第104話「悪役令嬢ト決戦」


転移が終わると俺様達はまたどこかの空中に出た、生身で。

当然皆様は大地の重力という熱烈な求愛によって引き寄せられ、絶賛落下中でございます。

「あのー、レイハ?」

「ジャバウォックー! お主はどうして毎回毎回こうなるのじゃああああああ!!」

レイハのお怒りもごもっともだ。これで3回目くらいだもんなぁ、どうして毎回毎回こうなるんだろう。

【ご案内します。長距離転移は誤差が大きく、転移した後の空間に何かが存在し、重なり合った場合かなり破局的な事になるからです。本来それを避ける為にも可能な限り空中への転移が望ましいのです】

なんだかわからんがそういう事らしい、破局的って何それこわい。

「だってよ」

「今はこうなった原因なぞどうでも良いわ!」


「あーもー! 一旦あーしが受け止めるね!٩( ᐛ )وヤー!」

小さな猫の姿だったフォルトゥナの身体が光り輝き、白い巨大なデコトラの姿になる。

フォルトゥナは荷台の天面を観音開きにして俺様達が着地できるように足場を用意してくれた。

「ほれほれー、みんなあーしに乗ってねー、このまま降りたら良いのー?(੭ ᐕ)?」

全員の足が付くと同時に車体の側面から巨大な翼を展開し減速に移る。まずは一安心か?

【ご案内します。丁度良いのでツインコアドライブモードにさせていただきます。】

リアの鎧となっていた俺様の身体が消え、いつかのように今度はフォルトゥナの車体へと一体化した。

「うわっ! 急に出てくんなし!Σ(OωOノ)ノ」

「いや俺様にも何が何やら」

【ご案内します。車体の主導権を『個体名:ジャバウォック』に移行、ブースター点火いたします】

フォルトゥナの車体が俺様のデザインに変わった。同時に車体後部からブースターのノズルが出てきて点火し、水平飛行へと移った。


【ご案内します。皆様運転席にお移り下さい】

「あー、何なんだよあっち飛ばされこっちへ飛んで」

「文句を言わないで下さいよフェルド、首を突っ込んだ時点でこうなる運命だったんです」

「嫌ならもう降ろしたげるよ?」

「お主は容赦無いの……」

「そういうわけにも行かねぇだろうが」


荷代から通じる扉を開けて皆が口々に運転席に入って来たがお疲れ気味だ。

正直みんなあっち行ったりこっち行ったりと忙しいのは否めない。

「なんというか目まぐるしいな、【ガイドさん】、今どの辺りなんだ?」

【ご案内します。現在はテネブラエとダルガニアの国境手前100kmといった所です】

という事は、まだダルガニア帝国の軍勢はまだここまで到達していないくらいか?

皆やっと一息を付けたという感じだ。


「ねぇ【ガイドさん】、あの子、アデライドちゃんって、ちゃんと送れたの?」

【ご案内します。時間・空間の転移に問題は見受けられませんでした。今から5年後のあの里の近くに転移しております】

【ガイドさん】の答えにリアは安心したようだ、思い切りぶん殴ったもんな……。

「よかった、ひとまずは時間が稼げた、のかな?ねぇレイハ、これで良かったんだよね?」

「それはウチにもわからぬ……、今はあの子の居場所を作るのは難しいからな。じゃが5年先なら多少は落ち着いておろう、今からならいくらでも手は打てる。

おいフェルド、お主あの土地の領主と知り合いのようじゃし、今後この国での政治的なゴタつきを減らす為にも根回しを頼めるか?」

「今のローゼンフェルド侯爵というと、マティアスの奴か、あいつなら魔法学校での友人だよ、話をしておいてやる」

「彼の家は代々武門の家柄ですからね、諜報活動もできる一団を配下にできるというなら協力は惜しまないでしょう。そうなると冒険者ギルドに所属している住民もいそうな気がします。ギルドへの根回しをしておきましょうか?」

