いわかん

「本当にここなの?」

 案内された場所に着くも、アヤネの死体はなかった。

【いきものが亡くなったら、世界が吸収する】

「……なるほど」

 しきちゃんの説明に、ミミは火の国の出来事を思い出す。

 狼たちに殺された村人たちは全員、地面の割れ目に落ち飲み込まれていたことを。

【しきちゃんがみた金の王、再現する】

 突然、土が盛り上がる。盛り上がった土は、腕、上半身、下半身、足を形作る。

 アヤネの死体だ。土色で本物ではないが……ミミは自分の口を抑えた。


 アヤネは職人の格好をしていた。直前まで武器を作っていたのだろう。

 ミミはとりあえず気になった点を上げてみる。

「なんというか……綺麗だね」

 仮に戦いがあったのであれば、細かい傷が入っているはずだ。

 それもないところから、もしかしたらアヤネは不意打ちを受けて命を落とした可能性がある。

「斬られた断面も綺麗。ちぎられたんじゃなくて、刃物で切られたのかな」

 推理しながら、ミミは難しい顔をする。

 それ以上の感想が出てこなくて、ミミはしきちゃんに助けを求めることにした。

「しきちゃんは、なにか気になることはある?」

 しきちゃんはミミから離れ、ゆったりと空中を飛ぶ。

【今までの侵略者は、人間を殺すことはあった】

 振り返り、ミミを見る。

【でも、死体を飾ったことはない】

「――それだ!」

 ミミは興奮した口調で指を鳴らす。

 そうだ。ミミも同じ考えを持っていた。

 目に入ったいきものを襲う侵略者が、見せしめのようにいきものを晒すのは違和感がある。

 どこか、知性を感じるのだ。

(侵略者が頭を使う?)

