第123話 暗夜

 周りが暗いと速度の感覚が狂ってしまう。心の焦りもあるのだろう。私は普段の自分よりもずっと速い足取りで遺跡の通路を駆け上がっていた――、いや……、駆け上がっているになっていた。


 幼い頃、自転車で遠出して帰りが遅くなってしまった時、帰りの自転車はいつもよりずっと速いスピードで漕いでいる気になっていた。今の感覚はそのときによく似ている。


 キリエさんに言われた通り、後ろは振り返らないことにした。背中のあたりにずっともやもやした――、不安な気配を感じる。一度後ろに目をやると、その不安は解消されるのかもしれない。

 それでも私はただただ前だけを見つめて走り続けた。ずっと昔に怪談で聞いた、呼びかけられても決して振り返ってはいけない道、の話がふと頭を過ぎる。


 焦燥、不安……、さまざまな悪感情が流れ込み、それらを振り払おうと頭が必死の抵抗をしている。今の状況に無理矢理当てはめるように昔の記憶がいくつも甦ってきていた。


 時間も距離の感覚も曖昧だ。このまま上を目指して走り続ければ本当に出口に辿り着くのだろうか? もしくは、誰かに救いを求めることが……。


 そんな不安が幾度も幾度も頭を過ぎっていた。そのとき、通路のずっと先から大きな音が響いてきた。


 それは破裂音――、いや爆発音と言うべきか。


 本来ならそんな音のは遠ざけたいと思う。しかし、今の私にはその音がなにかの救いに聞こえた。


 きっと――、この音のする先には誰かがいる!




◇◇◇




 カレンとパララは巧みな連携で巨大なまものを討ち取った。一方、後から現れたまものを斬り伏せていくレギル。野性と勘とも言える動きで、襲い来る魔法をかいくぐり斬撃を繰り出す。


 単なる無鉄砲なのか、計算ずくなのか、被弾覚悟の突進も見られるが、そこは後ろに控えるリンが的確にフォローをしていた。



「ちっ! つまらねえな……。デカいのももうくたばってるのかよ」


「レギル。あなたの魔法使い頼りのその戦い方、なんとかなりませんか? 危なっかしいにも程があります」


「お前が退屈しない程度に仕事くれてやってんだろ? ありがたく思いやがれ」


 リンは呆れた顔をして、ため息をつき顔を軽く左右に振った。


『この男の傲慢な態度は今に始まったことでないか……。それより――』


 彼女はレギルから視線を外してカレンに目を向ける。カレンの方も話しかける機会を見計らっていたのか、すぐに目が合った。


「カレン・リオンハート、ここの守りをお願いできませんか? 残念ながらこちらの半端な予備隊よりはあなた方の方が頼りになる」


 巨大なまものや魔法を扱うまもの――、こうした敵が再び現れた場合に、王国軍の予備隊では手に余るとリンは考えた。自分たちの待機命令が解かれるまでの一時、カレンとパララならここを守るに十分な戦力だと。


「うーん……、こっちも今は待機中の身なんだけど、こう厄介な相手がいるとなると他に任せるわけにもいかないんだろうねぇ……」


 カレンはパララに目で意思を確認しながら、ぽりぽりと頭を掻いた。表情から察するにリンの提案をしぶしぶ受けようといった具合のようだ。



「――リン様! レギル様! 本営からの伝令です!」



 そのとき、通路奥から伝令役の兵が駆け込んできた。その様子からリンはなにか緊急性を感じ取るのだった。

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