異世界転移したくないから学校を休んだ
3pu (旧名 睡眠が足りない人)
プロローグ 異世界転移したくないから学校休んだ
「……ズズッ。よし! ッ、ゴホゴホ。オェッ、し、死ぬ。ゴホゴホッオーエィ! 」
親が仕事に行って、一人になったところで俺こと
理由は学校を休めたから。
これだけ聞くと、何処にでもいるただの学校嫌いに勘違いされるだろうが、俺は普通に学校が好きだ。
まぁ、毎日何かしら授業で課題を出されて怠いとか、数学の禿野が問題を間違えるとネチネチ嫌味を言ってきて面倒だとか、不満は勿論あるが。
学校を休みたいと思うほどではない。
行きたくねぇと口では言いながら何だかんだ学校には行く。
何故なら、学校には仲の良い友達が居てそいつらと馬鹿話をするのは楽しいし、クラスの美少女達が百合百合しているのを見るのはまさに至福の時間と言える。
そんな何だかんだ楽しいスクールライフを送っている俺が、どうしても休みたかった理由。
──それは
「異世界転移して魔王討ば──ゴホッカハッ! とか無理。水洗トイレとかスマホの無い世界に行くとかマジむ──クッション! 」
──六月六日の今日この日に俺が所属しているクラスが異世界転移することを知っていたからだ。
えっ?何でそんなことを知っているのかって?
それは俺が転生者だからだ。
学校の帰り道に運悪く刃物を持った不審者に出会って殺され、気が付いたら前世と同姓同名の赤ん坊になっていたのである。
何処となく見たことのある
高校に入学してすぐ、自分の教室に足を踏み入れた瞬間に何故自分は見たことがあったのかを理解してしまった。
なんと、俺のクラスメイト達が何と前世読んでいた『一般職でも世界を救えますか?』というラノベの登場人物達だったのである。
いやぁ、当時は本当に驚いた。
そして、喜んだ。
だって、自分好みをした元二次元美少女がいるんだぜ?
上がらないわけがない。
当然、ヒロインちゃんとのイチャイチャスクールライフを想像した。
が、その想像の途中で一つ重大なことに気が付いてしまったのである。
(このままだと俺は異世界でモンスターや悪意を持った人間と戦わなければいけなくなるじゃん)
そう。
このクラスに通うということは、俺も彼らと同じように異世界へ転移することを意味する。
はたして、現代日本に慣れきった俺が果たして異世界でやっていけるのだろうか?
否、無理である。
先ず、俺達が転移させられる世界は科学技術が全く発展していない中世ヨーロッパくらいの文明の異世界。
そこには当然、水洗トイレもなければ電化製品もないし、肌触りの良いティシュやトイレットペーパーもない。
ゲーム機だってスマホ(fanz○)だって使えない。
そんな不便に塗れた生活に、前世含めて三十年以上快適な日本で生きてきた俺が耐えられるはずがないのである。
何より、前世で殺された俺は誰よりも殺意を向けられる恐怖と、刃が自分の身体に突き刺さる燃えるような痛み、血と共に大切な何かが失っていく喪失感を知ってしまっていた。
いくら多少の力を神様から与えられるとはいえ、あんなもの二度と経験したくない。
そんなわけで、俺は入学早々に絶望の淵に突き落とされたわけだ。
あまりのショックでその日は早退し、土日の間は完全に引き篭もって色々考えたが、中々答えは見つからず。
憂鬱な気分で迎えた月曜日の朝。
俺は先生から渡されていた日程表を見た瞬間に電流が走った。
『あれ?確か、アイツらが転移した日って六月六日だったよな』
なんと、普通なら絶対に思い出せないような冒頭の一文を奇跡的に思い出したのである。
それにより、俺の脳は一気に活性化し、とある作戦を思いついたのだ。
(異世界転移する日に学校を休めばいいんじゃね?)
