第十六話 戦闘機部隊

 ごぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!


 凄まじい音が地獄の真っ赤な空を響き渡る。


「目標発見。総員一斉射撃」

『了解』


 何十機もの戦闘機がたった一人を目掛けて、ミサイルを発射する。

 雨あられと降り注ぐミサイル。

 その全てが精密にアラタの半径十メートル以内を狙っていた。

 着弾。衝撃。爆発。轟音。

 地上の荒野を焦土と化していく。


「やったか!?」


 土煙が張れる。

 そこには誰もいなかった。


「木っ端みじんになったみたいだな」

「ああ。どうやらそのようだな」

「パワードスーツ部隊が相手でも敵わなかったとか言うからどんなモノだと思えば、大したことなかったな」

「こっちはマッハ3の最新鋭戦闘機だぞ。それが何十機もあるんだ。勝てるわけないだろう」


 はははは、と笑い合う戦闘機部隊の面々。

 しかし。

 その笑みは即座に掻き消えた。


「お、おい!」

「どうした。幽霊なんてものでも見たような顔して」

「主翼の方見てみろ!」

「何が……、な、にが……」


 そこに、一人の人間が立っていた。

 マッハ3の戦闘機の翼に。

 一人の人間が。


「よくもやってくれたな。お返しだ」


 アラタは剣を振り下ろす。

 戦闘機はそれだけで主翼から燃料を漏らし、爆炎をまき散らして四散した。

 そのままアラタは戦闘機を足場に他の戦闘機に飛び移る。

 

「この調子でどんどん行こうか」

「バレルロールだ! 振り落とせ!」


 即座に対応する彼らも流石といったところか。

 しかしそれだけではアラタは止まらない。

 

「シッ」

 

 剣を振るう。

 斬撃を飛ばす。


「駆る斬撃。斬駆とでも名付けるか」


 戦闘機の一つが両断された。


「クッソ! 俺事やれ!」

「了解!」

 

 レーザーを放つ戦闘機たち。

 その光に戦闘機とアラタが焼かれる。

 地上に向かって落下していくアラタ。


「今だ! 狙い撃て!」

『了解』


 無数のレーザーがアラタに突き刺さる。

 しかし無意味だ。彼は既に黒林檎を飲み込んでいる。

 つまり的の攻撃は無意味だということだ。

 

「シッ」


 鋭い呼気と共に空を踏みしめる。

 アラタの空中機動。超音速に達したソレはマッハ3の戦闘機にも劣らぬ機動力を発揮した。

 ソニックブーム――超音速で空気の壁を破った時に発生する現象――をまき散らしながら、アラタは空を駆る。

 速度を引き上げ戦闘機たちとのドッグファイトへと移行した。


「クッソ! とにかく撃ちまくれ!」


 マッハ3の戦闘機たちも負けてはいない。

 ミサイルを繰り出し、レーザーを放ち、どうにかしてアラタを狙い撃とうとする。

 しかし意味はない。

 なぜならアラタは既に一定の高みへと手を伸ばしてしまっているからだ。


(見える)


 収縮するレーザーの発射口であるレンズに宿る熱量が。


(聞こえる)


 超音速で動き回る、戦闘機の翼の動きが。


(わかる)


