第24話 主人公探し不発(そもそもいない)

 領地に来てから十日が過ぎ、俺は焦っていた。


 ……主人公はどこにいるんだよォォォ!?


 領地の外回りの挨拶ついでに探したけど、それらしき人は発見してない。


「普通、主人公って言ったら病気の妹か弟がいるのが定番でしょ。弟や妹のために頑張るとか、亡き家族の無念を晴らすためとか。もちろん、全部は回れてないけどさ」


「さっきから何を言っているのですか?」


「うわっ!? シ、シオン、いつからそこに?」


 部屋の仕事用椅子に座っていたら、いつのまにか目の前にはシオンがいた。

 まずい、俺が悪役転生者だってバレちゃいけない。

 というか、頭のおかしい奴だって思われ……今さらな気がしてきたぞ。


「今さっきですよ。ノックをしたのですが、何から独り言を言って気づかなかったようですね。それで、何か悩みことですか?」


「い、いやー、領地巡りは疲れたなって」


「確かに、なかなかのスケジュールでしたね。ですが、それは主君が言い出したことですよ? 私とヨゼフ殿は無理はしないようにと言いましたが」


「あはは……」


「領民のためを思うという気持ちは良いですが、まずはご自分の体力を考えてくださいね」


 いや、違うんだって。

 俺は主人公を探すために領地巡りを提案したのだ。

 なのに……苦労の甲斐なく、結局それらしき人は見つからなかった。

 その他にも探してた人がいたけど、今のところは見つかってない。


「はーい。でも、結局探してた人材も見つかってないしね」


「隠れた人材ですか……中々に難しいかと。そもそも、才能のある者は既に辺境を出ているでしょうし」


「それを言ったら身も蓋も無いよー」


 うーん、おかしいなぁ。

 こういうゲームでは、見た目はアレだけど実は育てると強いとか。

 あとは、使いようによっては便利なキャラとかいるはずなんだけど。


「そもそも、どういった方々が欲しいのですか?」


「そう言われると難しいんだけどさ。例えば、風呂を直してくれる人とか」


「そういうのはドワーフ族でないと。お風呂場はドワーフ族が作り、その構造は我々にはわからないのですから」


「はぁ……やっぱり、ドワーフを誘致するしかないか」


 一応、ドワーフに関しては案はある。

 酒が好きだというので、この世界にはないアレを提供できれば良い。

 ただ詳しい製法は俺も知らないから、すぐには無理だろう。

 とりあえず、今は後回しにするしかない。


「あぁーお風呂に入りたい」


「そもそも、お風呂自体は入ったではありませんか」


「アレは水風呂! 俺は温かいお湯に浸かりたい!」


「そ、そうなのですか」


 この世界は暑いこともあり、暑い湯に浸かるという習慣が少ない。

 そもそも薪や火とて貴重な世界なので、そんなのは贅沢な話だ。

 でも記憶を取り戻したからには、温かいお風呂の後にアイスとか食べたい。


「ふえっくし!」


「あら、くしゃみですか。少し部屋を冷やし過ぎじゃないですか?」


「ほら、やっぱり温かい風呂に入らなきゃ。うーん、もしくは誰かが噂をしてるのかも?」


「そういえば、前も言っていましたね……正確には、どういう意味なのです?」


「確か、故事に書いてあって……噂を一回で褒められて、二回で悪口、三回で風邪だって」


「ふむふむ、そうなのですか。相変わらず、変なことばかり知ってますね」


 危ないところだった。

 ほんと、前世の知識がちらほら出てきて困るや。

 というか、本ばかり読んでいて良かった。


「あはは……あっ——ふえっくし!」


「「………」」


 二回目のくしゃみで、俺とシオンが無言で見つめ合う。


「二回目ですね。つまり、誰かが悪口を言っていると……心当たりがあり過ぎですね」


「ぐぬぬ……どうせ、自堕落王子だやい」


「ふふ、これから変えるのでしょう?」


「別に変えるつもりはないよ。ただ、反乱とか起こされても嫌だし。つまり、俺がダラダラしても許される環境作りをするってわけさ」


 こんなところで王城みたいな生活をしていたら、反乱とかされて討たれちゃう!

 悪役に転生したので、破滅ルート回避なんちゃらみたいな!

 うん! そうに違いない!


「そういうことにしておいてあげましょう。それで、何から始めますか?」


「まずは生活改善が一番だね。匂いや腐敗臭は俺の魔法で少しはマシになったけど、食材確保と資源の確保かな。後は街道整備や、それに伴う人件費とか。いざ人が来るときに、あれじゃきついよ。途中で休憩所とか用意して……どうしたの?」


 ふと見ると、シオンが驚いた表情を浮かべていた。


「い、いえ、今まで授業もサボっていたのに……すらすらと的確な言葉が出てきたので」


「あぁー……うん、本だけは読んでるから」


「はぁ……まあ、良いですね」


 もう、この一点張りで行くしかない! 退路はないので引き返すことはできない!

 前世の記憶を使っていかないと、どうにもならないし。

 すると、扉をノックする音がする。


「エルク殿下、よろしいでしょうか?」


「おっ、ヨゼフ爺だ。うん、入って良いよー」


「失礼いたします」


「報告かな?」


「ええ、そうなります」


 俺が領地を見て回る間、ヨゼフ爺には色々と調査をお願いしていた。

 俺に対する住民の反応と、何を優先的にしてほしいかを。

 後は戦える人の確保や、魔法を使える人材など。


「それで、どうかな?」


「反応は悪くないかと思います。最初の水魔法で警戒を解き、その後の炊き出しで人心掌握をする。そして、仕上げに魔法で虹を出す。これによって掴みは完璧かと……お見事でございます」


「へっ? そ、そうだよね!」


 人心掌握? そんなことは考えてなかったけどね!

 まあ、結果オーライならよし!


「エルク様が偉ぶる方ではないという話も広まり、そのおかげですらすらと意見が集まっております」


「ふんふん、何が必要かな?」


「やはり、肉類が一番でしょう」


「まあ、元気の源だからなぁ」


 肉は全てを解決する……とは言わないけど、人が生きていく上で必要な栄養素が含まれる。

 それに肉を食べると、元気になった気がするよね……俺だけかな?


「元気かはともかく、貴重な栄養分ではありますな」


「今はユルグさんが狩りをしてくれてるんだよね?」


「ええ。しかし、それだけでは足りません。何より、またユルグだけに負担をかける訳には参りません」


「うんうん。それじゃ、狩りチームみたいのを編成しようか」


 幸いにして、やる気のある人たちは多い。

 十日だったし、浴場にいた人達も体調を整えられたみたいだ。

 ユルグさんをリーダーにして、少しずつ人数を増やしていくかな。


「では、鍛えるのは私の役目ですね。使える者がいるかどうか調べましょう」


「うん、よろしく。俺は暫くは領地にいるし、シオンも手が空くしね」


「良き考えかと。では早速、シオン殿には動いて頂きます」


「さて、そうなると俺のやるべきことは……ダラダラすることかな」


「「違うかと」」


「ひぇ……二人してハモらないで」


 結局俺は、いない間に溜まった魔石に水や氷魔法を詰めることに。


 とほほ……いつになったらダラダラできるやら。


 早く、主人公出てきてぇぇぇ!

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