 しかし、それでも王であるアヤネが短時間であっさり殺されるのは腑に落ちない。

「精霊さん達は見てないの?」

【……】

 しきちゃんは、言えないことがあると震えるらしい。可愛い。

「知ってるけど、教えてくれないってことか」

 語るに落ちる。

【精霊達がいくら真実を伝えても、人間は信じてくれない。自分で気がつく方が信じる】

 なるほど。一理ある。

「しきちゃんは、侵略者に会ったんだよね?」

【うん】

「侵略者の姿は覚えてる?」

【覚えてる】

 足元にまたぽこりと音を立てて土が盛り上がる。

 土は、みるみる侵略者の姿を模した人形になって。

「……ちいさくて、まるい」

 アヤネが切られた断面を持つ武器を持っているようには見えない。

【ミミ】

 しきちゃんに呼ばれ、顔をあげる。

【金の王と共にいたにんげんたちの話を伝える】

 そういえば、村人たちが話をまとめて伝えてくれると言っていた。

【アヤネは、ミミの武器を作った後、休憩してくると言い外に出ていったらしい】

「不審な人……刃物を持った人は見てない?」

 しきちゃんは数秒動きを止めた後、

【誰も見てないらしい。ずっと鍛冶場で作業していたと】

 ミミはそれを聞いて両手で頭を抱えた。

「あー分からない!」

 髪をぐしゃぐしゃに掻き回し、叫ぶ。

「しきちゃん。侵略者は、その一体だけなんだよね?」

【そのはず】

「どんな力を使ったの?」

【力?】

「うん。なにかあるでしょう?」

 いまいちピンと来ていないのか、しきちゃんは体を右側に折り曲げた。

「あたしが前に会ったのは、雨みたいに槍を飛ばす侵略者だった。その前は、爪が長かったの」

【……】

 しきちゃんは、食い入るようにミミの顔を見ていた。

「しきちゃん?」

【今まで、侵略者について考えることがなかった】

 しきちゃんはくるくる回る。嬉しそうだ。可愛らしい。

【学びを得た。ありがとう】

「……いえ、こちらこそ」

 初めて出会った頃よりもずいぶん親しみやすい。

 でも、なんとなくかしこまってしまうのは、しきちゃんの神聖な雰囲気だろう。

【でも、しきちゃんすぐに燃やしちゃったから分からない】

「……いや分からないんかい!」

 ミミはつい大声を上げてしまった。

「落ち着け、あたし」


 ……一度、整理をしよう。


 アヤネは、休憩で外に出たところで何者かに殺された。

 争った形跡はない。

 アヤネや精霊も気づく間もなく、アヤネは殺された。

 切り口は、刃物のようなもので切られた。

 しきちゃんが気がついた侵略者には、アヤネを殺せるような特徴はない。

 そして、アヤネの首は見える位置に晒されていた。……見せしめのように。


「……人間には無理なんじゃないか?」


 スピルのような風使いが遠くから力を使ったとしても、真っ先に精霊が気づくだろう。

 アヤネはともかく、精霊が気づかないのはおかしい。

「しきちゃん」

 これだけははっきりさせたい。

「アヤネさんが殺される前……つまり、攻撃を受ける前に精霊さん達は気づいたの?」

『ない』

『きづいたら ないない』

 しきちゃんより前に、精霊が答えた。

 ミミはまた考え込むように地面を見る。


「……しきちゃん」


 確かめるように、ミミは口を開く。


「これ、たぶん。侵略者の仕業だよ」

【……】

 宙に浮かぶしきちゃんは、感情が読めない。

「ねえ、本当に侵略者はいな――……」

 ミミの言葉を遮るように、金属に当たる甲高い音が響いた。

「……っ」

 ミミは、動けなかった。

 かろうじて、目線だけ動かせた。

 首元に、刃渡り10センチほどの黒塗りの刃。


 いつの間に。まったく、気が付かなかった。


 すぐに炎を上げて燃やされる侵略者。縦に伸び、横に伸び、やがて火の中に溶けて消えていった。

「……ありがと、しきちゃん」

 しきちゃんがいなかったら、ミミも首ちょんぱされていた。

 ……もしかして、これが侵略者の能力か。

【……初めて見る】

 しきちゃんはどこかを見ている。

 ミミも辺りを見渡すが、どこにいるのかわからない。

 そもそも、気配すら感じない。

「まだ侵略者がいるの?」

【……】

「ねえ、しきちゃん」

【……】

 しきちゃんはずっと地面をみていて、返事がない。

【上】

「上?」

【ミミ、空を見て】

 ミミは、言われるがまま空を見上げる。


「光が……」


 分厚い雲の切れ間から、破片が細かい光となって空から落ちてくる。


(いや、あれは光じゃない……)


 黒だ。目を凝らさないと見えないほど、たくさん、降ってきている。

「なに……あれ」

 絶望がミミの唇から零れる。


「――ミミッ」


 そのとき、サラがソウを背負って走ってきた。

「"穴"は塞いだ。あれを全部消すぞ」

「あれって」


 ――もしかして、あの塵全部!?


「ソウ」

「やってる」

 ソウは目を閉じて集中しているようだ。

【侵略者がたくさんやってきた。小さくて数が多い。武器になる力を持ってるから注意して】

 頭の中に、しきちゃんの声が響く。ソウの力だ。

 サラはソウが全員に伝えるのを待っていたらしい。

「ほら、行くぞ」

 サラの言葉に、ソウはフードを深く被って顔を隠す。

「……行くって」

「ソウの話を聞いただろ。早くしろ」

 そのとき、ミミの頭上に黒い影が広がった。

 みるみる、巨大なハンマーの形を作る。

「――――!」

 落ちてきた、サラが燃やした。

「一体一体、そこまで強いわけじゃねぇ」

 サラは、呆然とするミミに気づいた。

「ミミ」

 ミミは我に返った。自分の両頬を叩き、痛みで混乱を無理矢理正す。

「大丈夫」

 ミミの迷いない声に、サラは表情をわずかに緩ませる。

「ひとつだけ、分からないの」

「なにが」

「どうして、アヤネさんの首があそこに晒されていたのか」

 サラは一瞬、視線を泳がせる。

「……まずは侵略者の排除だ」

 後ろ髪を引かれながらも、ミミは頷いた。

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