とある少女の夏奇譚

葉名月 乃夜

プロローグ

 茹だるような真っ昼間。


 教室は私1人の世界。


 エアコンはある。けれどもつけずに、代わりに窓を開ける。


 蝉時雨と夏風が半透明のカーテンを揺らす。


 校庭で部活をする野球部の声が流れ込む。


 大通りを走る車のエンジン音が微かに聞こえる。


 太陽が雲に隠されては顔を出し、そのたびに世界の明暗が切り替わる。


 騒々しい、なんて言葉だけじゃ片付かないこの目まぐるしい日々の中で、アルバムを開くように過去を思い出す。


 去年の夏を。


 同じくらい暑かった、でも、二度とない特別な日々を。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る