023 新たな脱出への道

 まず仙人河童のいたこの場所だが、滝に戻るための出入口しかない。


 周囲の壁をくまなく調べたが、仕掛けのようなものは無かった。


 なのでここから脱出できる方法は、別のところにあるはずだ。


 今思いつく限りだと、三つの可能性を考えている。


 1.最初に地底湖へと出たボス部屋の出入口が、開いている可能性。

 2.怪魚を倒すことで、新たな転移陣が現れる可能性。

 3.滝の上に、何かしらの脱出方法がある可能性。


 まず一つ目は、仙人河童を倒したことでボス部屋の扉が開いているかもしれないということ。


 その場合、またそこまで戻らなければいけない。


 怪魚との遭遇は避けられないだろう。


 次にその怪魚を倒すことで、ボス部屋がクリア判定されることにより、外に出るための転移陣が現れるのかと考えた。


 しかし、これは実質不可能だ。


 俺たちにあの怪魚を倒す方法はない。


 そして最後に最も可能性が高いと思われるのが、滝の上だ。


 滝の上からは定期的にオタガッパが流れてくるので、どこかに繋がっていると思われる。


 おそらく、初めてオタガッパと遭遇した湖と関係があるかもしれない。


 幸い滝の付近の壁は凹凸があり、登っていくのは可能だろう。


 それに上に登れば、ボス部屋の出入り口が開いているのかよく見えるはずだ。


 俺はその考えに辿り着くと、ペロロさんに情報を共有した。


「そうだね。僕も滝の上が怪しいと思っていたよ。怪魚とは戦いたくないし、消去法でもそれしかないね」


 どうやらペロロさんも、滝の上が怪しいと思っていたようだ。


 俺たちは意見が一致したので、少し休憩してから向こうかとにした。


 頬の小さなバックに入れていた僅かな食料を取り出し、ペロロさんと分け合って食べる。


 飲料は、さっそく俺の水魔法が役に立った。


 ちなみに水生成と水操作を合わせて、水魔法と呼んでいる。


 ペロロさんいわく、その方がカッコ良いらしい。

 

 俺も水生成と水操作よりも、水魔法の方が良いと思ったので採用した。


 そうして休憩を終えると、俺とペロロさんは滝の直ぐ近くまで移動する。


「怪魚はいないみたいだね」

「行くなら今の内か」

「うん、だからよろしくね?」

「あ、ああ……」


 ペロロさんはそう言うと、俺の背中へと飛びついた。


 両手は首へと回し、足は俺の腰をホールドしている。


「えへへ、楽チン楽チン」

「何か来たら頼むぞ」

「うんうん。わかっているよ」


 これはふざけているのではなく、不測の事態に備えてのことだ。


 壁を登っている途中で、何か起きるかもしれない。


 その時の事を考えて、この形になった。


 ペロロさんは軽いので、壁を登るのには支障はない。


 あるとすれば、耳元に吐息がかかるとか、地味にある柔らかいふくらみが背中に当たることだろうか。


 それと、なんか良い匂いがするし、密着度がヤバイ。


 いくら相手がペロロさんでも、緊張してしまう。


 俺は深呼吸をして心を落ち着けながら、壁を登っていく。


「クルコン君、やっぱり入り口は閉まったままみたいだよ」

「マジか……」


 どうやら滝の隙間から、このボス部屋の出入口がしっかり見えたらしい。


「という事は、あの怪魚を倒さないとボス部屋クリアとは見なされないのかも……」

「それか、他に脱出方法があるかだな」

「そうなるね」


 本来のボス部屋は、ボスを倒すと脱出エリアに続く道が開かれる。


 中には入り口も開かれて、ダンジョン内に戻ることも可能な場合があった。


 イベントの事を考えると、ボスを倒せば元来た道に戻れると考えている。


 しかし実際には、扉は閉まったままだ。


 つまりこのボス部屋のボスは仙人河童ではなく、あの怪魚という事なのだろう。


 だがそれすらも実はブラフで、滝の上に脱出エリアに続く道があるかもしれない。


 俺たちは、それに賭けているのである。


 この先に、脱出方法があることを切に願う。


 それから壁を登り続け、結局何事もなく滝が流れ出ている場所に辿り着いた。


 幅も広く、流れはそこまで速くはない。


 壁に手をついていれば、歩いて進むことも可能だろう。


 加えて先を見れば、どこかへと洞窟が続いている。


「よし、奥に道が続いているぞ!」

「やったねクルコン君!」


 俺はそれを見て喜びながら、内心ほっとした。


 しかし、まだ安心はできない。


 この先が行き止まりだった場合、完全に詰んでしまう。


「行くぞ」

「うん!」


 ペロロさんは俺の背中から降りると、水に足を付ける。


 水位はちょうど、ペロロさんの膝辺りまであった。


 俺とペロロさんは左右の壁に別れ、流されないように気をつけながらゆっくりと進んでいく。


「がぱっ!」


 するとそこへ、一匹のオタガッパが現れる。

   

