つちのくににて - 2

「あっ」

 ミミがあてもなく歩き続けると、土の王が石の上に座って休憩している姿を見つけた。

「ひょっ!?」

 土の王はミミを見て飛び上がった。

 そして、老体とは思えないほど、ものすごい勢いで走って逃げていった。

 ミミは唖然としていたが、

「待てー!」

 慌てて追いかけた。



     ◇



「見つけた!」

 一度見失ってしまったが、すぐに土の王を見つける。

 しかし、ある程度近づくと土の王はミミに気づき、逃げ出してしまうのだ。


 いくらミミの足が速くても、入り組んだ路地に逃げ込まれてしまえば、簡単に見失ってしまう。


 それを五度ほど繰り返した頃、

「なぜ見つかるんじゃ」

 土の王は疑問を投げかけた。


「探し物は得意なんだよね」

 ミミは、スミレの無くし物を何度も見つけてきた過去を思い出す。


 思えば、あれから彼女へのイジメは始まっていたのだ。


 ――女のくせに生意気だ。

 ――名前負けしてんな。

 ――女なのに男より力があるのは気持ち悪い。


 ミミは首を振って、頭から追い出した。

 気を抜くと、嫌な記憶が引きずり出される。


「おじいちゃんの元に行くってことは……つまり捕まえれば良いのかな」

「ピュ?」

 うさぎからは不思議そうな声が返ってくる。

「まあ、良いか。話したいってことだし」


 それから、ミミは何度もドルクを見つけた。


 しかし、やっぱり捕まえられない。


「……あっ」


 そこで、ようやくミミは言ノ葉について思い出した。


 しかし、ドルクは土だ。水であるミミは相性が悪い。


「……うーん」

 見つけることはできる。

 けれど、すぐに気づかれて逃げられてしまう。


 なら、気づかれる前に捕まえればいい。


「水は、常にそばにある」


 ドルクの周囲にある水を集め、増やす。

 ドルクが気づいたようだが、もう遅い。

 そのままドルクを水で包み、浮かび上がらせた。


「捕まえた!」


 ミミはほっと肩の力を抜いたが、

「――って、息ができないか!」

 慌てて水を消す。


 ……しかし、その瞬間。

 ドルクの身体は土塊となって崩れ落ちた。


 ……これは、アースの時にも見たことがある。


「……土で出来た偽物だったんだ」


 ミミは唖然としていたが、すぐに頭を切り替える。


「おじいちゃんのところに行く……」


 精霊の力を借りて場所を探ろう。


 ……土の中。岩の中。隙間。

 火の力で風の動きを感じ取れるのなら、水の力でも何かを探れるんじゃないか。


 ミミは、ひたすら意識を集中させる。


 神社。

 滝。

 ……水神様が、見下ろしてくる。


 ――水は、自由だ。いつでもお主らのそばにある。


 ミミは、目を開いた。


「……見つけた」


 ドルクによく似た人影を見つけた。

 そばに、サラもいる。

 きっと本物の土の王だ。



     ◇


 精霊の力を借りて砂漠を潜ると――不意に空間が現れた。


「わわっ」


 ミミは、なんとか硬い地面に着地した。


 砂漠の中にいるはずなのに砂の匂いがしない。

 足元にあるのは乾いた砂ではなく、硬く冷たい岩盤。

 壁も、天井も、すべてが土と岩でできている。


 けれど、暗くはなかった。


 どこからともなく淡い光が差し込み、地下とは思えないほど、その空間をぼんやりと照らしている。


「ふぉ」


 笑い声が聞こえ、振り返る。


 ドルクは、石でできた椅子に座っていた。

 傍に立つサラの表情は帽子でよく見えない。


「ようやくたどり着けました」

 そう告げるミミは、自分の体が重たいことを自覚する。

 きっと、精霊の力をたくさん借りたからだ。


「いらっしゃい」

 ドルクは自身の白い顎髭を触った。

「どうやら、ほかの王はお主の実力を買っているようでの。少し、試させてもらったんじゃ」

 はあ、とミミはとりあえず返事をした。

(追い返されないってことは……合格なのかな)


「さて」


 ドルクは姿勢を正した。


「この世界はもうすぐ終わるでの」

「……は」


 突然の告白に、思わず声が低くなる。


「その前に、お前さんと話がしたかったんじゃよ」


 どういうことだ。

 この世界は今、ちゃんと守れているはずだ。


「識の王の限界が近い。識の王が力尽き深い眠りにつけば、この世界は侵略者で溢れかえることになる」


 思わず、サラを見た。

 サラは何かを耐えるように拳を握りしめた。


「どうしてそれが分かるんですか」

「年の功じゃよ」

「……」

 どうやら、詳しく話すつもりはないらしい。

 ミミは、それ以上聞くのを一旦やめた。


「聞いてくれるか。年寄りの身の上話を」


 この話を聞いてからでも遅くはない。


 ミミはその場に腰を下ろした。

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