第5話:古代森人族 アールヴ エアノーラ・ユグドラセル

 かつての世界創世に遡る。世界を創りし全能の天神、アルファスは自分の子である神々に様々な種族を生み出すように命を下す。

 その中でも自然神ネイは自然と光の力を司る種族、古代森人族アールヴを創り上げた。

 そんな彼らは過酷な自然に生き抜く術と自然の力である魔法の扱いを自身の子孫である森人族エルフ上位森人族ハイエルフを含む多くの種族に伝えた。


 リオスの前に現れた森人族エルフらしき古代森人族アールヴの少女は彼の前に立ち、地に伏せ、彼を仰ぎ見た。

「全く、から隠れている内に危ない事をするなんて、本当焦りすぎよ!」

「エアノーラには関係ないだろ! それより、経験値が…!」

 焦るリオスに対し、彼の眼前に指先を翳し、呪文を唱える。

「風のせせらぎ、水の滴り、夜の静かさ、朝の暖かさ、それら全てを愛する者、その身を委ねよ。祝福の眠りブレスドスリープ。」

 リオスは翠の暖かい光に包まれ、眠ろうとするも、自身の唇を噛んで、耐えようとする。

「駄目だ…僕の経験値…奪う…な…」

 しかし、連戦の疲れも相まって、健闘虚しく、健やかに眠り、怪我も汚れも消えていた。

「全く、行儀良い癖にこういう時は頑固だから。」

 エアノーラと呼ばれた彼女はニヤリと笑い、後ろに向き直る。

 そこには他の魔物とは違い消し炭にされてない九頭獄番犬ナインヘッド・ケルベロスが立っていた。

「一体だけ神話級ミソロジークラスの魔物を用意するなんてね、も考えたものね。」

 九頭獄番犬ナインヘッド・ケルベロスはそれぞれの口から炎・稲妻・吹雪・毒霧・嵐・超音波・破壊光線・礫・消化強酸液といった多様な魔法攻撃を放ち、エアノーラの眼前に迫る。

 しかし、彼女は焦らず、指を鳴らした途端、赤と翠の縁に囲まれ、金色の世界樹が描かれた表紙を持つ魔導書グリモワール【世界の言の葉】を魔法陣から召喚し、ページがひとりでに開かれ、眩く光ると、魔法は何事も無かったように消し去り、九頭獄番犬ナインヘッド・ケルベロスは驚き慄く。

九重奏解魔魔法ノネット・ディスペル。頭が九つあるんだし、これで十分よね。」

 自慢の魔法が効かないと分からされた九頭獄番犬ナインヘッド・ケルベロスは焦り出し、自慢の巨体を活かし、腕や牙を振り翳し、押し潰すか噛み殺そうとする。

 しかし、再び、魔導書は光出し、今度は地中から大きな根が現れ、エアノーラとリオスを取り囲み、葉が生い茂るドーム状の樹海となり、腕や牙を防いだ。

鎮樹海結界フォレストバリアよ、そして、仕上げはこれよ!」

 エアノーラが天に手を翳し、上空に魔導書グリモワールのページから現れた夥しい数の魔法陣に埋め尽くされ、それらから赤黒い獄炎や蒼白い雷霆、純白の吹雪の嵐、黄金の剣の雨、隕石、無数の闇の手、極太光線などの多種多様な魔法の豪雨が放たれた。

 九頭獄番犬ナインヘッド・ケルベロスは凶悪な形相から子犬のような可哀想な面で魔法の渦の雨に晒され、大地が抉るほどの魔法量に押し潰され、晴れた時には草原が荒原になった以外、全て消え去っていた。

神殺魔法ディバインズキリング魔神の大号泣マジックゴッズヘルレインのお味は如何かしら。あの世で感想を聞かせてね。」

 勝ち誇るエアノーラにそんな彼女を目撃したグロリアは鎧の中から失禁し、目が飛び出るくらいギラつかせながら、顎が外れるような大口を開けて、唖然した。

 そんな彼女に気が付いたらエアノーラはリオスを抱き抱えながら、転移魔法ワープマジックで彼女の前に現れる。

「あわぁぁぁぁぁぁぁ!? やめて下さい! 私はもう戦う意欲はありません! ていうか、あれ魔法なの!? 魔法なんですか!? あんな魔法あってたまるか、ボケェ!」

 騎士としての礼儀正しさの佇まいをかなぐり捨てて、汗と鼻水を垂らしながら、恐れ慄く。

「誰がボケよ! 古代魔法エンシャントマジックを無詠唱で唱えただけじゃない! こんな事も知らないなんて、都会は遅れてるわね!」

「えっ、古代魔法エンシャントマジックを無詠唱でぇぇぇ!? ふざけるな、馬鹿野郎!? そんなこと出来る訳ないだろう!」

 古代魔法エンシャントマジックとは、現在の魔法の原型にして、生贄や風水など大規模な儀式を必要とする代わりに強力な効果を得られる魔法だ。

 無詠唱は呪文や魔道具の準備を破棄して、威力が半減する代わりに瞬時に展開できる魔術だ。

 しかし、無詠唱でできるのは零級魔法から簡単な魔法しかなく、中級魔法はそこそこ使えるとして、上級魔法や古代魔法エンシャントマジックで成功した例はないからだ。

「そんなことより、千里眼の魔法で見晴らせたけどリオスこいつを庇ってくれてありがとうね。御礼に良いものを見せてあげるわ。」

「へっ、はっ、ちょっ!?」

 エアノーラはグロリアの手を掴み、転移魔法ワープマジックでその場から連れ去り、消えた。

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