12話 新装開店
「シオン、買い出し終わったぞ」
「ありがとう、釣りは?」
「……ない」
「は?」
村に到着して4日目、ギャンブルクソエルフを仲間に入れたはいいものの、相変わらずのクズッぷりで手を焼いていた。
「え、俺足りなかったら困るからってちょっと多めに渡したよな?」
「最近物価高とかで……全部使いきっちゃった……」
「はい嘘。お前新しくできた賭場に行ったろ」
「ギクッ!!!!!」
バカエルフが唯一の賭場を破壊した翌日、突如として開場した公営の賭場はかなりの反響があったようだ。
そこは競馬場だった。システムは俺のいた世界と全く同じ。
俺は教会に身を潜めていて話には聞いていたが、昔競馬場の近くを通ったときと同じ匂いが染み付いてやがる。
「ま、まさか……そんなところ存在すら知らなかったな……」
「お前土と動物の匂いで臭いんだよ」
「これは私の元からの体臭だ!2週間風呂入ってないからな!」
「風呂入ってないのは知ってたけどそれとは別で臭いの!てか汚いなし……もうお前には一銭も渡さないからな。俺が管理する」
「それは勘弁して!もうしないから!」
「ていうかこれ、言った買い物全然できてないじゃん!半分も揃ってないしどんだけつぎ込んだんだよ」
「どうせ金ならまだいっぱいあるだろ!いいじゃんかちょっとぐらい、増やそうとしたんだよ!」
連日この調子である。
相変わらず目的だった領主様の従兄弟の家は、先日の騒ぎもあり、街中に手配が回ったようで近づける様子はない。
「物入りならこの商品にお任せあれ」
「うわっ、アンタこの間の……!」
「ずっといたのか!?一般の礼拝客かと……」
「そう思ってたんなら迷惑になるからあまり騒がないほうがいいと思うよ……」
それはそうだ。
ルーナが酒場兼賭場を破壊した時に現れた謎の商人ミゲル。
彼の手引きで不正を暴き、再び身包みを剥がされずに済んだ借りはある。
あれから気にはなっていたが胡散臭くて接触はしていなかった。
「いつ連絡してくるかと思ってたけど、待ちきれなくて来ちゃった」
「ミゲルさんでしたよね。あの夜は助かりましたけどなぜここに……」
「ミゲルでいいよ。君たち、主にシオン君にはビジネスパートナーとして目を付けてたんだよね」
「ビジネスパートナー?」
「おい待て優男コラ。私はそんなにってか?あ?」
「そっちのエルフちゃんにも感謝しているよ。君のおかげであの賭場を潰せたし、新しい競馬場にも贔屓にしてもらってるみたいで」
「やっぱり競馬場もアンタが噛んでたのか。なんであんなことを?」
「あの酒場とは以前から契約して僕がゲームの提案やらなにやらで利益を一部もらってたんだけど、最近はコンサル料を渋るようになってきてね。だったら最初から僕により利益が入るシステムを作ろうと思ってたら都合よく君たちが来たってわけ」
「利用されたって訳か。ミゲル、もしかしてあんたは日本人なのか?」
俺はあの夜から考えていた疑念をぶつける。
「違うよ、でも知り合いなんだ。」
「まさかラウルと!?」
「ラウル?その人は知らないなぁ」
「知らないって……まさか他にもいるってことか?」
「そうだね。その人たちからニッポンのことを教えてもらって、僕は代わりに彼らに協力してたんだ」
「おい待てお前ら。この私が置いていかれている。分かりやすく話せ」
「ちょっと待って今混乱してるから」
俺達2人以外にも転生してきたやつがいる?しかもその口ぶりでは何人も。
「他の転生者たちは今どこに?」
「死んだよ。1人を除いてね」
「は?」
「無料版はここまで。これから先の情報が欲しければ有料だ」
「いくらだ」
「即決かよシオン!私にはさっき一銭もくれないとか言っておいてそんな怪しい話に……」
「別にお金じゃないよ。他のビジネスパートナーたちと一緒。お互いの利益になることを交換するんだ」
