第144話 結団式(3)

「選別……って、どうするつもりですか?」


 魔法士を選別しようと言い出したリアナに、ルティスはその手段について聞いた。

 彼女が話していることは理解できるが、こんなところでどうやって確認しようというのか。


「そうですねぇ、たとえば私が全員相手にしてボッコボコに……」


 そう言いかけたリアナに、ルティスは慌ててツッコミを入れた。


「いやいやいや、それ誰も残らないですって」


「そうですか? 立ち上がることができたら合格! とかじゃダメですかね?」


「ダメでしょ、それはさすがに」


 そう続けるリアナを、呆れた顔でアリシアが窘めると、代わりにヴィオレッタが楽しそうに笑う。


「ふふ、ならわたくしが……」


「もっとダメですって!」


 ヴィオレッタにもルティスは言うが、彼女はそれを手で制して続けた。


「まぁ待ってよ。別にリアナみたいに……ってつもりはないから。簡単な方法があるの。……向こうから『辞退させて』って言ってくるよーな方法がね」


「……なるほど?」


 いまいちよくわからなかったが、確かにこちら側から選別するのは禍根が残る可能性があった。

 しかし、彼女の言うように、向こうから辞退するのであればその心配はない。

 ただ、それがどんな手段なのかまったく不明ではあるが。


「ふふ。わたくしの挨拶のときにでも、ね」


 ヴィオレッタはそう不敵な笑みを浮かべた。


 ◆


「――という理由により、この度魔族領に使節団を派遣することとなった。団長には、ムーンバルト侯爵の娘であり、優秀な聖魔法士でもあるアリシア嬢を任命する。……アリシア嬢、こちらへ」


 結団式が始まった最初の挨拶で、国王陛下は居並ぶ面々――使節団の参加者以外にも関係者含めて50人ほどはいるだろうか――の前で、アリシアを呼び寄せた。

 呼ばれて前に立ったアリシアは、優雅に一礼する。


「ご指名に預かり光栄にございます。任務を全うできるよう、全力を尽くしますわ。皆様、よろしくお願いします」


 アリシアの挨拶に、面々からは拍手が上がる。

 それを見届けたあと、陛下は続けた。


「また、このような機会を作っていただいた、ヴィオレッタ嬢をご紹介します」


 先ほどまではめんどくさそうにしていたヴィオレッタだが、なんだかんだとちゃんとした態度で前に出ていく。


「ヴィオレッタでございます。わたくしの我儘にお付き合いいただき光栄です。……とはいえ、覚悟はしているかと思いますけれど、わたくしの城がある近くには当然、多くの魔族がおります。……ちなみに、このなかで魔族と会ったことがある人はいますか? ええと、わたくしを除いて」


 ヴィオレッタが一同に尋ねると、ルティス達やクララを含めて10人ほどが手を上げた。


「なるほど。……せっかくの機会ですので、実際に魔族がどんなものなのか知ってもらえたらと」


 そう言うなり、ヴィオレッタは少しだけ魔法で浮かび上がる。

 それを見た面々からはどよめきが走る。

 魔族が飛べることは一般的に知られているが、魔族を見ること自体が珍しいことを考えると、もちろん飛ぶ姿を見ることも稀だ。


 しかしヴィオレッタはそれだけに留まらず、どんどん魔力を高めていくと、うっすら光すら帯び始めた。


 その様子を目にした一同からは、どよめきや叫び声が飛び交う。


(マジかよ……)


 それを見ていたルティスは驚きつつも、一度見せてもらっていることもあり、まだ冷静でいられた。


 しかし、視覚化されるほどの魔力に、力のある魔法士ほど恐怖心を抱く。

 周りを見てみると、恐怖で震え蹲っている者、そしてそれを耐えてキッと前を見ている者、その二者に分かれるようだった。

 見れば、クララも震えてはいるものの、しっかりと前を向いていた。


 しばらくして、ヴィオレッタは大きく息を吐いて魔力を抑えるとに、すうっと地面に降り立つ。


「――さて、先ほどのわたくしの魔力を見て、本当に参加するのかよく考えてくださいね。周りにはあんなのがいっぱいいます。辞退したとて、誰も責めたりはしませんから」


 さらっとヴィオレッタは言うが、そもそも先ほどの魔力は普通の魔族とは一線を画すほどのものだ。

 要するに、彼女は少し脅して見せたというだけのことなのだが、恐怖で立てなくなった者も散見された。


「……このような場で失礼しました。ですが、わたくしには皆が無事に帰ってこれるようにする義務があります。皆さんもそのつもりで臨んでください。よろしくお願いします」


 シーンとするなかを、平然とした顔でヴィオレッタは戻ってくる。

 ルティスと目が合った彼女は、ウインクをして見せた。


(やりすぎだって……)


 そう思ったが、確かにあのくらいしなければ辞退者は出ないだろう。


 絶句する陛下をよそに、アリシアが平然とした顔で続ける。


「不安な者は連絡すること。後からでも構いません。さて、次に魔法士の皆さんはバラバラになると危険ですので、私の代わりに隊長を任命して指揮を取って貰います。その隊長は私の妹であるリアナに任せます。……こちらへ」


 アリシアの言葉に驚きを隠せないクララが、そっとルティスに耳打ちした。


「ねぇ、妹って本当なの……?」


 ムーンバルトにいたときはアリシアの使用人だと周りからは認識されていた。魔法の腕がズバ抜けていることは誰もが知っていたけれど。

 それが急に妹だという話に、クララは隊を任せる方便ではないかとも思ったのだ。


「……それは本当ですよ。アリシアも最近まで知らなかったみたいですけど」


「そうだったんだ……」


 クララは前に立ったリアナを改めて見た。

 アリシアとは顔立ちも髪も含め、全く似ていない。性格まではわからないけれど。

 アンナベルの娘だというのは知っていたから、となると侯爵と彼女との娘ということになるのだろうか。

 そう考えると、常にセドリックの近くにいるアンナベルを見れば、ふたりがそういう関係であってもおかしくないとは思えた。


「リアナです。どうぞよろしくお願いします。……先ほどヴィオレッタさんがあなた方を少し脅しましたけど、優しいヴィオレッタさんとは違って、私はもっともっと厳しいのでご注意くださいね。んふふ……」


 リアナはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

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