第17話 シオンの焦り
森を進みながら、道中の魔物をシオンが仕留めていく。
そして一時間くらい歩くと、突然シオンが立ち止まる。
「……主君、止まってください」
「ん? 何かいた?」
「はい、何か大きな生き物がいます。あれは……デビルラビット」
「なにそれ? 悪魔的に可愛いってこと?」
俺の台詞にシオンが吹き出しそうになり、必死に口を押さえた。
「ぷぷっ……!? わ、笑わせないでください……!」
「えー? うさぎさんは可愛いよ?」
「ツノウサギくらいなら可愛いものですが、アレは可愛くありません……ほら、見てください」
俺はシオンの後を静かについていき、木の陰からシオンが指差す方を覗き込む。
そこにはずんぐりした体型に、二メートルくらいの大きさと厚い毛皮に覆われた生物がいた。
全身は黒く、その口元からは凶悪な歯がびっしり生えていた。
今は二足歩行で立ち、辺りを見回している。
「うん、可愛くないね」
「だから、言ったじゃないですか。アレは冒険者ランクC級の魔獣……獰猛で大食漢で、果物や他の魔獣を食い散らかしてしまうので駆除が推奨されています」
「なるほど、他の食料を取っちゃうのは困るね」
「相手も既に、何かしらがいると気付いているかと。今のうちに……失礼します!」
「うひぁ!?」
シオンが突然俺を脇に抱えて、その場を飛びのく!
すると、次の瞬間……俺達が隠れていた木がへし折れた。
「ガァァァァァァァ!」
「なになに!?」
デビルラビットの方を見ると、何かをふり投げた格好をしていた。
外れたからか、歯をむき出して怒っている。
「岩を投げたようです! 大木をへし折る威力……やはり、手強そうですね」
「C級だから、B級のシオンなら余裕で倒せるんじゃないの?」
「基本的に冒険者はパーティーを組みます。なので倒せる推奨ランクとは、その人数がいてこそですから」
……そういうことか。
例えばC級の魔獣を倒すには、C級冒険者が数名必要ってことだ
ソロとかペアで倒すとなると、ランク通りにはいかないと。
「じゃあ、結構やばい?」
「いえ、倒せないとは言ってません。その推奨ランクの一個上であれば、ソロ討伐も可能です。主君の身は、私がお守りしますのでご安心を。出てくる時に、大口を叩きましたし」
「なるほど……んじゃ、俺はフォローに回るよ」
「いえ、私一人でやってみせます!」
「シオン!?」
俺の言葉を無視して、シオンがデビルラビットへ駆け出す。
そして相手の両爪と、刀が激しく交差する!
「ガァァァァァ!」
「なめるなっ!」
「シオン……どうしたんだろ?」
なんだかんだで、俺のいうことを聞かないのは初めてだ。
それに、なんだか焦っているように感じる。
ひとまず俺は、いつでも魔法を打てるように準備だけはしておくのだった。
◇
……私は主君に必要とされたい!
それが私の存在理由なのだから!
「シッ!」
「ガァ!」
迫り来る両爪を刀で弾きつつ、どうすべきかを考える。
こいつの爪は硬く、壊すには力を貯める必要がありそうだ。
しかし、その時間稼ぎを主君に任せるわけにはいかない。
「それでは、私がいる意味がない」
「ガァァ!」
彼の方の側にいること、そして役に立つことが私の望みだ。
力を隠し争いを避け、今こうして辺境を救うために力を解放した。
群れから追放されて、存在意義を失った私を救ってくれたのも主君だった。
きっと、辺境の民も同じように救ってくれるに違いない。
その時には、私が一番側で役に立ちたい。
「くっ!?」
「ガァ!」
なのに、主君にあのような心配をさせて……。
余計なことを考えてる場合か! 私の後ろには主君がいるのだぞ!
「しかし、これではジリ貧ですね……しまっ」
「ガァァ!」」
「ぐはっ!?」
刀で爪の威力を相殺できず、思い切り吹き飛ばされる!
