さんざめく思慕のヴァルダナ
kanegon
▼序
▼序
玄奘三蔵法師は頬を伝う汗を感じつつも、普段以上に意識して背筋を伸ばした。汗の理由は天竺の暑さのせいばかりではない。偉大な王に面会する緊張も含まれていた。これから会うハルシャ・ヴァルダナという王は、どのような人物なのか。
各地に諸侯藩王が乱立する群雄割拠状態の天竺にあって、天竺北部の大部分を統一したという、言うなれば天竺で最も高い実力を持った大王、天竺を代表する王者である。
「法師様、こちらが謁見の間でございます。こちらでハルシャ王陛下とラージャシュリー様がお待ちでございます」
ここまで案内してくれた近侍の者に礼を述べて、玄奘三蔵法師は謁見の間に入った。
天竺北部で最も強大な王の居城とはいえ、王宮自体はさほど大きくはなかった。だがその分、内装は豪華だった。謁見の間の奥には、護衛の兵士たちに囲まれて厳めしい男が玉座に腰掛けていた。その隣の小さな椅子に一人の婦人が並んで座っている。
「法師殿、よく来てくださった」
「こちらこそ、お招きいただき、恐縮至極でございます」
挨拶を交わした後の会話も玄奘三蔵法師にとって心に残るものだった。特にハルシャ王が十四歳だった頃の想い出は、語る本人にとっての思い入れの大きさが伝わってきた。
大人、それも強大な権力を持つ厳めしい王となった現在から、若く未熟だった少年時代の自らを懐かしく振り返る目線は、暖かくも優しいものだった。
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