第19話前編:女騎士の苦悩

「う…あ…私は今まで…そうだ、私は心を壊れてしまっていて、それで…」

「大丈夫ですか、グロリアさん?」

 ソファーから身体を起こして、目覚めたグロリアを懸命に支えるリオス。

「すまない、取り乱して、みっともない真似を見せて…」

「グロリアさん、王都に来た時からずっと悩んでましたのを気付いてます。無理にとは言いません。でも、よかったら、話して下さい。」

 リオスはグロリアの手をそっと優しく握り、目線を合わせた。

 彼女は最初は躊躇したものの、観念して、徐に話し出す。


 私のお父様、先代騎士団長、『グロリオ・アニマアニムス』はブレブスター騎士王国で随一の剣の腕と知略を持ち、騎士団や国民だけでなく、王族や貴族さえも虜にするカリスマで、その本性は貧民から騎士へと成り上がった努力家で、誰よりも皆の為に思う人格者であった。

 私はそんなお父様に憧れ、彼のような騎士になることを望んだ。

 しかし、私は女だったんだ。王家に携わる女の扱いは良くてより良い貴族との関係を良くする為の嫁入り娘どうぐ、男性が多い騎士団では色目と差別を向けられるのが常だ。

 それでも、私は諦めきれず、剣の修行をしていたが、男子には色気がないと、女子には可愛げがないと、冷ややかな目を晒され、私の心は苦しんだ。

 その時、お父様に聞いたんだ。

「お父様、どうして、私は女として生まれたの? 私はお父様のような騎士になりたいのに、どうしてなんですか?」

 お父様は豪快に笑った。

「全く、気高いのは病気で死んだ母さん似だな。俺が騎士になったのもそんな母さんと結婚したいためなんだぜ。」

「知らなかった。でも、お父様は立派な騎士になったんだよね。」

「ああ、だから、こんな貧民でも立派な騎士に成り上がって、貴族であったお前の母さんと結婚できたんだ。お前だって、女性初の騎士団長に必ず成り上がれるさ。」

「お父さん…」

 私はお父様にますます憧れた。恋の為に騎士道を貫いたお父様はまるで御伽話に出て来る白馬の王子様のようだったから。

「私、お父様みたいに成り上がって見せる!」

「ああ、無事に成り上がったら、俺は隠居だな。なら、その時に俺の剣を渡してやる。楽しみにしてるぞ。」

 お父様は私にそう言って、撫でてくれた。私はその日を忘れなかった。


 何故なら、その日の後、お父様が何者かに殺されたという訃報を聞いてしまったからだ。

 その日こそ、お父様の輝きに触れた最後の日だったからだ。


 お父様の葬式の後、まだ、兄が家督を継いだが、家財管理に失敗し、家中の召使いを雇い続ける金も失い、解雇したその翌日の夜、茶髪と髭、青い瞳を持つ男性が私を訪ねた。

「どちらさまですか?」

「夜分遅くにすまない。私はブレブスター第一騎士団の副騎士団長をしている、ディアルグ・エルベセットだ。戦友であり、偉大な騎士団長であった君の父君について伝えたいことがあるんだ。」

「…! 話を聞きましょう。」


 

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