私は地面を転がりつつも急いで形勢を立て直す。
「シオン!?」
「へ、平気です!」
私は何を守るべき主君に心配させているのだ。
そうならないために、シグルド様に厳しい稽古をつけてもらったのに。
獣人は本来なら闘気をまとって自分の肉体のみで戦う。
しかし、昔の私は闘気の扱いが未熟で、代わりの策として刀を学んだのだ。
「でも!」
「だから平気……なっ!?」
その時、デビルラビットが身体を丸めて凄い勢いで転がってくる!
しまった! ここで避けたら主君に……私が受け止めると覚悟したその時、主君が私の前に出てきた。
「なにを!?」
「いいから! 氷の壁よ、我が身を守る盾となれ——アイスシールド!」
「ガァァァァァァァア!?」
突然現れた氷の大盾にデビルラビットが体当たりをし、ボールのように弾かれて木に激突した。
「す、凄い……あの体当たりを止めてしまうほどの魔力濃度とは」
「ふふん、俺だって守られるばかりじゃないさ。それにさ……シオンが俺を守りたいように、俺だってシオンを守りたいんだよ」
「……ふぇ!?」
その言葉に、身体中が熱くなってくる。
お、落ち着いて! 私はカッコいい女性を目指して、いつもクールにしてるのだから!
主君が半獣人をそばに居させても、周りにバカにされないように。
そして私という護衛が、主君にとって誇らしくあるように。
「ほら、くるよ。シオン、俺が隙を作るからトドメを任してもいい?」
「……問答してる暇はなさそうですね。はい、わかりました」
「決まりだね。んじゃ、いっちょやりますか!」
話し合いが終わると同時に、デビルラビットが立ち上がる。
大したダメージは負っていなさそうだ。
「ガァァァァァ!」
「まずはどうします?」
「さっきと同じように、相手と撃ち合いをして。そして、俺の声がしたら一歩下がって欲しい。そしたら、俺が隙を作るから」
「了解です……それでは行きます!」
再び刀を構えて、デビルラビットに向けて疾走する。
そして、激しく打ち合いを始める。
後ろでは、主君がブツブツと言っていた。
「あいつの意識を逸らす威力の魔法、そして確実に当てるためには……」
「……ふふ、まさかこんなことになるなんて」
ですが、不思議と悪い気分ではありませんでした。
なんだが、さっきよりも身体が軽い気がします。
相手の攻撃が見えて、冷静に対処ができる。
先ほどとは違い、私のカウンターが相手に傷をつける。
「ガァァァァ!?」
「主君! このまま私が倒してしまいますよ!」
「そりゃないよ! ええい——退いて! 」
その一言で、私は相手の爪に刀を合わせてパリィする。
その反動で跳びのき、すぐに抜刀の姿勢に入った。
「今です!」
「氷の鉄槌よ撃ち砕け——
「ガァ!?」
なんと……氷の塊が上から落ちてきて、デビルラビットの脳天を直撃した。
それによって、相手がふらつく。
「見逃すか!」
「やっちゃぇ〜!」
主君の声を受けると同時に、私は駆け出していた。
そして貯めていた闘気を刀に乗せ、相手の首元に渾身の一撃を放つ!
「居合——闘気刃!」
「ガァァァァァァァア!? ………ァァァァ」
首から血を吹き出し、奴がゆっくりと倒れていく。
「ふぅ……いけましたね」
「やったね! すごいや!」
「い、いえ……主君のおかげです」
私一人では、危なかったかもしれない。
何が私が守るだ……全然、できていないじゃないか。
やはり、こんな弱い私では主君の側にいない方が……。
「どうしたの? 暗い顔して……」
「……いえ、自分の未熟さに嘆いています」
「そうなの? それなら、もっと強くならないとね。俺も自堕落王子とか言われてるけど、少しは頑張るからさ。だからさ、シオンも一緒に頑張って」
「……一緒に頑張る」
「そうそう。んでもって、俺を楽させてくれないと」
「……ふふ、全く貴方という人は」
相変わらず、この人の能天気さには救われる。
でも、主君のいう通りだ。
今がダメなら明日、そして未来に向かって強くなればいい。
そして、ずっと主君の側に……。
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