一日に何時間もテレビを観るような子供のことを「テレビっ子」という。

　私の家では朝はNHK、夜はTBSかテレビ朝日がついていることが多かったが、ほとんどがニュース番組だった。母が好んで観ていた刑事ドラマもあったが、子供にとってはあまり面白いものではない。だから私はテレビっ子ではなかった。

　対照的に、私はどちらかといえば「ラジオっ子」だった。ラジオを聴くのが好きだったのだ。

　小学校高学年の頃からラジオを聴き始めた。のめり込んだ番組は、SBC信越放送で土曜日の夜9時から放送していた「坂ちゃんの子の刻倶楽部」。9時なのに「子の刻」（夜11時から午前1時くらい。現代の感覚で言えば「真夜中」だろう）という番組名なのは不思議だったが、理由は分からない。当時はクラスメートにもラジオ好きが何人かいて、翌週は「子の刻」の話題でよく盛り上がった。

　多くのラジオ番組の例にもれず、リスナー（聴取者）からの投稿によるさまざまな「コーナー」が番組の柱だ。コーナーを支えるのは「ハガキ職人」と呼ばれる常連の投稿者で、繰り返し読まれる彼らには自然と敬意を抱くようになった。自分の投稿が初めて読まれた時はうれしかったが、「これでみんなに名前が知られちゃったな」と照れくさく感じた。もっとも、投稿には本名ではなく「ラジオネーム」を使っていたのだが。

　ラジオパーソナリティとリスナーとのやり取りを中心に進行する番組とは別に、私はラジオドラマも好きだった。中学から高校にかけては、NHKの『青春アドベンチャー』をよく聴いていた。とりわけ記憶に残っているのは「ジュラシック・パーク」。調べてみると、これは1993年6月14日から7月2日にかけて放送されていたらしい。映画の日本公開（7月24日）より早いことに驚いた。

　最近ふとラジオのことを思い出したのは、沢木耕太郎さんの『凍』をもとにしたノンフィクションドラマをPodcastで聴いたのがきっかけだ。そこから当時のラジオドラマの記憶が蘇った。そしてあらためて、映像のないドラマの良さを感じた。場面を自分なりに思い描く楽しさがあるからかもしれない。

　驚いたことに、NHKの『青春アドベンチャー』は今も続いているようだ。久しぶりに、いくつか聴いてみようと思う。