「頼む、ウチはギルドに所属して日が浅い上に東方人じゃからな、お主らに頼んだ方が確実じゃ」

意外にもフェルドやマクシミリアンは協力的だ、自国内の事というのもあるのだろうがあの子の境遇に思う所もあるようだ。

それにしても侯爵ってかなり地位の高い貴族だよな?フェルドがそんなのと友人同士って、ますます気になってきた。

が、レイハはそんな事を気にもせずどんどん話をまとめていく。


「よし、『影』、あの里に話を通したいのじゃが、どうすれば良い?いい加減あそこを放置するのもどうかと思っておったからな」

「さようですな、我々としても別に今更敵対する程の遺恨があるわけでないので協力するのもやぶさかではありませんが。

こちらでの活動の足がかりとして使えるかもわかりませんからな」

「よし、ではどれほどの効果があるかはわからぬがウチが一筆したためる、書き加えてくれ」

レイハは懐から紙と筆を取り出すとサラサラと何かを書き出した。漢字のようではあるが読めなくても、それが達筆である事が見て取れる。

手紙が完成するとそれをフェルドに手渡し、フェルドの方もまるでそれが重要な文書かのように受け取った。

二人の堂に入ったやりとりはまるでどこかの外交の場のようだ。

「レイハってなんだか凄いね~、まるでどこかの政治家みたい。どこでそういう事を覚えたの?」

「俺様思うんだけど、いい加減みんなの身元をはっきりさせないか? どう考えても色々事情あるだろこの面々」

俺様の一言で皆は黙り込んだ、これから向かう所を思うと疑問ははっきりさせておくべきだろう。


「じゃぁ私! 私は本名アウレリア・ドラウジネス。テネブラエの公爵家令嬢だったんだけど、色々あって腹立ったからデコトラで城を破壊しまくって国も家も捨ててきたの!」

「いきなりとんでもない事をブッ込んでくるなよ!!」

フェルドがリアの告白に思い切り突っ込んでいた。まぁ普通の貴族令嬢がやる事ではないわな。

「えー、じゃぁ次はウチ、ウチの名はレイハ・コトノハ。日ノ元国の第二皇女じゃ、バカ兄貴が古のデコトラに乗っ取られて国の恥を晒しているのを独断で追っておる」

「お前もお前で何言ってるの!?」

レイハは日本みたいな国の王女様だったのかー。何となく予想していたけど思ったより凄い立場の人だったよ。

「はい、では私の本名はマクシミリアン・ファビウス。魔法を使えるだけの貴族令息なので気にしないで下さい。はいフェルド」

あ、マクシミリアンが先に名乗っちゃった。この中ではわりとインパクトに欠けるな。本人もそれを見越してたな、最後はフェルドか。

「え? 最後俺!? ……あー、俺の名はフェルディナンド・グランロッシュ。グランロッシュ王国の第二王子だ」


「えー? 王子様? って感じじゃないなぁ」

「お主、身元を偽るにしても加減というものがあると思うぞ……、憧れるのはわかるが嘆かわしい」

「いけませんねぇフェルド、私達に負けまいとするのはわかりますが、盛るにしても我が身を省みるべきではないかと……」

「ちょっと待て! 何で俺が名乗ると信じないんだよ! つかマクシミリアン! お前がフォローしろよ!」

【ご案内します。そんな事よりも前方をご覧下さい、敵です】

「そんな事で済まされた!? 俺オチ担当なの!?」

「美味しい役回りでちょっと羨ましいんですけどー。(੭ुᐛ)੭ु⁾⁾」


【ガイドさん】が言うように、前方の空に小さく黒い点が見える。目を凝らしてみると飛行機のようなシルエットが確認できた。……デコトラだ。

「あれは、『スサノオ』? こちらの時間に追いついたか。兄上、決着をつけねばのぅ」

レイハが決意を確認するかのように口にするが、相手が近づくにつれて我が目を疑うかのような顔になる。

運転席に乗っているのは、あの皇帝だったからだ。気を利かせてくれた【ガイドさん】が拡大映像をフロントガラスに映し出してくれるがやはり皇帝だった。

「あれ? あの人見た事あるけど、レイハのお兄さんじゃないよね?皇帝だよね?」

「どういう事だ、『スサノオ』が乗っ取られたとでも言うのか?」

だがリアとレイハの疑問を超える物がその背後から飛んできている。もう一台の黒いデコトラだった。いや、もう一台どころではない、無数とまでは言わないが、何十台ものデコトラがこちらに向かって来ている。

次回、第105話「悪役令嬢ト第二次機傀神之大戦」

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