書きたいものの話

 人生で一度言ってみたいセリフの一つに

「オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」

 があるのでいつか小説の登場人物に言わせたいのだがこういうのって権利的にどうなんだろう。

 文脈無視してもパロディとかオマージュになるんだろうか。

 そもそもいい年こいた大人なのにいまだに「『オレじゃなきゃ見逃しちゃうね』って言ってみたい」という願望を持っていていいものなんだろうか。



 いつか書きたいキャラクターの一つが「天才ハッカー」。

 が、天才を書くのもハッカーを書くのもたぶん普通に難しいんだよな。

「天才ではない平のハッカーです」

「平のハッカーって何?」

 みたいなキャラもありかもしれないが、どのみち文章だけでハッキング場面を書ける気がしない。

 あとやっぱりいい年こいて天才ハッカーに憧れてていいんだろうか。



 他に、同じようなノリで書きたいキャラクターが「情報屋」というのもある。

 いや、情報屋ってなんだ?

 イメージだけど、主人公が知りたい情報を掴んでて「いくらなら教えてやる」ってふっかけてくる謎めいたキャラクターですよね。無口だけど油断のならない目つきをしていて、普段は下町に潜んでいて、実は顔が広い男でしょ。ちょっとした過去とかもあるでしょ。それ普通になりたいんだけどどうやったらなれるんだ。

 情報という形のないもの、それも相手に内容を見せずに値段をつけるの絶対難しいだろうな。

 もし私だったら、もったいぶって値段ふっかけて教えて「それは知ってる」って言われるのが怖くてたぶん小出しに教えちゃうし値切りに負けちゃう。

 書けなそう。



 もうちょっと具体的に考えてる書きたいものの話。

 社会的な強さと肉体的な強さで上下関係が逆転する二人組。


 例えば、社会的に地位のある者と雇われボディーガード。

 これはグリーン・ブックという素晴らしい映画がある。黒人天才ピアニストと腕っぷしの強いイタリア系アメリカ人の運転手兼ボディーガードのバディ物だ。あの二人は、わかりあえなさみたいなのものの描き方が本当に良かった。思いやりや友愛では解決できない世界の違いが美化せず描かれていた。それでもなおその相手だからこそわかりあうものを見つけるとき、その二人にしかない絆があるんだろう。


 もう少しファンタジーなら、名家のご令嬢に買われる男、とかも良い。

 最近「雪と墨」という漫画を読んだ。

 故郷の村を皆殺しにした大罪で処刑されようとしていた男を、名家を追放された令嬢が買う、という始まりなんだけどそんなの好きに決まってるじゃないですか。

 この作品は恋愛になるけど、ならなくても良い。むしろならない方がいい場合もあるな。完全な主従関係であり、感情以外のところで信頼がある二人組なんて色恋沙汰よりエモいだろ。

 肉体的に強く社会的に弱い方が、肉体的には弱い方に絶対的に忠誠を誓っていてほしい。

 お互いに自分の方が身分が上だから/下だから相手のことを必ず守るし、お互いに相手がいなければ自分は死んでいたと思っていると良いし、お互いに自分なんていなくても相手は生きていけると思っていてほしい。さらに好みを言うと肉体的には弱い方が精神的には強い、がいい。


 これはファンタジーじゃないと難しい。現代社会でそこまで精神的に結びつく主従関係がなかなかない。ワークライフバランスとかあるからな。働き方改革とかもあるからな。

 一番近いのが先輩のこと超絶リスペクトしてる後輩くんなんだけどその精神はただのヤンキーだし、ヤンキーなら肉体的に強くないとすごい先輩にならなさそうで、上下関係が逆転する構図が思い浮かばない。



 書きたいものを書くのはむずかしいな。人生経験とかでもなんとかならなそう。

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