の伝達に時間がかかり、並列でなくなるからだ。


 遺跡のまもの殲滅――、構図としては、攻める人間側と守るまもの側となる。敵の行動を「受ける」立場のまものが、こちらの動きを見極めたうえで裏をかいてきた。すなわち、遺跡内の守りではなく、逆に外側から襲撃する方に注力してきている。


 まさか、まものがここまで考えて行動しているのか――、ハインデルは戦況を把握しながらこの結論に行き着いた。


『外にも十分な戦力を置いていたが、こちらの想定はあくまで主は遺跡の中。だが、まものは主を外に放った、ということか』


 彼は右手の親指の爪をかじり、珍しく苛立った表情を見せた。元々、中の調査隊と外の警備隊を完全に分けて配置していたハインデル。遺跡内に踏み入った部隊に応援を頼むこと自体、彼にとっては不本意なのだろう。


 しかし……。


「本営の位置は下げん。時間を稼ぐには十分な戦力があるはずだ。とにかく今は相手の足を止めるよう伝えよ」


 ハインデルに退く意思はまったくなかった。多少の想定外はあろうとも、彼の作戦は揺るがない。


『本営が下がれば全体の指揮を下げかねん。王国軍にもオレにも――、敗北はありえん』




◇◇◇




 遺跡内のとある広場で轟音が鳴り響く。その音はずっとずっと奥深くのキリエの居場所にまで響き渡っていた。


「ちょっとちょっと! ここに至る通路ごと塞いじゃうなんてすんごい力技をやってくれるねー。けど――、これはユタっちが頼んでくれたおかげなのかな?」


 キリエの近くには何匹――、何人ものまものがいた。どうやら彼らは彼らでについての話を交わしているようだ。


「――うんうん、わっちら無駄に戦いたくないからねん。ユタっちがつくってくれた時間を使ってここを離れようか?」


 彼の言葉に隣りにいたまものがなにかを問い掛けている。


「あー……、上で戦ってる連中は放っておいたらいいよ、好きでやってんだから。それに――、やり合うだけの策は授けてあげたんだからねん、これ以上付き合う義理はないよ」

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