第10話 2人だけの時間

夏の燃えるのような暑さがより一層強くなってきたように感じる今日この頃、俺は汗をだらだらと流していた。


「おい!パス遅いぞ!」


「すみません!」


試合も近いため練習も激しさを増し、体育館の熱気が強くなったと感じる。

最後の追い込みというやつだ。

3年生はこれで最後の大会になるかもしれない。

そういう焦りが彼らの中に自然と現れているのかもしれない。


そして今、俺たちは中学生と合同で練習をしている。

練習内容は基本の「き」から「ん」までをした。

特段変わったことはしない。それこそ試合を見据えた練習なのだろう。


「「「「ありがとうございました!!!」」」」


そう言ってこの体育館を去る母校の中学生たち。

そんな彼らを横目に俺は久しぶりに顔を合わせた元顧問と話していた。


「明斗、久しぶりだな」


「はいお久しぶりです」


「元気そうでなにより、それにあんなにも美人な彼女まで作っちゃって」


「え!?は!?なんで知ってるんですか!?」


「だって2階にいるあの子ずっとお前を見てるしお前も時々見てたし」


「マジすか…」


自然と見ちゃってたか…


「まぁ…なんだ…俺は嬉しいよ明斗が楽しそうに生活してて」


「先生…」


「今日はありがとう本当に、感謝してる」


「いえいえ」


「じゃあ行くよお疲れ様」


「はい、ありがとうございました」


そうして元顧問を見送り、俺は自主練に励んだ。


「くそっ…なかなか上手くいかないな…」


体育館には明斗以外の人影は見当たらない。

そんな中黙々とシューティングをしていたが

なかなか納得のいく形ができていないのかフラストレーションが溜まっていく明斗は思わず叫びそうになるがなんとかこらえる。


「明斗くん…なんか手伝えることない?」

控えめに話しかけてくる紗希。


「んーもうそろそろ帰ろうかな…ごめんね待たせちゃって」


「ううん!いいの逆に待たせてくれてありがとうって感じだよ」


「…」

本当に申し訳ないことをしたな…これは。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


「「ただいま〜」」


2人で帰宅し手洗いうがいをし

俺は即風呂。

毎日紗希は一緒に入りたがるが毎日は流石に不味いので「月1ならいいよ」と言って俺は断っている。

いや入るんかいと思っただろう、普通に考えて入りたいだろ。でも高校生だし恥ずかしさもある。

でも一緒に入りたい。この気持ちの間を取った結果が月1だ。



「ふぅ…」


汗を流し、入念に体を洗った俺は脱衣場で体を拭き服を着てドライヤーで頭を乾かして浴室を出た。

途中、なんか扉が地味に開いてるなとそちらを見ると「あっ!」という声とバタバタと走り去る音が聞こえた。

「覗き魔が、いるなぁ」


そう言ってリビングのソファで赤面している紗希を見つけた。


「ちっ違ッ!あ、あれは出来心なの!」

と自白する。


「別に俺の体を見るのはいいんだけど覗くという手段を用いるのね」


「うぅ…だって恥ずかしいじゃん正面突破は」


「まぁそれもそうだけど…」


と話ながら紗希の隣に座る。

すると紗希は赤面しながらも頭を俺の肩に乗せ、いつもの甘えスイッチが入った様子。

何だよこの可愛い生物は。


「最近ね私やばいの」


「何がやばいの?」


「明斗くんが好きって気持ちが止められないの」


「ほう…なるほどね」


「ずっとこうしてたい…1秒たりとも明斗くんとは離れたくない…そんなことばっか考えるの」


「俺も離れたくないって思うよ」


「ありがと。私の場合は独占欲とかもこの気持ちの中にあると思う。でもね私一番強くのはー」


そう言って不意に俺の唇を奪う。

しかも子供のするような優しいものではなく

お互いの深部まで交わりあうようなものだ。

これを知ってしまうともう戻れない普通の口づけでは満足できないというが全くだ…幸福感も何かもが別格。


深い口づけを交わすこと数分、やっと俺らの口は離れた。


「気持ちいいねこれ。」


「これはやばい」


「ふふ、一生していたいね」


「一生は窒息してしまうなぁ…」


いつの間にか俺の上に乗ってきている紗希は楽しそうに笑うと俺の肩に手を回しギュッと抱きついてきた。

体の隅から隅まで密着するように抱き合う。俺たちは体温を共有し温め合う、幸せな時間だ。 


「好き…大好きもう愛が止まらない…」


「俺も大好きだよ…あの時手を差し伸べてくれてめちゃくちゃ嬉しかった」


そう。彼は最初は好きという感情はなかった。

生活に苦しんでいた明斗に恋愛している余裕などなく、いきなり同棲させられてもすぐに恋愛感情を持てるはずもない。


でもさっき、彼は大好きと言った。

その事実だけで私の胸と頬は熱くなる。

2人の時間が永遠に続けばいいといつも思い続ける。

紗希はより強く抱きしめた。

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親に捨てられたら、なぜか美人お嬢様に拾われ同棲することになった キサラギ @novelsriteskamise

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