とかく親というものは

小烏 つむぎ

第1話 あたたかいもの

 わたしは幼いころ、それはそれはいい匂いのあたたかいものを持っていた。何か辛いことがあってもそのあたたかいものに抱きついて優しさにくるまると、辛かったことは遠のいて涙は乾き世界はすべて幸せな色に満ちるのだった。


 そのあたたかいものとは、母である。


 母はいつも台所に居たわけではないが、なぜかいつも美味しそうな匂いがしていた。美味しそうな匂いに混ざる母自身の匂いは、わたしにここが安全な場所だと告げていた。


 しゃがんだ母がわたしの名前を呼び両手を広げてわたしを招く時、少しあかぎれのある手でわたしの頭を撫でる時、どうしたのとわたしの顔を覗き込む時。わたしはわたしがとても大切な存在なのだと思えるのだ。


 母がわたしを見て笑ってくれるのが好きだった。わたしは母が大好きだった。

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