なるほど。この世界に現代の知識や技術をもたらす事ができればそれは新たな利益に直結する。
昔ラウルも言っていたがそれが実行できれば大きな市場となり独占できる。
「近々都で大きい商いを考えてるんだ。指名手配犯の君にも儲け話は悪いことじゃないはず」
「そこまで知ってたのか」
「まあ身辺調査くらいはするさ。君にかかった嫌疑はまるで子供じみた杜撰さだったけど、まさか教会に隠れてるとは、すぐにはバレないね」
「そういえばなんで俺達の居場所が……」
「あ!あの紙切れだろシオン。この貼り付けた魔法で場所がバレたんだ」
「さすが魔法に関しては専売特許だね。これも彼らの世界のじーぴーえす?から着想を得たんだ。マーキングしたものならどこにあっても位置を確認できる!すごいでしょ」
「なるほどね……」
「もちろんすぐに信用するのは無理だろうと思って、ちゃんと他に手土産は持ってきてるよ。まずそっちのカモ……素敵なエルフが買い忘れた品物一式」
「すごい!抜けてるとこだけ全部そろってる」
「今私の事カモって言ったか?」
「言ってないよ」
食料や村を出るとき持ち出せなかった衣類などが見事に揃っている。サイズまで指定してた通りだ!
「それともう一つ。もう一人かな。そろそろ来ると思うよ」
「?」
ミゲルが門の方に視線を向けるとそこにはローブ姿の女性が息を切らして立っていた。
「シオン様ですね!遅くなり申し訳ありません!」
「えっと、あなたは……?」
「ジョージ様の従兄弟のジョニー様の使いで参りました。領主様の件は聞き及んでおります。遅くなり申し訳ありません」
従兄弟ジョニーって名前だったのか。
こっちから行くつもりが、逆に来てくれるなんて。
「今は屋敷の周り、ジョニー様共に監視されお会いすることはできません。私もあの方の手引きでどうにか尾行を巻くことができました」
「本来ならジョニー氏が君をしばらく匿う、或いは逃がす算段だったようだけど、手紙は疎か、領主の近親者を始めとする金の流れまで監視されている状況だ。このまま留まれば追手はこの街に増え続け、見つかるのも時間の問題になる」
「お力になれず申し訳ありません」
「いやいいんです。元は俺の問題だし、この調子じゃいずれ計画変更を考えなければと思っていました」
「なんで私を見る」
用心棒が一番金がかかるからだよ!!!!
「ミゲル、そこまで用意周到なら、この先も考えてるのか?」
「もちろん。まずシオンを積荷に紛れ込ませて、この街にいるキャラバンと共に脱出する」
「キャラバン?」
「君の街にも来たことないかな?行商人の一団さ。各地を転々として商いをする。この街に戻ってくるときに僕も同乗して来たんだ」
「なるほどな。デカいキャラバンなら手形があるから、基本的にどんな国にも荷を改められる事なく出入りできる」
「よく知ってるなルーナ」
「伊達に君より長生きしてないからな」
そのくせ金遣いは荒いけどな
「そういう事。僕と契約するなら、君をここから連れ出せるし君の欲しい情報も持ってる。Win-Winな関係じゃないか?」
「また契約か。でもまあお互いの利益で協力する分信用できるってことだな」
「おい待てまるで私の事が信用ならないみたいな……」
金ばっかりかかってるからな!
「現状他に選択肢もないし、そこまでお膳立てしてくれてるなら頼むよ、ミゲル」
「うん、じゃあ契約成立だ!早速だけれど今夜、夜に紛れて街を出よう」
話をしていると夕飯の買い出しに出ていたシスターが帰ってきた。
「ただいま戻りましたーって、人数が増えてる……食材足りるかしら」
「その心配もいりません!商品ですのでこちらに人数分の食材とシェフも!」
「なんでも出てくるなミゲル……」
「お前も食っていく気か!!」
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