第112話「悪役令嬢ト別離」


獣形態となっていた俺様の額に装備されている、ヴォーパルソードに仕込まれていたパイルバンカーが『スサノオ』の心臓部を貫いた。

対デコトラというだけあって一撃必殺のはずだ。

『ウガアアアアアアアア!!』

だが、急所のはずのコアを貫かれているのに相手は活動を停止する様子が無かった。杭を両手で握り、抜こうとする動きを見せている。

「まだ動けるのか!弱点貫いたんじゃないのかよ!」


【ご案内します。相手のデコトラコアはこの世界の神ですので、破壊して消滅させてしまうと調和を崩してしまいます】

「む、しかしこの場合仕方無いのではないか?アマテラス様からも致し方ないとのお言葉をもらっているが」

レイハの言葉にデコトラコアとなって俺様の中に収まっている『アマテラス』も同意する意志を感じた。同時に、弟神を死なせる事に対する悲しみも感じる。

【ご案内します。それでもです、今コアを破壊してしまいますと、レイハ様のお兄様まで消滅してしまいます。救えるものは救うべきです】

「【ガイドさん】、救うと言ったってどうするんだ?『スサノオ』はさっき暴走したって言ってたよね?」

俺様は暴れる『スサノオ』を抑え込むが、頭から生えてる杭が突き刺さってるものだから動きにくい!首とか痛いし!


【ご案内します。そのまま抑え込んでいて下さい。只今より対象の修復再構成を開始いたします】

【ガイドさん】がそう言うと、俺様の額の剣を伝わって相手に何かの情報が流し込まれるのが感じられた。

『よし、ならば我も手を貸そうぞ』

え?アマテラスさんまで剣を通じて相手の中に入っちゃった?


『ゴガアアアアアアアア!!ア、姉上エエエエエエェェェ!!?』

『おう、久しぶりじゃの。お前は!いくつになっても下界に迷惑をかけて!』

なんか相手の身体がガタガタ揺れ始めたし!アマテラスさん中で何してるの!? ちょっと!暴れないで!

『1000年前、修行にと人の世界に送り出した意味が無いではないか!挙げ句こんな所に引きこもって!おう、なんじゃそれは』

『ヤメテエエエエエ!見ナイデエエエ!ソレ見ラレタラ死ヌ!魂的ニ!イヤアアアア!!』

今度は痙攣を始めたぞ……。あっちの中で本当に何やってるんだ。あ、死んだように動かなくなった。顔を両手で覆ってるけど、もしかして泣いてるのか?


「引きこもりを相手にしとるかのような会話じゃったな……。引きこもりはアマテラス様の持ち芸のはずなんじゃが」

レイハが誰に言うともなくつぶやいていたが、そんな持ち芸の神様がいるの……?

『ユルシテ姉上、頼ムカラ父上ト母上ニハ ドウカ内緒デ、ドウカ!』

『お主は全然凝りておらぬではないか、しばらく謹慎が必要じゃな、沙汰があるまで大人しくしておれ!』

あ、なんかアマテラスさんが戻ってきた。『スサノオ』はなんかぐったりして動かなくなっちゃったけど、大丈夫なのかな?

『おう、我の弟が迷惑かけてすまぬの』あ、いえお気遣いなく。


【ご案内します。修復再構成が完了いたしました。続いてレイハ様のお兄様を再構成いたします】

すると、運転室内に人の形をした光が発生し、徐々に実体化していく。

「兄……上?」

「レイハ、なのか?大きくなったな?そんな時間が経ったのか」

「いや、これは少々色々あってな……」

現れたのは、レイハによく似て整った顔立ちで黒髪の東洋人だった。今のレイハは色々術を使った影響で数歳ほど年を取った感じになってるもんな。パァン!え?

レイハが兄の前に歩いて行き渾身の平手打ちを入れた。そこはハグじゃないの!?


「すまぬな、私が未熟者だったせいで本当に色々と迷惑をかけた。意識はあったのだがどうする事もできなかったのだ」

「わかれば、良い」

お兄さんの方は心底申し訳無さそうな顔で謝り、レイハはその謝罪を受け入れて終わりだったようだ。これで一件落着なのかな?

【ご案内します。続いてダルガニア皇帝を修復再構成します、はい終わり、適当な所にほうり出しておきます】適当だなおい!

一応、【ガイドさん】も戦争を起こそうとした人はあんまり良い感情を持っていないようだ。そういや他にもいたよな?


