第7話:獣女王族 ライカン・クイーン オウヒ

 獣王族ライカン・キング獣女王族ライカン・クイーン。獣神、レオキンにより産み出された彼らは神獣の血と姿、力を引き継ぎ、身体能力や怪力、丈夫さを誇り、他の種族にこの世界全ての獣の知識を与えた。


 東の城壁に向かったエアノーラたち、他の城壁と同じように夥しい数の魔物が引き詰めていた。

 そんな光景の上空には白い短髪と桃色の瞳、白狐耳、二本の白狐尾を持つ姿が、赤紫柄のピンクのクノイチ装束をしていた。

「あっ、あの子も怪物なのか!? もう、騙されないぞ!」

「怪物というか、天狐っていう神獣の末裔よ。」

「しっ、ししししし、神獣!?」

「驚くのも無理はねえ、この下界に神獣なんてそうそうお目に掛かれないからな。まぁ、見ていて、ラッキーと思うしか…」

「何がラッキーだ! 神獣なんて、古い文献でも、創世の神話にしか語られない架空の存在じゃないか!」

 リョウマの発言にグロリアは激しく言い返す内に、天狐の少女は片方の掌を天に上げ、もう片方の掌を地に向け、唱え始めた。

「天雷の妖術、青天の霹靂八連。空震の妖術、天地鳴動。」

 青空から八つの蒼雷が降り注いだと同時に、天地という空間に激しく揺れ動き、地面に地割れどころか、液状化し、底無しの沼と化し、魔物たちは沈み、その上空から蒼雷が空間振動により、無数の雷霆として降り注ぎ、追い討ちを掛けるかのように黒き消し炭に変えた。

 天狐の少女はそれを確認し、一息着くと、消し炭となった以外から黒い靄が溢れ出し、彼女の眼前に迫る。

 その靄は集め、塊り、無数の黒い獣骨を形取り、更にそれが巨狼に形作った。

 赤黒く禍々しい双眸を宿し、巨大な顎を地獄門の如く開き、怨念を込めた多重の叫びが貫かれる。

「アギャアァァァァァァ!!」

「なっ、何なんだ、あれは!?」

「あれは餓者ガシャ真神マガミだ。神話級ミソロジークラスの魔獣だ。触れれば腐り溶ける死の瘴気を常に漂わせ、不死に近い生命力を誇ると言われる… 野良犬だ。」

「そんな奴とどう戦えば…って、野良犬!?」

「そうだぜ、嬢ちゃん。俺たちの故郷は下界では考えられない厳し過ぎる自然環境で、神話級ミソロジークラスの神獣や魔獣、竜などはそのパワーバランス故に弱肉強食だけでも、多くの骸と化すんだ。」

「まぁ、一時期、それらが多く死んだから、ああいうゾンビな害獣がわんさか湧き出て、私たちの人里の畑を荒らすのよ。」

「あっ、荒らす…」

 禍々しい魔獣を野良犬や害獣呼ばわりするエアノーラたちに絶句し、天狐の少女の方をよく見れば、彼女は欠伸を掻きながら、餓者ガシャ真神マガミに手を翳し、唱えた。

「ふぁぁぁ、黒穴の妖術、空亡深淵。」

 彼女の掌から巨大なブラックホールが現れ、餓者ガシャ真神マガミは怨みがましい遠吠えを上げながら、虚空へと消失した。

 天狐の少女は徐に後ろを振り返れば、エアノーラたちに気がつき、彼女たちの方へ一っ飛びと浮遊して、舞い降りた。

「ん、兄に、見つけた?」

「ああ、リオスは兄貴である俺の背中を借りて、ぐっすり眠っているぜ。」

「ぐっすり眠らせたのは私よ、オウヒ。」

 天狐の少女、オウヒはディムナの背に眠っているリオスのさらに背から乗り、彼に頬擦りした。

 リオスはオウヒの重さに眉間に皺寄せるも、彼女の温もりに直ぐに落ち着き初め、眠り続けていた。

「ところで、この言葉を失ってる人は誰?」

「あっ…あ…ああ…ああああ…」

「リオスの恩人だ。まぁ、廃人と化してるけどな。」

 下界では測れない彼らの異常さに言葉を考えて出す論理的思考が崩壊し、ただ呻くことしか出来ないグロリアにディムナが屈み、オウヒが撫でる。

「よしよし、兄にを助けてくれて、ありがとう。」

 エアノーラは放心状態の彼女を連れ、また新たに転移した。


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