第19話 帰還
その後、猛スピード森を駆け抜ける。
道中の魔物は俺が氷魔法を使い倒し、シオンは走ることに専念する。
そして、氷の塊を見つけたのはいいが……そこは既に、森の外だった。
追いついたというよりは、俺の氷魔法が途切れて以上進まなかったらしい。
「はぁ……はぁ……結局、森の中を全力疾走する羽目に」
「まあまあ、いいじゃないの。結果的に、日が暮れる前に森を抜けれたし」
「それはそうですけど……さては反省してませんね?」
「何せ巷で有名な自堕落王子ですから」
俺は胸を張ってドヤ顔をする。
こういう時は、この肩書きも便利なのだ。
「ほんと、こういい時だけは調子いいですね」
「はーい、ごめんなさい」
「よろしい。では、急いで都市に戻りましょう」
置いてきた二頭の馬を回収し、片方に氷の塊となったデビルラビットを引いてもらう。
もう片方の馬に二人乗りし、都市へと戻る。
そしてどうにか、日が暮れる前に都市へと帰還するのだった。
「つ、疲れたァァァァァ! あとお腹減ったし!」
「お昼ご飯を食べたとは言え、休憩らしい休憩をしてませんから」
「だよね。本来はデビルラビットを倒した後に休憩したはずだけど……」
「誰かさんがやらかしましたから」
そう言い、ジト目で見てくる。
美人さんのジト目は迫力があります!
「あはは……」
「ですが、主君の水魔法があっただけ良かったです。水がなければ、人は生きてはいけませんから。それがあるだけでも、探索は楽になります」
「確かに水だって荷物になるもんね」
そんな話をしていると、門が開いていく。
するとそこには……住民達が押し寄せていた。
「おおっ! エルク殿下がお帰りになられたぞ!」
「よかった! ご無事だ!」
「あの魔の森から、たった二人で帰ってくるとは!」
その熱量に、俺とシオンが戸惑っていると……ヨゼフ爺が前に出てくる。
「お二人共、お帰りなさいませ」
「ただいま、ヨゼフ爺。ところで、これはどうしたの?」
「皆さんがエルク殿下を助けに行くと聞かなかったので、ここで止めておきました。回復してない彼らでは、かえって足手まといになると思いまして」
「ふんふん、二次被害は良くないからね。でも、助けに行くってどうして?」
「はい、仰る通りかと。簡単な話です……ここにいるのは、回復魔法と氷の支給によって救われた方々の家族です。なので、そのお礼がしたいとのことでした」
俺が彼らに視線を向けると、コクリと頷いていた。
どうやら、傷の手当てや氷は俺の思っている以上に効果があったらしい。
ウンウン、この調子でいけば破滅回避できるかも。
「そっか……少しでも元気になったなら何よりだよ」
「ふふ、照れてますね?」
「そんなことないやい」
ただちょっと、どういう反応をしていいのかわからない。
前世では頑張っても、誰も褒めてはくれなかった。
今世でも、褒められる事などなかったし。
「それでエルク殿下、後ろにある氷の塊は?」
「ああ、これね。森を探索してたら見つけたから倒してきた。デビルラビットって言うんだけど知ってる?」
「デビルラビット……ええ、もちろんです。探索隊が何度か見かけて、逃げてきましたから。しかし、アレを倒すとは……やりますな。しかし、随分と手こずった様子。てっきり、日暮れ前には戻るかと」
「いや、遅かったのには理由があって……とりあえず、通ってもいいかな? こいつを処理したいんだよね」
「これは失礼いたしました。皆さん、お礼もいいですが、まずは中に入れましょう。解体場には、私がご案内いたします」
すると、住民達が道を開ける。
俺たちはお礼を言われつつ、その間を道を進んでいく。
そのままヨゼフ爺の案内で、古びた看板を捧げた冒険者ギルドの横にある小屋に入る。
そこには台座がいくつかあり、本来なら解体作業が行われていたのだろう。
「ここは……」
「以前は活気もありましたが、今ではこの有様です。ギルドも閉鎖され、残っているのは有志の方々のみです」
「そっか……その辺りのことも考えないとね」
「はい、冒険者が増えれば商人などもやってきますので」
その後、作業員の方にデビルラビットを受け渡す。
