第36話 マシンカット。

「セレナ嬢ちゃん?」


「あんたが厨房に入るって話ならのめないぜ?」


「なんでよ? ジャン。まあそういう話じゃないんだけど」


「そりゃあ、あんたはドーナツを作ることもできる。なんならここにいるだれよりも、綺麗で、均一な大きさに整えたものをつくることができるだろうさ。でもな、数を作るのっていうのは重労働だ。華奢なあんたに手伝わせるのはアランだって望んでいないだろうさ。そうだろ? 兄貴」


「そうだな。俺が抜けるから嬢ちゃんを厨房に、なんて言ったらマロンにも怒られちまうよ。それに、今回の帝都行き、嬢ちゃんにも来てもらえないかっておもってる。どうだろうセレナ嬢ちゃん、何、最初のうちだけでもいいんだ。帝都に一緒に行っちゃくれないか」


 え?


 帝都に?


 ああ、でも……。


 あたしがそう躊躇っていると、アランさんが続けた。


「まあ、今すぐに決めてくれなんて思ってない。ただ、2号店をはじめるのに嬢ちゃんのちからを貸して欲しい、そうおもっちまったんだ。セレナ嬢ちゃんには今までも色々助けられた。そんな嬢ちゃんにこれ以上助けを求めるのもどうかとは思うんだ。でも……。きっとさ、嬢ちゃんは俺にとっては幸運の女神様なんだよ。だからついすがっちまう。無理なら無理で断ってくれてもいい。ただ少しだけ、考えてみてはくれないか?」


 しんみりとそういうアランさん。

 うん、あたしだって、ちからになれるのならなりたい。

 でも、ギディオン様と離れるのは、ちょっといや、だなぁ。

 そんなふうにも考えてしまう。


 でも……。はなし、してみようかな……。ギディオン様に……。


 あ、それよりも今は!


「そうそう。今よりも早くドーナツを作れる方法があったのよ!」


「なに!?」


「どういうことだ? 嬢ちゃん」


 二人とも驚いているけど、否定をするような顔じゃない。

 なにがはじまるのかって、すごく興味深そう。


 二人がちゃんと食いついてくれるなら……。


 あたしはメニューに使ってる黒板を持ってきて、そこに絵を描き始めた。

 お店、開ける時間だから、一応お客さんが来たら接客できるようにショーケースのそばで。



 ◇◇◇


 オープンと同時に一人お持ち帰りのお客様が来たからそのお客様の接客が終わって。


「ありがとうございました」


 って送り出し、アランさんとジャンの方に向き直る。


「ほら、ドーナツって、ベンチで伸ばして平らにして丸いドーナツカッターで抜いて、揚げ網に並べておいてからまとめて揚げるよね?」


「ああ、おおまかに言うとそうだな。クッキーなんかの焼き菓子の型抜きと同じだ」


「うん。それを、こういう機械で直接油に落としていけばどうかなって」


 ドーナツの径ほどのシリンダーに取り付けたホッパー。そこに入れた生地を、シリンダーの内部を移動する器具で押し出すのだ。

 ちょうど一個分、リング状の生地を押し出して油に直接落とす。


 転生前にバイトをしていたドーナツ屋さんでは主流だったマシンカットドーナツだ。

 ハンドカットのドーナツも風情があるし、パン生地のドーナツはカットした生地を加湿器で膨らます必要があるからこんな機械は使えないけど……。

 マシンカットドーナツの利点といえば、いろんな器具、カッターの形を変えたものを仕込むことで、ギザギザなリングドーナツや、ちっちゃい丸いのがくっついたような形のドーナツまで、いろんな形のドーナツが楽しめること。

 ホッパーに入れた生地を重力も利用しカッターでかちゃんかちゃんと押し出すことから、ハンドカットドーナツよりも柔らかい生地にしなくちゃいけないって難点もないではない。

 そして、柔らかい生地は割れやすい。

 ふくらし粉、ベーキングパウダーが膨らむ力に生地が負け、パックリ割れたドーナツができることもある。

 ハンドカットのドーナツだって、昔はよく割れてしまったっていう話だ。

 まあでも、それを逆に強みにしたのが、オールドファッションっていう種類のドーナツ。要は昔っぽいドーナツって意味なのかな?

 でも、割れ目があるから、カリッとした生地と柔らかい生地の部分が同時に味わえて、とても美味しい。

 卵を大量に混ぜることでふわふわなシュー生地を作り、ギザギザの器具で押し出して揚げたものは、フレンチクルーラーと呼ばれるドーナツになる。

 これは卵白の力で膨らんだ気泡がいっぱいの、すごく軽めのドーナツ。

 グレーズを回し掛けしたものもすっごく美味しいし、さっとカットして間にクリームを絞り込んではさめば、シュークリームのような食感になる。

 ほんと、とっても美味しいドーナツになるから……。



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