第11話:超越者たち、王都へ。

 アドベン都の厄災から一週間後の早朝、その冒険者の街から三体の三本角を持つ灰色の馬の魔物、三角馬トリコーンが引っ張る大型馬車が走っていた。

「ふーん。八脚馬スレイプニルじゃないのね。あの神獣なら、数日さえ掛からないのに。」

神因気エーテルの多い英霊郷ヘロアスファリアにしか繁殖出来ないからな、気まぐれに人里で降りた仔馬が神因気エーテルの欠乏で気絶して、やっと親馬が見つけるようなもんだ。汎用は厳しいだろうな。」

「俺なら走って、一瞬で着いてしまうかもな! ガハハハハハ!」

「まぁ、こうやって、リオスを撫でながら、馬車の風景を見るのも一興ですね。」

「僕をペット扱いしないでよ、シェナ姉さん。」

「兄に、もっともっと、ぎゅーっと!」

「ちょっと、シェナも、オウヒも、リオスにくっ付き過ぎよ!」

「はぁ、何でこんなことに…」

 前席にはシェナに撫で回され、オウヒに抱き付かれるリオスの傍らで頬を赤く膨らませるエアノーラ、

 後席にはそんな彼女らを呆れて笑うリョーマとディムナ、そして、溜息を吐くグロリアの姿だった。

「でも、まさか、グロリアさんが王都の騎士の娘だなんて、思いもしませんでした。」

「ふん、そんな偉いもんじゃないぞ。勇者の血を引いたお前の方が上に決まってるだろう…大体、お前が勇者ならあんな無礼なギルド職員を斬り伏せただろうに…ぶつぶつ。」

「あれ、初めて会った時より、辛辣になってません?」


 それはリオスたちが旅立つ数日前のこと。グロリアはギルドマスターにある言伝を託されていた。

「リオスたちを王都に連れ出せと?」

「そうだ。王都の王様から勲章を挙げたいとの逢瀬だ。彼らのお陰で街は元通りになったことを通信魔水晶テレパスタリスマンに伝えたからな。」

「それより、何故、私に?」

「個人情報で悪いが、君が王都にいた先代騎士団長の娘というのは調べさせてもらった。」

「…!?」

 正体を知られて、顔を顰めるグロリアにギルドマスターは頭を下げる。

「すまない、他言はしないが、君に案内役を頼みたい。」

「分かりました。これも騎士の務めです。精一杯やりましょう。」


 時を今に戻し、昼過ぎに王都に到着したリオス一向。

 王都の名はブレブスター騎士王国。肥沃な草原と広大な領地の中に鉱山や港町、森林などの資源地を有する、エウロッパ大陸二番目の大国。

 王都を含む十三の領地と騎士団を持ち、資源と軍事が豊富。特に騎士団は一個師団は二万の騎士を有し、合計二十六万の兵数が存在する。

 そんな王都には商業市場が賑わい、様々な物資や嗜好品が揃っていた。

 ある南東の領地、エイギリスから採れたハーブや茶葉、

 ある南西の領地、スペニッシュから獲れた豊富な魚介類、

 ある北西の領地、ノルマークからの名産である衣服や装飾品、

 ある北東の領地、ドイセンツからの名産である陶器や宝石、

 様々な特産品が市場を彩り、道行く人々の笑顔で溢れていた。

「へぇ、流石、王都だ。いい刀があればいいが…」

「リョーマよ、それは早計だ。まずは飯と酒だぞ。」

「私は早く、魔法屋で、新しい魔導書グリモワールや、珍しい魔導巻物マジックスクロールを見つけたいわ。」

「私はリオスと一緒ならどこへでもいいわ。」

 各々の楽しみを膨らませる一向だが、リオスは心配そうにグロリアを見つめた。

「兄に、どうしたの?」

「ああ、グロリアさんの調子がおかしいんだ。まるで、彼女だけ、ような気がして…」

 グロリアだけは周りの喧騒を何処吹く風として受け流し、浮かない顔をした。

(…お父様。私、グロリア・アニムスアニマはこのままでいいのでしょうか?)


 



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