「ふっ!」

「ぐぱっ!?」


 しかしペロロさんの回し蹴りが炸裂して、オタガッパは滝の方へと流れていった。


 今更オタガッパが一匹現れたところで、ペロロさんの相手ではない。


 逆に今の俺は攻撃手段が乏しいので、少し手間取りそうだ。


「流石だな」

「ふふっ、クルコン君は僕が守るからね!」

「そりゃ、頼もしい」

「護衛代は、体で払ってもらうからね!」

「ははっそうか。お手柔らかに頼む」

「ふふっ」


 そんな軽口を言いながら、俺たちは進んだ。


 道中は意外なことに、オタガッパはほとんど現れなかった。


 だが滝から流れてくるオタガッパの頻度を思い出すと、こんなものかもしれない。


「あれを見てクルコン君!」


 するとしばらくしてから、ペロロさんが何かを見つけて指をさす。


 当然俺はその指を差す方に視線を向けると、そこには驚くべきものがあった。


「あれは、鏡か?」


 思わず口に出してしまった通り、見上げるほど巨大な鏡が壁に付いている。


 そして鏡からは大量の水が流れており、このボスエリアの水の供給源になっていた。


 もしかしなくても、この先に進めば外に出られるかもしれない。


「やったね! これで外に出られそうだよ!」

「そうみたいだな。だが念のため確認だけはしておこう」


 俺とペロロさんは鏡の発見に歓喜したが、罠の可能性もある。


 慎重に周囲を確かめて、異常が無いのを確認した。


 また鏡からオタガッパが出てくるのも待ち、実際にオタガッパが鏡から出てくる。


「がぱ? ががぁああ!?」


 そして出待ちしていたペロロさんが、瞬く間にオタガッパを倒す。


「これなら、大丈夫そうだね!」

「ああ、問題はどこに繋がっているかだな」


 巨大な鏡は幅が約5mで、高さは約10mほどになっている。


 水は鏡の半ばあたりまで出てきており、上部からは出てきていないようだった。


 鏡の中に入るとすれば、水が出ていない上部になるだろう。


「少し確かめてみる」

「えっ、僕も行く!」

「うおっ!?」


 俺が壁を伝って鏡の上部に向かうと、ペロロさんが先ほどのように俺の背中へと飛び乗った。


「もしかしたら鏡に吸い込まれるかもしれないからね。こうしていれば、僕も一緒に行けるはずさ」

「そうか。その可能性もあるか」

「そうだよ。その可能性もあるよ。僕だけ取り残されるのは嫌だからね!」


 これは少し、迂闊うかつだったかもしれない。

 

 俺は軽く謝ると、ペロロさんを背中に乗せたまま鏡の上部に向かう。


 そして慎重に右手で鏡に触れてみると、鏡の中に指先がすんなり入る。


 だがそこで、俺は違和感を覚えた。 


「む?」

「どうしたの? 大丈夫かい?」

「ああ、大丈夫だ。けどこれは……」


 指先はすんなり入ったのだが、すぐに壁のようなものに当たって進まない。


 手を引いてみると、指先には土がついていた。


 もしかしたらこの部分は、土に埋まっているのかもしれない。


 だからこそ、鏡の半ばからしか水が出ていなかったのか。


 そのことをペロロさんにも伝える。


「えぇ!? それじゃあ、どうやって出るの? 土の部分を頑張って掘る感じかい?」

「いや、掘ったとしても、結局水に押し流される可能性がある」


 加えてこんな足場の悪いところで流されれば、運が悪ければ大怪我を負う。


 なら脱出するためにはどうすれば良いのかと考えると、脳裏にある考えが浮かんだ。


「じゃあ、どうするんだい?」

「一つ方法がある」


 俺は思いついた方法を、ペロロさんに教えた。


「なるほど。確かにそれなら可能性はあるね!」

「ああ、だから俺を信じてくれ」

「ふふっ、ここまで来たら一蓮托生だよ。僕の命はクルコン君に預けた!」

「その命、任された」


 そうして俺とペロロさんは下まで降りると、脱出に向けて行動を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る