陰キャな私が何故か陽キャの仲間にされた件。私、そんなにスペック高くないよ。
榊琉那@Cat on the Roof
いや、どう考えても私、場違いでしょ?
「ナオコ、すっごくいいライブだったね。また一緒に行こ♡」
「う、うん……」
地味なキャラを貫いている私、ナオコが一緒にライブを観に行ったのは、会社でも有名な、これぞ陽キャの見本というべき女性であるシズカ。普通なら出会う事のないだろう二人が仲良くなるなんて、一体、誰が想像出来るのだろうか?いや思わないって。
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思えば昔から陰キャだったナオコ。小、中、高校と友達もいない寂しい青春を過ごしてきた。今はある会社の総務課でジミ~に仕事をしている。
ナオコは、小さい頃は親に厳しく躾けられてきた。別に教育ママというわけではなかったが、ナオコに対しての習い事に関しては、金に糸目はつけなかった。習い事の定番である書道や珠算は当然習わされ、一時期はピアノも習っていたのだった。(ピアノに関しては、ナオコ自身、これは才能のカケラもないなと感じていた為、長続きしなかった)当然ながら学習塾も通わされていた。
更に追加して茶道や華道までさせられそうになった時は、これじゃ体がもたないと本気で親に抵抗したものだ。そのような経緯もあり、他の子とは何か違うと思われて、ちゃんとした友達関係を築く事は出来なかった。変に捻くれた性格になったのは、親のせいばかりではないだろうけど。確かに友達と遊ぶ時間が殆ど無かったから、孤立するのは仕方がなかったかもしれない。それが理由の全てではないが、ナオコは、交友関係の少ない寂しい生活を送ったのだった。
当然、彼氏なんて夢のまた夢。男の子との接触なんて何もなかった気がする。ナオコにとっての恋人は、部屋に大量に置かれている本だったりした。親から勧められた読書が功を奏する事になり、ナオコの読書量は、他の人よりも遥かに多かったとは思う。親が買ってくれる事もあったが、ナオコ自身のお小遣いでも購入はしてきた。ジャンルを問わず読んだ本はナオコにとって、 嘸かし糧となった事だろう。とはいえ、大量の本が恋人だなんて悲しすぎる。
人付き合いは苦手なナオコであったが、それでも成績はまずまず良かったから、そこそこの大学へと通うことは出来た。今思えば、大学デビューするのもありだったかなと思えたが、今更言ってもしょうがない。それは後の祭りというものだ。まぁ、この時期の女子大生っていうのは、派手な人はトコトン派手だったので、ナオコが目立とうとしても無駄だったのではないだろうか。
無難に大学生活を送り、無難な会社に就職出来て、今は無難に仕事をこなしている。それが今の私だ。自分でもそこそこ仕事が出来ると思っているし、特に変化のない状況にいるけれど、まぁ特に不満はないと思う。下手に目立つよりも地味に仕事を熟していくのが最良と思っていたわけだ。
それに対してシズカはと言うと……
入社した時から広報課一番の美人と称され、ちやほやされていた。
誰が見ても可愛いと思える容姿にメリハリのしっかりとした抜群の体、オマケに愛嬌が良く、誰とも仲良く接してくれる。裏表のない明るい性格に加え、ちょっぴりドジっ娘要素まで持っている。まさにザ・陽キャというべき人物だ。ザ・陰キャのナオコとは、まさに正反対だ。あまりにも眩し過ぎて、直視なんか出来ないくらいだ。
当然、男性からの人気も高い。企画課のサユリと営業課のマリナと合わせて三美神とも称されていた。美人同士だといがみ合うんじゃないかと思われがちだが、実は、この3人は仲がよかったりする。3人が集まって微笑みあっていると、眩しいどころか、一種の神々しささえも感じられる。会社の男共からのアプローチは絶えないけれど、成功したものは未だかつて誰もいない。まるで男共を寄せ付けないようなオーラが見えそうなくらいだ。至高の3人なのに、男の影を感じさせない。誰とも付き合ってはいないようだ。やはり理想が高すぎるのだろうか?真相を知る者は誰もいなかった。それとも、人には言えない何かを隠していたりするのだろうか?
