第2話 二十歳の誕生日
2日目。
朝起きた綾は自分が死んでいないことつまり生きていることに喜びを感じた。体温があり心臓が脈をうつ。それだけで綾は幸せを感じる。
「お母さん、昨日変な夢見た」
「ん? どんな夢?」
「なんかね、
「一輝君、最近、帰省したらしいわよ。近くだから様子見に行ってみたら?」
母がそう言うと綾は「知ってたなら早く言ってよ」と愚痴をこぼした。
幼稚園からの幼馴染みである一輝に死ぬ前に一度会いたかった。綾は、一輝の家の前まで来て玄関のベルを押した。すると一輝の母親が玄関から出てきた。
「綾ちゃんじゃない? お久しぶり」
「お久しぶりです。一輝君はいますか?」
「一輝? 待ってて今呼んでくる」
幼稚園からの幼馴染みで高校も一緒。卒業後は別々の道を歩むことになったけど、今もそう、たぶん片思い。
約2年ぶりの再会。一輝はどんな反応するかなと綾は思う。
「久しぶり、綾」
「久しぶりだね、一輝」
変わっていなかった。一輝は一輝のままでいた。
会話も比較的スムーズに進み、時には笑みもこぼれた。
一輝に会えて満足した綾は踵をかえし、家に帰ろうとする。一輝に背中をみせ歩き出した時、「綾! ちょっと待って!」と一輝が叫んだ。
そして綾は振り向きざまにキスをされた。
「ち、ちょっと、何!」
「あのなよく聞いてくれ。俺、お前のことが好きなんだ」
綾は戸惑った。どうすればいいか迷った。あと数日で死ぬ私は一輝を好きになってはいけないと思った。
「ごめん……」
もっと生きられたならと綾は悔し涙を流す。
「ごめん……ね」
言って綾は自分の家に走り出す。
「っ!」
一輝は綾の腕を掴む。
「お前さ、なんか隠してんだろ?」
綾はどうしても言えなかった。もう少しで自分が死んでしまうことを。
けど。
「考えなくていい。綾の本当の気持ちを聞かせて」
声を震わせながら、
「私……一輝が……大、好き。大好き!」
綾は後悔をしたくない一心で叫んだ。一輝には迷惑をかけるだろう。けれど、この想いは一輝に必ず伝えたかった。
一輝は綾を抱きしめて「俺は綾を愛してる」、と。
綾の手には指輪が輝いていた。
「一輝君、どうだった?」
「……」
「綾?」
「イケメンだったよ。私じゃもったいないくらい」
綾は少し涙ぐむも、次の瞬間には笑顔を作っていた。
そして母が綾の着付けを終えた。着物を着た綾は嬉しくなり「写真撮って」と母にお願いをする。母は喜んで綾の写真を数枚撮った。
しばらくすると寝溜めしていた父もやって来て3人で写真を撮った。3人で写真を撮るのは久しぶりで綾は少し照れた様子で写真に写る。
「成人おめでとう、綾」
「ありがとう」
あっという間に今日も終わり、綾はゆっくりと就寝した。
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