と。
うろ覚えの知識だが、異世界の魔法使いが発動した召喚魔法は教室にいる全員を呼び寄せるものだった。
つまり、教室外にいれば俺は異世界に転移せずに済む。
が、タイミング良く召喚される前に教室を出ておくことは難しいため、俺はそもそも学校を休むことにしたというわけである。
勿体ぶってた割にすることがしょうもないって?
いやいや、これがマジで大変だったんだぞ。
確実に学校を休むべくここ一週間水風呂に二十分ほど浸かり、体調が悪い友人の家にお見舞いと称して押し入ったり、あえて普段使わない満員電車に乗ったり、病院の近くでマスクをせずにティッシュを配ったりしたのに、運命力的なのが働いているのか昨日まで全く熱が出なかったんだから。
だから、昨日は最終手段として徹夜し、その上で咳をしている人がいれば近くで深呼吸しに行き、賞味期限の切れた肉で焼肉をして、朝になるまで冷房を最大限まで下げて、裸で夜を越したのだ。
おかげさまで、体温は39℃を超え、腹は下りまくり、鼻水はだらだら、顔面蒼白と誰がどう見ても完璧な重症患者が誕生した
正直、殺された時とは別ベクトルで辛かった。
だが、その甲斐あってか俺は運命の強制力に打ち勝ったのだ。
褒め称えて欲しい。
「ゴホゴホッ!オェ!あー、取り敢えず解熱剤と咳止め飲んで寝よ」
しかし、そんな喜びも束の間。
身体が限界を迎えた俺は、親が用意してくれたゼリーと一緒に薬を飲み込み、意識を手放すのだった。
◇
一週間後。
「あ〜学校行きたくねぇ」
ようやく体調が回復した俺は緊張した面持ちで学校に向かっていた。
理由は簡単。
異世界から帰還してきたクラスメイト達に馴染めるか不安だからだ。
俺にとっては一週間しか経っていないが、彼らはこの世界に戻るため少なくとも二年以上は異世界で過ごしている。
原作が完結していなかったのでもしかしたらもっとかもしれない。
そんな長い時間苦楽を共にしていれば、クラスメイト達の殆どは
自業自得とはいえ、そこに入っていかなければならないと思うと正直不安で仕方ない。
気分は完全に転校生だ。
(上手くやっていける自信がねぇ。どうせ皆んな俺のこと覚えてねぇだろうし。残り半年以上は教室の端で静かに過ごすしかねぇよな)
俺は道端で盛大に溜息を吐き、重い身体を引き摺りながら高校へ向かった。
三十分後。
教室の前に俺は到着した。
正直ドアを開けたくない。
が、開けずにここで固まっているのもおかしい。
(えぇい!ままよ!どうにでもなれ!)
結局、周りから注目されるのを嫌った俺はそーっと後ろのドアを開けた。
そのまま、誰にもバレないよう自分の席に向かおうと一歩踏み出したところで、教室にいた全員の視線が俺に集まった。
流石は異世界で長年戦っていた歴戦の戦士達だ。
気配察知はお手のものらしい。
(最悪だ)
ひっそりとクラスメイトの一員として振る舞おうと考えていた俺は、初っ端から作戦が瓦解してしまったショックからその場で固まる。
そんな俺をクラスメイトは何故か無言で凝視してきて。
数秒か、数十秒か、数分かは分からない。
とりあえず、俺にとっては永遠にも感じるような地獄の時間はとある少女が立ち上がったことで終わりを迎えた。
その少女の名前は
作中で最も人気があったヒロインであり、俺の最推しである聖者様だ。
聖さんは豊かな亜麻色の髪と大きな胸を僅かに揺らしながら、優雅に俺の元までやって来ると、何故か目尻にうっすらと涙を浮かべた。
そして、何かを発そうとして息を呑み、それを誤魔化すようにくしゃくしゃの笑みを浮かべた。
「会いたかったよ。いぶ──物部君。元気になって本当に良かった」
そう言って、彼女は俺に抱きついてきた。
「は?」
あとがき
昔の作品のリメイクです。
GAコンテストに出すならやっぱこれかなということで、よろっぷ。
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