第8話 無敵のじぇーけー 神宮美心

「なぁ。やっぱり昨晩妾になにかしたじゃろ?」


「だから、なんもしてないんだって」


「いや、絶対になにかしたはずじゃ。それとも、寝ていたはずの妾の体がひとりでに動いて机に突っ伏したとでも言うのか?さすがにそこまで寝相が悪いわけはないじゃろうて」


 神宮さんは、朝起きてからずっとこの調子で俺に聞いてくる。どうせ憑子さんの話をしたところで信じてくれないだろうしと思いなにも言わないが、そろそろめんどくさい。


「じゃあしたって言ったらどうすんの?」


「・・・お主、本当になにかしたのか?まさか、エッチなこ―――」


「してねぇよ!なんもしてないから!ただ聞いただけじゃん。そもそもあんたの貧相な体になんて興味ないから」


「なっ!なんじゃと!興味ないという割には、この前妾の胸を見た時は顔を赤くして興奮していたじゃろ!」


「何言ってんだ!興奮はしてねぇよ!」


「見たって事は否定しないんだな」


 神宮さんとの言い争いの途中。後ろから声をかけられて振り向くと、そこには駿が立っていた。なんでいつも言い争ってる時にいるんだろう。タイミングよすぎないか。


「ってか通学路の真ん中で、胸を見たとか興奮してたとか大声で言うの辞めろよ。周りから見られてるぞ」


 駿に言われて周りを見ると、俺たちを見つめる無数の目。その視線から逃げるように、自分の目を地面に向ける。


「今日も仲良く登校してるかと思ったら、なんでいつも言い争ってんだよ」


「いや、いつも言い争ってる時に来るのは駿のほうだろ」


「仲良く登校って部分は否定しないんだな」


 こいつ。もういいや。仲良く登校してるって事で。

 そう諦めてからはぁと短くため息をつく。


 雑談を交えながら三人で歩いていると、今は全焼してしまった神宮さんの元の自宅、もとい神社の前の横断歩道にさしかかる。

 それと同時に数メートル先を歩いていた学生の話が聞こえてきた。


「そういえば2年くらい前にこの横断歩道で事故があったよな」

「そんなこともあったな。確か女子高生がトラックに跳ねられたんだっけ?」

「そうそう!それ!でも不思議なことにその女子高生はほぼ無傷だったって話だぜ」

「まじかよ。無敵のJKじゃん。かっけぇ」


 人がトラックに跳ねられたって話なのに、心配よりもかっこいいが勝つのはどうなんだ?とは思うもののわざわざ口には出さない。

 俺からすれば知り合いでもない学生の話なんて、きっと学校に着く頃には忘れてしまっているだろう。しかし、この話に過剰に反応している人物がいた。


 それは隣を歩く自称神様だった。


「今の聞いたかの?無敵のじぇーけーと言っておったぞ!かっこいいとは照れるのぉ」


 頬に手を当て、嬉しそうにニヤニヤしている神様に、素直にはぁ?と一言。

 すると神宮さんは、俺にキョトンとした表情を向けてくる。


「いやいや、なんで神宮さんが照れてるの?意味がわからないんだけど?」


「なにを言っておるのじゃ?この横断歩道でとらっくに跳ねられた無敵のじぇーけーは妾のことじゃよ?」


「「はぁ!?」」


 俺と駿は声を合わせて驚く。その反応をみて神宮さんは、あれ?言ってなかったかの?などと言って笑っている。


「待て待て。そもそもおかしいだろ。トラックに跳ねられたのは女子高生だろ?神宮さんも俺もまだ高一だし…」


「本当じゃ。妾は今年から高校に入学しただけで、年齢はお主らよりも上だしのぉ。神様じゃから」


「こんな時までその設定だしてくるのかよ」


 駿は神宮さんの不思議な力を見たことがないからか、彼女の神様発言を痛い設定だと思っているようだ。俺も神様だと信じている訳ではないけど。

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隣の席の自称神様な美少女の家が無くなったらしいので、同居することになりました ゆとり @moon1239

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