第13話:超越者の買い物〜リョーマの場合〜

 リョーマはグロリアの案内で鉱人族ドワーフが営む鍛冶屋に向かった。

 店内は剣や槍、斧に、短剣ダガー、勿論、刀があった。

 リョーマがその内の刀を手に取り、物珍しそうに物色していた。

 カウンターには栗毛のツインテールと黒い瞳、そばかすのある背が低い鉱人族ドワーフの少女がグロリアに声を掛ける。

「グロリア様、お久しぶりです。王都を出られたと聞いて、心配しました。」

「イワカ殿、元気そうで何よりだ。御祖父の作る武器を連れに見せたくてな。」

「まぁ、グロリア様の御連れ様なら、お祖父様の武器を喜んでくれますわ! お祖父様は我ら鉱人族ドワーフの同胞が羨むなのですから。」

 そう言われたイワカはリョーマが当店の刀を物珍しそうに見て、ニヤリと笑い、彼に近づいた。

「そこのお兄さん、お目が高い。これは我が父が東方の剣聖に教えを乞い、作られた鉱人族ドワーフ初の刀。量産まで時間は掛かりますが、どれも、東方の剣聖が気にいる名刀です。」

「ああ、この刀のしなり具合、刃先の鋭さ、刃紋の美しさ、頑丈さも切れ味もどれも一級品だ。」

 この刀を見たリョーマの褒め言葉に鉱人族ドワーフの少女が益々、自信満々に胸を張り、鼻を鳴らした。

「はい、この名刀は竜断ちと言って、その名の通り、竜を…」

「でも、まぁ、精々、を断ち斬るくらいは役立つだろう。流石に古代竜エンシャントドラゴン神竜ディバインドラゴンは無理だろうな、この一級品のではな。」

 褒め言葉だと思ったら、貶し言葉であると気付いた鉱人族ドワーフの少女の笑顔は引き攣り、眉間に皺を寄せ、青筋を立て、怒りに悶え、震えた。

「イワカ殿!? すまん! 連れが失礼な事を言って、すぐな謝らせ…」

「お祖父様! イワヒコお祖父様あぁぁぁぁ!」

 イワカの叫びで店裏の鍛冶場から金髪と黒い瞳を持つ鉱人族ドワーフの鍛冶師がやって来た。

「どうしたイワカ! 野盗でも襲って来たのか!」

「この糞鬼族がイワヒコお祖父様の名刀を侮辱しやがりましたのよぉ!」

「なんじゃとぉ! この糞鬼族が! この鍛治聖と呼ばれた儂に向かって、戯言を吐くな!」

 鉱人族ドワーフの親子に血走った眼で睨まれるリョーマは平然と自身の刀を抜き、彼らに見せた。

「俺の自慢の名刀が教えやる。戯言がどうかはこの刀身を見れば分かる。」

 その刀身は鮮やかな白銀・銀・黒銀の三つの波紋が虹のように並び、何万重、何億重もの層が折り返されていた。

 その奇抜で、美しい刀を見た鉱人族ドワーフの親子は口を大きく開いて唖然し、汗や鼻水を垂らし、驚嘆した。

「馬鹿な!? 海神鋼オリハルコン豊穣神鋼アダマンタイト森神白銀ミスリルの合金ではないか!?」

「何で伝説の鉱石がこんなにもあるのですわ!?」

 驚いた鉱人族ドワーフの親子を見たリョーマはわざと、刀身を真っ逆様に落とす。

 すると、刀身が石畳の床をすり抜けるような滑らかさで貫き、唾が床に触れ、止まった時は刀身全てが地面に入っていた。

 まるで、爪楊枝が豆腐に入ったかのように容易く、大地を突き刺したかの如く。

「名刀を超えるくらいに刀剣の力を千割以上引き出さないと、伝説は殺せるは出来ねぇよ。ハッハッハッ!」

 そう言い残したリョーマは刀を拾い上げ、鞘に納め、愉快に笑いながら店から出た。

 グロリアは気まずそうに鉱人族ドワーフの親子に声を掛けた。

「まっ、まぁ、あの刀と比べる必要は…」

 しかし、彼女が声を掛けるまでもなく、心の琴線がぶった斬られた鉱人族ドワーフの親子は店内の武器全てを手当たり次第壊しまくった。

「屑じゃあぁぁ! 儂の自信作、力作は全部、屑じゃあぁぁぁぁ!」

「糞ですわあぁぁ! 私が鍛治聖として憧れたイワヒコお祖父様は糞爺ィですわあぁぁぁぁ!」

 泣き喚きながら、自尊心を崩壊していく鉱人族ドワーフの親子を見たグロリアは哀れに思いながらも、諦めて、店を出た。



 

 



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