第47話 2つの体
スノゥの培養体転移準備のため、一旦、民家地下室に戻った。パンナは、転移用魔法陣布とスノゥが着る衣類や体を拭く布をカバンに入れる。
すぅ~、すぅ~
呼吸音が聞こえるので、パンナが辺りを見ると、モヒートがベッドに横たわっていた。
「おい、大丈夫か・・・ん?寝てしまったのか」
時計を見ると、お昼すぎの時刻。あまり寝ていない状態で早朝から動いたため、睡魔に襲われ寝てしまったモヒート。パンナは、モヒートのそばに座り、
「お前さんには無理させておる。しかし、今日で終わる。そして、明日にはここを出よう」
モヒートの寝顔を見ていると、パンナも、うとうとし始め、モヒートの隣で寝てしまった。
「・・・さま、・・・パンナ様、そろそろ起きてください」
「はぁぁっ!寝てしもうた!今、何時じゃ!」
「今、4時過ぎです。まだ、集会所に行くのも早い時間ですよ」
「昼寝してたのか。あ、そうじゃ、モヒートよ。姫さまのベッドを地形操作で作ってくれないか?」
「そうですね、こちらに来て頂いてから、出国しないと。培養体での回復もありますし」
モヒートは、地響きが少ないよう配慮しながら、地下空間を拡張し、あまり硬くせず、少し沈み込むベッドを地形操作で作り上げた。それから、二人でベッドシーツをかけ、準備をした。
そして、集会所へ顔を出した。
「こんにちは、ドストルさん」
「よぉ、お二人さん。最近、疲れた顔してんな、体調大丈夫かい?」
「あはは、体力づくりに走り回っちゃって、そしたら疲れました」
「そりゃ~いかんよ。体力も成長も、焦っちゃいけない。時間をかけてやるもんだ。ほら、食べな。猪肉のソーセージが入ったスープとパン。おかわりしていいんだからな」
「は~ぃ、頂きます」
二人は、しっかりと食べ、またパンをもらい、民家に戻る。その頃、辺りは日が落ち、いよいよ予定時刻となった。
「準備はいいかな」
「はい、スノゥ姫の元へ参りましょう」
地下通路を通って、城の地下へ向かう。
「姫さま、調子はいかがですか?」
「何も変わりません。監視も来ておりませんし、この暗闇を気に留めるのは、あなた方だけでしょう」
「分かりました。では、準備に取り掛かります。手順として、培養体の確認。衣類を着せ、魔法陣布に寝かせます。次に姫さまをお招きして、転移の儀式を行います。その後、この地下空間を破壊し、姫さまを我々がいる民家地下室に同行願います」
「はい、お任せ致します」
モヒートが先回りし地形操作で、培養装置周囲に階段と培養体を寝かせる台座を作っていた。
「パンナ様、培養体の体を拭く布を何枚か頂けますか?」
「ちょっと待ちな」
パンナはカバンから布を取り出した。
「培養体が柔らかい状態だから、頭・首・腕を布で巻いて固定し、それから引き上げよう。その前に、頭部の最終確認・・・やはり、夜まで待って正解じゃったな。切り開いた傷口が塞がっておる。髪の毛は、べらぼうに伸びるわけではないんじゃな。一定の長さで伸び速度が遅くなっているようじゃ」
二人、腕まくりをして、協力しながら上半身を布で固定しガラス筒から培養体を引き上げた。体を拭いて、下着を履かせ、黒のローブを着せた。培養体は、培養液から出て、空気に触れると、次第に皮膚や骨は硬さをもつようになり、着替えが済んだ時点で、人と同じ肌質になっていた。
黒のローブを纏った培養体を、地形操作でゆっくり地面まで下げた。パンナが魔法陣布を広げ、また二人で培養体を運び寝かせる。パンナは、通路に置いていた小鍋を持ち出し、培養液に燃焼化合物を溶かし込んだ。
特に言葉を交わさないが、粛々と二人は作業を進めていき、そして準備が整い、スノゥを迎えに行く。
「姫さま、お時間です。お運び致します」
「いささか緊張しますね。期待と不安、もっといろんな感情が入り混じっていて・・・」
スノゥの体を横向きにし、真っ白なシーツを敷く。そして、スノゥの体をぐるりと包んで、それから運ぶ。魔法陣布に横たわる培養体にスノゥの頭が向くよう寝かせ、モヒートは魔法陣布から少し離れた。パンナは杖を持ち、ぶつぶつと小声で詠唱を始めている。とても静かな地下通路にキィィィンと微かな高い音が響きだし、培養体が仄かに光を帯びていた。
詠唱を終えたパンナは、離れた位置にいるモヒートの隣に立ち様子をみている。また、静寂が戻る。
「ゲホッゲホッ!」
培養体が動き出し、飲み込んでいた培養液を大量に吐き出した。なかなか呼吸が出来ず、苦しい様子。パンナとモヒートは、培養体の背中を擦り、声をかけた。
「吐き出した後は、息をしてください。苦しいでしょうが、呼吸をしてください」
「グァッハッ、ア゛ァァゥゥ、ケホッ、ハァハァハァ」
パンナが両手を培養体の顔の前に差し出し、モヒートが水を注いだ。そして、強引に口元をすすぎ洗いさせ、背中を擦り、ぽんぽんと叩いた。次に、パンナは、両手の水を培養体の目元に差し出し、目を洗わせる。培養体は避ける仕草をしたが、また強引に洗わせた。
体を起こした培養体は、地下通路の壁に背もたれ、荒い呼吸を続けた。
「はぁはぁ、なんでこんなに苦しいの・・・」
「それは、初めて呼吸をしたからですよ、スノゥ姫」
「え、ぇぇ?」
培養体に転移したスノゥは、パンナから声をかけられ、状況が少しずつ理解し始めた。
「私は・・・私の体は・・・この見える両手両足・・・」
スノゥは、両手で体を触り、感触を確かめていた。遠い昔にヒッポリー湖で襲われ失った右腕・右足があり、この地下で切られた左足首の腱も無事だ。視界も徐々に明るさになれ、夜光石で灯される魔法陣布に、真っ白なシーツに
「あれは、私・・・絶望していた私が、目の前にある」
「姫さま、転移は済んで、今、培養体に姫さまの魂が移り、宿りました。少しずつ体が馴染んできて動くようになります。ただ、あまり興奮なされないように。体が崩れる可能性もあります」
「はぁぁ、バヴァ、バヴァ・・・」
スノゥは、パンナの体にしがみつき、さめざめと泣いている。モヒートは、背中を向け、周囲を警戒しているが、涙が止まらなかった。パンナは、大仕事を達成し、スノゥが無事で、モヒートの多くを語らぬ成長を見て、穏やかに微笑んでいた。
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