 彼らの次の攻撃が、次の動きが、手に取るように今のアラタには分かった。

 些細な動作から次の行動を予測する、予測能力ともいうべきものを今のアラタは身に付けていた。


「さて、それじゃあどんどん狩っていくか」


 速度は既に同レベル。予測能力はこちらが上。

 ならば後は切り刻んでやるだけでいい。

 アラタは剣を振るった。

 斬撃が空を走り、敵を両断する。

 尾翼を足場に宙を舞い、主翼に手をつき体を捻って相手のレーザーを躱す。


「まるで当たらんぞ!」

「化け物か、コイツ!」

「良いから撃ちまくれ! 燃料が切れるまで!」


 戦闘機が縦横無尽に空を舞い、アラタを三次元的に取り囲む。

 再度放たれる一斉射撃。

 ミサイルを解き放ち、それにレーザーを当てることで爆発のタイミングを不規則にずらしていく。

 その爆風をアラタは魔力障壁で防ぎきる。


「当たっても意味がないな」


 超音速の戦闘機に対してアラタは驚くべきことに優勢だった。

 また一機また一機と墜落していく戦闘機。


「あれはまだか!?」

「もう少しで到着するそうです!」


 彼らは援軍を待っていた。

 特別な援軍を。


「来ました!」


 ソレは現世の爆撃機に酷似していた。全面が翼で出来たステルス爆撃機の形に。

 しかしその本質はステルスではない。

 通常の戦闘機すらも上回る圧倒的な旋回性能と航続速度を有している、地獄において最速最強の戦闘機だ。


「エンゲージ」

「ターゲットロックオン」

「ファイア」


 それらの戦闘機から、莫大なエネルギーが解き放たれた。

 レーザーと化したソレは、光速でアラタに到達し、彼の体を焼き払った。


「ぐぅぅぅぅぅぅぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!???????????????????????」

 

 全身が炭化し、彼の肉体が悲鳴を上げる。

 これまでの魔力によるレーザーではない。電力による、本物の光速の攻撃だ。

 アラタは、その一撃をもろに食らってしまった。

 落下していくアラタ。

 再生現象で炭化した皮膚が剥がれ落ちていくが、それでもかまわず彼らはレーザーを放ち続けた。

 地面に落下し、炭化した体が飛散する。

 即座に再生が始まった。


「くっそ……」


 首だけになったアラタはうめきながら、再生しきるのを待つ。

 しかしそこに光速のレーザーが突き刺さった。

 再度炭化をしていく自身の体。

 相手はこのままレーザーを放ち続けて、ダメージを与え続ける気だ。アラタの正気が消えるまで。


 しかしそれに対する対抗策はすでに用意してある。


「アポトーシス!」


 自爆。

 肉体の魔力を全て解き放ち、爆発させる。

 その爆破の威力はキノコ雲を作り上げるほどに高まっていた。

 その爆破の衝撃でレーザー攻撃が一瞬止む。


「今だ!」


 アラタは跳躍する。

 キノコ雲を引き裂き、超音速で大気の壁を打ち破り、肉体を弾丸とする。

 アラタは最新鋭の戦闘機の主翼をぶち抜いた。

 

「畳み掛ける!」


 アラタは加速する。

 主翼を足場にピンボールのように跳ね回って、一つの弾丸と化し、跳弾し続ける。


「すべて落とす!」


 その心意気のままに彼は大空を駆けまわって、敵の攻撃をかいくぐり、足場たる主翼に穴をあけていく。

 即座に漏れ出す燃料がスラスターに引火し、戦闘機は炎に包まれる。


「行ける!」


 アラタは勝利を確信した。

 その勢いのまま、剣を振るい戦闘機を切り刻んでいく。

 未だ戦闘機は爆破の衝撃から立ち直ってはいない。

 その隙をアラタが逃すはずもなかった。

 全てを切り刻むべく、アラタは剣を振るい敵を切り刻んでいく。

 ひたすらにただ実直に。


 そして。


「ようやく終わったか」


 地上に降り立つアラタ。

 その周囲には無数の戦闘機の残骸があった。

 アラタは、安堵の息を吐こうとして。


 固まった。


「なんだ、あれは……」


 彼の視界に移ったモノとは。

 陸上を征く巨大戦艦だった。

 そしてそれらの戦艦の砲が、アラタを狙いを定める。

 一斉射撃。

 砲口の付近に立っていれば、その余波だけで死にかねない威力の砲撃がアラタに向かって解き放たれた。


「なるほど――」


 アラタは斬撃を解き放つ。

 それだけで彼に目掛けて放たれた全ての砲弾は両断された。


「――最終ラウンドってわけね」

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