そして熱湯をかけて溶かしていき、次々と肉が解体されていく。
「この後は如何なさいますか?」
「うーん……まずは、みんなに栄養のある食事を取ってもらうよ。このデビルラビットは量もあるし、そこそこ行き渡ると思うけどどうかな?」
「ふむ……料理によります。ちなみに、味は美味しいかと。昔、王都で食べたことがありますから」
「うん、俺もメニューに出たことあるから知ってる。それじゃ……俺が作ってもいい? それを広場辺りに持って行って、少しずつだけど配るとか」
社畜であり孤独だった前世の時、俺の趣味は料理を作ることだった。
これなら節約にも繋がるし、時間を潰せて良かった。
ただ、いつも一人で味気なかったけど……それは、今世も同じか。
いつも一人きりで、冷たい食事を食べていたっけ。
「なんと、エルク殿下自ら?」
「うん、こう見えても料理は得意なんだ」
「そういえば、たまに厨房に入って何かやってましたね。それに、私に初めて食べさせてくれたのも主君の料理でした」
「そういや、そうだったね。んじゃ、折角だし似たようなものを作ろう。今ならもらったアレがあるし美味しくなるはずだ」
「わかりました。それでは、諸々の準備は私にお任せください」
ヨゼフ爺が去った後、解体した肉を受け取って俺は屋敷に戻る。
そのまま厨房に行き、早速調理を始めることにした。
「よし、作っていきますか」
「では、私もお手伝いしましょう」
「うん、ありがとう。とりあえず野菜を切ってくれる?」
「はい、お任せください」
シオンが野菜を切ってる間に、俺はフライパンに油をひいて火にかける。
少し熱したところに、デビルラビットの肉を焼いていく。
更に他の料理人達にも、同じように焼いてもらう。
その後、裏と表に焼き色をつけていると……。
「主君、野菜を切り終えましたよ」
「おっ、ありがと。それじゃ肉を取り出すから、そこに野菜を入れていって」
「ええ、わかりました。他の方々のところにも、野菜を入れていきますね」
そして肉を取り、空いたフライパンにシオンが野菜を入れていく。
肉の油で野菜がしおれていき、ジューっという音と共に良い香りがしてくる。
ちなみに野菜は玉ねぎや人参、ジャガイモやキノコ類だ。
これらは出汁も出るし、具としても優秀だ。
「これは軽くで良いんだ。そしたら、水を足して煮ていく」
「ところで、何故最初に焼いたのですか?」
シオンの言葉に、俺の周りに来た他の料理人も頷く。
どうやら、聞きたかったらしい。
「えっと、煮る前に焼いておくと肉の旨味を閉じ込めることができるんだよ。煮崩れもしにくくなるし、臭みも消えるらしい。このデビルラビットは獣臭いし、灰汁抜きも含めてやっておくだけで全然違うよ」
「……ほとんど初めて聞きましたね」
「あっ……」
しまったァァァァァ!?
えっと……肉の表面に焼き色をつけることは西洋料理の技法でリソレという。
水分に投入する前、あるいは水分を加える前に、肉の表面全体を強火で焼きつけることでケロイド状の膜を作り、肉の旨みを中に閉じ込め、外に逃げ出さないようにするとか。
加えて生肉の生臭さも消え、焼いた時に出る香ばしさも旨みに加わる。
しかし、その調理法は異世界にはない!
「何処でそんな知識を? 見たところ、周りの料理人達も知らないようですし」
「ほ、ほら! 俺ってば立ち入り禁止の書庫とか入ってたし!」
「そういえばそうでしたね。それに、無駄な雑学は昔から好きでしたか」
「そ、そう! ほら! こうやって上にきた泡みたいのを取っていくんだよ!」
「それは旨味なのでは?」
「でも、雑味でもあるのさ! 書庫で見たことある!」
「……なるほど。では、そのようにしましょう」
いやー! あぶないあぶない!
つい前世の知識を当たり前と思って使ってしまった。
今後は、気をつけて……頭がフラフラする。
「……あれ?」
「主君?」
その時、急激な眠気に襲われる。
気がつくと俺は、深い闇の中に沈んでいった。
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