そんな接点のなさそうな二人が出会ったのは、本当に偶然の事だった。
実はナオコには、読書以外にも他の人たちには言いづらい趣味を持っている。ナオコは眼鏡をかけていて、見た感じクールで知的なイメージをしているが、実はアニメオタクだったりするのである。きっかけは、自分が読んでいて好きだったラノベがコミカライズされ、その後アニメ化して、それに夢中になった事である。それ以後は、更にアニメに夢中になっていった。特にキャラが熱唱するシーンがあるようなアニメが好きで、好きが高じて、今ではケミカルライト持参でライブに行ったりする事も。ライブで推しキャラを熱心に応援する姿を万が一、知っている人に見られたのなら、ナオコは恥ずかしくて死んでしまうだろう。
その日は推しのアニメのライブイベントのDVDを買いに行くため、アニメグッズを豊富に扱っている店へと向かっていた。グッズ類は、大抵は通販で購入するのだが、店舗独自の購入特典とかがある場合は、直接に買いにいったりもしているのだ。
そこまでいくと、オタクというか、マニアの領域になりそうだ。
「あら?もしかしてナオコさん?」
ナオコに突然、声を掛けた女性がいた。聞き覚えのある声に、もしかしたらと思ったのだが、目の前にいたのは……、間違いない、あの広報課のシズカさんだ。
「ど、どうも……。どうして私の名前を知っているんですか?」
「うん、私、結構用事で総務課に行ったりしてるんだよ。ナオコさん、いつも仕事に集中しているよね」
「はぁ……」
確かに、時々シズカが総務課にやって来る事はあったりする。そんな時、大抵は男共が大騒ぎをするから、無視していつも仕事に集中するようにしていたんだけれど、ナオコが仕事をする姿を見られていたのは意外だった。興味を持たれるような外見はしていないはずだけれど。
「いつ総務課に行っても一生懸命仕事しているから、何となく気になっちゃって。それはそうと、ナオコさんって、今日って暇してるの?」
「ええと、特に予定はない……、かな」
推しが収録されているDVDは、早く買ってみたいと思っているのだけれど、う~ん、仕方がない、DVDはまた今度取りに行こう。遅くなり過ぎなければキャンセル扱いにならないだろうし。
「ねぇ、よかったら今からお茶しない?サユリもマリナもドタキャンしちゃってね、私一人なの。どう?一緒に行ってくれる?いいかな?」
「いいけど……」
どうすればいいのか、軽くパニック状態になっているナオコの返事は素っ気なかった。ちょっと失礼じゃなかったかな?反省。
「やったぁ、一度ゆっくりお話ししたいと思ってたんだぁ。ね、どこ行こう?」
ナオコの素っ気ない素振りを全く気にしていないシズカは、ナオコの両手を握ってブンブンと揺らす。これが陽キャの行動なのか?陰キャな自分にはどう反応したらいいかわからなかった。
「行きつけの喫茶店があるからそこで……」
「うん、そこで構わないよ。時間が勿体ないから、すぐ行こうよ。ねぇ?場所はどこなの?」
真面に思考回路が働いていないナオコは、思わずお気に入りの喫茶店を紹介してしまった。落ち着いて本を読みたい時に利用する、静かな雰囲気の隠れ家的存在。たまたま見つけてからよく行っているが、何で人には教えないようにと思っていた場所を教えてしまったのだろうか?その解答は、純真なシズカの笑顔にあった。その素敵な笑顔を見たら、何もかも納得出来る気がする。それくらい、そのキラキラとした笑顔は、反則級だったのだ。
そして二人は、ナオコ行きつけの喫茶店へと向かっていった。
(一体、自分はどうなるんだろう?)
この先には、予想も出来ない事が待っているんだろうな、と思うナオコであった。
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