第118話 連携
『敵は1体……。でも、こっちは1人じゃない!』
パララはあえて敵の目を引きつけるように、カレンの背中から飛び出した。相手の後ろに回り込むかたちで、全力で駆けていく。
カレンとパララが分かれたことで、まものは2人を同時に追うことができない。ゆえに、その視線は背後に回ろうと走っているパララに向けられた。
敵の視線がカレンから外れ、自分に向けられたと察したパララは心の中で呟く。
『おバカさんで助かりました! これで私たちの勝ちです!』
まものは大きな手を広げ、パララの進行するその先へと向けた。
「今ですっ! カレン!」
パララは精一杯の大声で叫んだと同時に、魔法を放つ。それは妨害系の魔法「ブライト」。
理科の実験で誰もが目にするであろうマグネシウムの燃焼。それを数十、数百倍に拡大したような鋭い光が広がっていく。
パララは最初から守りと妨害、ここに徹すると決めていた。隙さえつくれば――、信頼する仲間が自分にはついている。彼女なら確実に仕留めてくれる、と。
カレンは、パララの声を聞いた瞬間、腕で顔を覆うように隠していた。次の瞬間、ここを襲うであろう強烈な光からその目を守るために。
まものが魔法を使ってきた段階で、彼女たちにはある共通認識が生まれていた。
敵には相応の知性がある。
万が一――、人の言葉をまものが理解できるとすれば、作戦を口にするのはあまりに迂闊と思われた。それゆえ、パララは作戦の詳細を決して口にしていない。ただ、彼女の送った「ウインク」こそ、「目を瞑って」の合図。
視線だけのコンタクトで彼女の意図を察したカレンは、パララが自分の背中から飛び出しても止めなかった。相手の目を引きつけ、目くらましを確実に決める。そのあと、必殺の一撃を決めるのが自分の役目。
パララがカレンを信頼しているように――、カレンもまたパララに絶対の信頼をおいていた。
強烈な光を目にしたまものは体を丸めている。ゆえに、直立時より頭の位置が低い。
『このデカさじゃ多少斬っても動けるだろうからねぇ! そのドデカい頭、落っことしてやるよ!』
カレンはまものの首元目掛けて大きく跳び上がる。彼女にしては珍しく、1本の剣を両手で握り、腰を捻って全力の一撃を繰り出すのだった。
◇◇◇
アイラ率いる部隊は、開けた空間に出ていた。遺跡内でこうした広間はまものとの遭遇率が極めて高い。アイラは一旦、ラナンキュラスを含めた仲間3人を通路に残して広間に立っていた。
「アイラ様、気を付けてください! 明らかにまものと思しき気配を感じます! それに1匹2匹とは思えません!」
王国軍の剣士が呼びかけつつ、アイラに近寄ろうとする。しかし、彼女は左手を開いて向け、彼に止まるよう促すのだった。
「私から指示を出すまでローゼンバーグ卿の近くを離れないように。今はそちらの方が肝心です」
ラナンキュラスはこの広間に辿り着くほんの少し前、微弱ながらスガワラに手渡したお菓子に施した魔法の気配を察知していた。
しかし、それは物理的距離が離れすぎているのか、それとも屋内ゆえの物理的な障壁ゆえなのか、正確な場所がなかなか掴めない。彼女はスガワラの居所を察知することに今、全能力を注いでいた。
アイラは頭の中で一旦、ラナンキュラスを戦闘要員から外した。そして、彼女がスガワラの正確な居場所を探知するまでの間、迫りくる敵はすべて自分が排除すると決めたのだ。
そう彼女が決断したとき――、暗闇の奥からにじり寄ってくるそれを察知する。先ほど、仲間の剣士が叫んだように相手の数は1匹2匹ではなかった。
「今は『大事な時』のようなので――、邪魔をしないでもらえますか」
アイラは小さな声で、闇へ向かってそう呟くと――、おもむろに左目の眼帯を外した。
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