第19話後編:女騎士の苦悩
ディアルグ副騎士団長が語ったのは意外で、残酷な事実だった。
デイヴ・ルートヴィッヒという貴族生まれの騎士が騎士団内の組織改善を目指したお父様を目障りに思い、わざと、危険なダンジョンに誘き寄せ、魔物の仕業と見せかけて、暗殺していたこと、
そして、その男が現騎士団長に就任し、怪しい金策を行ったことだった。
それを聞いた私は憤りで顔を真っ赤にし、感情的に立ち上がった。
「なぜ、お父様を殺したその男が裁かれないのですか?」
「奴は証拠を未然に揉み消し、王国の司法にも賄賂を渡して、無実の罪を得て、国王や民衆さえも欺かれた! 奴を騎士団から、王国から、追放し、彼らの目を覚まされるには騎士団員として、奴を実力で訴えるしかないんだ! 我ら平民出身騎士の憧れである先代騎士団長の娘であるグロリア・アニムスアニマにしか頼めないんだ!」
「はい、分かりました。このグロリオ・アニムスアニマの娘である私が必ず、お父様の仇を討ち取ってみましょう!」
その後、私はディアルグ副騎士団長の口添えで騎士団に入団し、その内部からデイヴ騎士団…否、デイヴの不祥事の証拠を探すと共に、実力を磨き、いずれ、あの男を復讐する為に奮闘した…
はずだった。
「勝負有り! 勝者、スマト・フリードリッヒ卿!」
「くっ、糞ぉ! 何故、勝てないんだ! 私は寝る間を惜しまず、精進しているのに!」
「へっ! 何が精進だ! 夜な夜なこそこそ何かやって、現を抜かす暇があったら、剣の修行に回せよ、阿婆擦れ!」
私はデイヴという仇の男どころか、スマトという奴の腰巾着にも勝てなかった。
それどころか、デイヴの不祥事の証拠は掴めず、あろう事に奴は凡ゆる危険な任務を生還して達成し、民衆からの名声や国王からの富を得ていた。
まるで、デイヴ・ルートヴィッヒが生まれながらの清廉潔白であることに。
奴が英雄としての地位に上がる度に、先代騎士団長の娘たる私の名誉は惨めに下落した。
「何が先代騎士団長の娘だよ。デイヴ騎士団長に突っかかるしか脳の無い猪娘ではないか。」
「デイヴ騎士団長が民衆に慕われるのに比べ、グロリアという女は頑固過ぎる。」
「所詮は前の団長の七光、期待するだけ野暮ってもんだ。」
私は周りの騎士や貴族から疎まれ、精神を擦り減らし、遂には耐え切れず、騎士団を抜け、冒険者へと逃げてしまった。
もう、私にはお父様の仇に復讐する正義心も、お父様のような騎士になりたい憧れも失いつつあった。
「だから、私は騎士の身分を隠して、冒険者になったんだ。今までの嘲笑から逃げる為に…、それが私という情け無い正体だ。さぁ、笑うがいい、無様な私を。」
「笑いません。」
その時、リオスはグロリアの両手を掴み、熱心な瞳を送らせ、グロリアの燻んだ瞳に一筋の光を差し込んだ…というよりも、
「笑いません、むしろ怒ってます。何故、そんなくらいで諦めてしまうのですか? 悔しさから逃げたら、増すばかりで、一向に解決出来ませんよ!」
「りっ、リオス、あの手を握りしめるのはいいが、強す…痛い、いだだだだだだ!?」
リオスはグロリアの両手を骨が軋み、折れるくらいの握力で攻め、怒りに燃える瞳で彼女を怯えさせた。
「痛いよぉ! リオス、やり過ぎだって、骨が折れる! ていうか、目が怖い! 視線が鋭すぎて!」
「この為体は何だ! グロリオ・アニムスアニマ、貴方は父親の仇を取りたいんだろ! なら、死にものぐるいで努力しろ! 死んでもぶっ殺せるぐらいに!」
「すまない、私の不甲斐なさは分かったから! だから、手を…離し…折れたぁぁぁぁ、いだいぃぃぃぃ!?」
遂にはグロリアの手首を折ったリオスは怒号を発する。
「いいえ、貴方はまだ分かってない! 僕がグロリアに教えてやる! 肉を切らし、骨を断ち、骨を切らして、皮を断ち、皮を切らして、血を断つ! そんな血を滲むような努力を教えてやる!」
たった今より、リオスによるグロリアの地獄修行が始まった。
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