【ご案内します。大公爵とエルフはヴォーパルソードでの攻撃の際に、『スサノオ』が弱った隙をついて既に逃げております】

「あやつら、今回の件といいあちこちで悪事をおったようだしの。逃がしたのは惜しいが追わねばならぬな」

「私に魔王薬を渡してきたのも、あのエルフだった。放置してはおけんな」

「兄上はもう国に帰るが良いじゃろ。ウチは武者修行の途中じゃからな。父上と母上によろしく言っておいてくれ」

「そうか、わかった」

兄妹は別れの言葉を交わす。そろそろ空中に浮かびっぱなしってのも何だし皆を降ろさないとな。


「これで終わり、で良いんだよね?じゃぁ帰ろっか」

『待つが良い、こやつとんでもない事を隠しておった』

リアの言葉を遮るようにアマテラス様が話しかけてきた。もうこれ以上のトラブルは要らないんだけどな……。

「アマテラス様、何でしょうか?そのとんでもない事というのは」

『これじゃ』


フロントガラスに映し出されたものを見ると、俺様達よりはるか上空、もう宇宙空間じゃないかって所に何か棒のようなものがあるのが見える。

「なにこれ、棒?」

『比較するものが無いから小さく見えるだけじゃ、とんでもなく長く太い、”御柱”の1本じゃ』

「ミハシラ……?」


【ご案内します。御柱とは1000年前の大戦争の際に、様々なものを封じたものです。そのうちの一本は『神格:スサノオ』を封印していたものですが、封印が解けた時に神格ごと持ち去られており保持していたものと思われます】

『その通りじゃ。こやつずっと隠し持っておってな、先ほどデコトラを吸収して巨大化した時に、大公爵とエルフの小僧にそれを奪われておる』

こんなのをこっそり隠し持てるスサノオが凄いのは置いておいて、あいつら、さっきのどさくさに何を企んでるんだ?二重三重に油断ならん奴らだな。


【ご案内します。この御柱は現在降下中で、このまま行くと地表に激突した際に甚大な被害を出します】

なにそれ怖い、隕石みたいなものだよな?ちょっとどうしようも無くない?

【ご案内します。物理的にはどうしようもありませんので、デコトラガントレットにより転移させるしかありません】

まぁそれしか無いわな、んじゃやるか。

「ちょっと待ってジャバウォック、転移させるのは良いけど、そんな巨大なの殴って大丈夫なの?」

「え?別にリアが心配するような事は起こらないだろ?いつも何の衝撃も無いのに」

【ご案内します。この場合、対象が巨大過ぎるので時間転移して退避する必要があります】

「ほら、大丈夫じゃないか【ただし、制御が難しく何年先に飛ぶかはわかりません、元の時間にも帰れない可能性があります】

えっ、もうこの時代には戻れないかもって事?まぁ別に俺様は異世界に転生してきたわけだし、今更どこに行こうがかまわんか。


「リア、そんなわけだから、ちょっとあれ殴ってくるわ、今まで色々あったけど元気でやれよ」

そう、こんな何年かかるかわからないような事にリアをつき合わせるわけにはいかない、俺様がやらないと。

「……だめ、私も行く」

「え?いやいやいや、ダメだって、いつ帰れるかわからないんだよ?」

「あーしも!あーしも行くからね!٩( ꐦ•̀ з•́)و」

「仕方ないのう、ウチも付き合うぞ、乗りかかった船という奴じゃ」

おいおい、このままだと全員突き合わせてしまいそうだな。


「【ガイドさん】、私とジャバウォック、フォルトゥナちゃんだけ残してみんなを降ろして」

「リア!お主何を!?」

「レイハはまだやる事があるんでしょ?それ忘れちゃダメだよ」

【ご案内します。それでは対象者以外を荷台に確保します】

俺様達以外の姿が消えた、多分後ろの格納庫に移動させられたんだろうな。


「おい!リア!ここを開けろ!お主一人で抱え込む事は無かろう!」

「レイハは、国で待ってる人も、やらなきゃいけない事もあるでしょ?私はそういうの無いから、あと、ジャバウォックと離れるのも嫌だし」

「リア!おい!この馬鹿者が!」

「大丈夫!またいつか会えるから!」

【ご案内します。切り離します】

ゆっくりと何かが離れる感覚と共に、レイハ達の声が聞こえなくなった。多分安全に降ろしてくれるんだろう。


『さて、それでは我らもちょっと相乗りさせてもらおうか』

うお!ちょっとしんみりしかけたのにアマテラスさんまだいたの!?

『うむ、スサノオの処罰もあるからな、こやつはちょうど良いからデコトラ神とさせて、デコトラ達の管理をさせるとしよう』

『チョ!?姉上!?何故儂ガソノヨウナコトヲ!?』

はぁ!?こいつがデコトラ神だったのかよ!?そういやさっきも似た感じの形になってたし、ガラ悪い所も似てたっけ……。


【ご案内します。そろそろ来ます、準備をして下さい】

やれやれ、感傷に浸る暇も、驚く暇も与えてくれないのか、それじゃ、デコトラガントレットを生やして、と。

「リア、来るぞ、一発勝負だ!」

「うん!」

俺様達は、隕石のように迫り来る御柱に拳を構えた。


【カウントダウンいたします、5,4,3,2,1……】

「いっけえええええ!!」

「うおおおおおおお!!」

「がんばれー! ⚑︎(งᐛ )ง⚐︎ファイトーーーー!!!」


次回、最終話「エピローグ」

次回は月曜日夕方の更新になります。

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