終業式 西銘を適当にあしらう
予想通り
俺は速足で逃げた。
しかし校舎を出たところで追いつかれた。実は追いつかれる程度の速さで逃げたのだ。
「――鮎沢くん……ちょっと……待ちなさいよ……」西銘は息を切らしていた。
「先生、大丈夫ですか? 病気ですか?」俺は笑いを噛み殺していた。
「――歩くの速いわよ……意味わかんない……」
「俺の方も意味わかんないです」
「――私を無視したでしょ。芦崎先生と
「それを言うと、俺は職員室にいる無数の先生を無視したことになりますね。俺はただ世話になった担任に挨拶をしに伺い、蒔苗先生は向こうから俺のところに話をしにやって来たんですよ」
「ひどい言い方ね。君と私との仲なのに」一応周囲を見回して人がいないことを確認してから西銘はそう言った。
「ああ、そういうのいいっす。ウザいですから」俺は右手を前に出して外向きに振った。あっちへ行って、という感じだ。
「何なの、その雑な扱い――」西銘は不服そうだった。「こんなにひどい扱いを受けたのは生まれて初めてだわ」
ぷんぷん怒った顔がまた可愛い。授業中では絶対に見ない顔だ。
「まあ先生はモテたでしょうから
「実は友だちいない系なの?」西銘が不思議そうな顔をした。
「遊び相手やケンカ相手はいますけどね。腹を割って本音を語る相手はほとんどいませんね」
「それでいつも元カノと密談してるんだ?」
「密談じゃないですよ。ただ
「君も可哀相な子なんだね」
「ということで失礼します。俺のいない来年度は表の顔だけでお願いしますね」
「何だかな……」
「
俺は初めて爽やかな顔を西銘に向けて「では、お元気で」と手を振った。
「帰って来る時は連絡しなさいよ!」
西銘の悲鳴のような叫びを俺は背中で聞いた。
今度こそ、この学校とおさらばだ。
俺にとっての実家があるわけだから、盆と正月に遊びに帰って来ることくらいはあるだろう。
その時はまあ、ちょこっとあんたの可愛い顔を見に来ることもあるかもしれない。気まぐれに。
でもやっぱり――今こそ別れめ、いざ去らば――だ。
俺は振り返ることなく、歩き続けた。
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