第5話(1)限りなく無限に近い(無限とは言っていない)

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「しかし……」


「なんだい? さすらいのサムライガール?」




 オリビアが右隣を歩くアヤカに問う。アヤカが目を細める。




「アヤカだ……別にさすらってもいない」


「どうかした? アヤカ?」


「エルフで銃使いとはな……」


「意外かな?」


「ああ、意外だな……」


「エルフっていうのは長命の種族でありんしょう」




 オリビアの左隣を歩くエリーが口を開く。オリビアが感心する。




「おっ、物知りだね~さすがはやぶれかぶれの魔族だ」


「エリーでありんす。なんでありんすか、やぶれかぶれって……」


「長命がどうかしたかい? 言っておくけれど、実際の年齢は教えないよ? まあ、それなりに積んでくれるなら教えてあげてもいいけれど……」




 オリビアが左手の人差し指を自らの唇に当て、右手の人差し指と親指で丸を作ってウインクする。エリーがそっけなく呟く。




「……別に大して興味もありんせん」


「あらら」




 エリーの対応にオリビアが苦笑する。




「保守的な考え方が主流だと思ってやした」


「保守的というと?」


「飛び道具は弓矢に限るとか……科学技術より魔法が優れているとか……」


「あ~まあ、そういうエルフもいるけれどね……」


「多うないのでありんすか?」


「詳しく統計を取ったわけじゃないから分からないけれど……世界は広いからね、エルフも各地に点在しているし、それぞれの考え方があるさ」




 オリビアが両手を大きく広げる。エリーが顎に手を添えて頷く。




「ふむ……」


「こういうものを好むエルフもいるってことさ♪」




 オリビアが拳銃を取り出して、引き金の部分に人差し指をかけてくるくると回す。アヤカが戸惑い気味に口を開く。




「あ、危ないじゃないか!」


「安全装置は外してないって、大丈夫、安心安全だよ」


「むう……」


「銃はお嫌いかな?」


「好き嫌いの次元で話すことではないだろう」


「おやおや、真面目だね~」


「真面目で悪いか?」


「いやいや、悪くはないけどさ。それで? どのように考えているの?」


「……それを聞いてどうするのだ?」


「単純に興味や関心があるからね」


「……武器としては有用だということは間違いない」


「ふむふむ……」


「それを使用する者を否定するということもない。意味がないからな」


「比較的、良い印象を持っているということかな?」


「まあ、どちらかと言えばではあるが……」


「ほうほう……」


「だがしかし……」


「だがしかし?」


「刀が劣っているとは決して思わんぞ……」




 アヤカが真剣な目つきで刀の鞘に手をかける。オリビアが若干後ずさりをする。




「お、落ち着いてよ……」


「……ふっ、冗談だ」


「真面目な顔で冗談言わないでよ……」


「こういうのは真面目な顔で言うからこそ効果があるのだ」


「おお、まさか、ここで講釈されるとは……」




 オリビアが拳銃をしまいながら苦笑する。エリーが口を開く。




「……それで何故、南へと向かっているのでありんすか?」


「良い質問だね~」


「真面目に聞いているのでありんすが……」


「新しい相棒を買おうと思ってさ」


「相棒?」


「ああ、狙撃用のライフルは壊れちゃったから、その代わり。アタイは遠距離からの狙撃が本分だからね」


「南には銃があると?」


「なかなか良いのが揃っているよ、この国の銃製造技術はどうしてなかなか侮れない」


「へえ、東の果てだと思ってたでありんすが……」


「辺境の地なのにねえ」


「果てだ、辺境の地だ、と好き放題に言ってくれるな……」




 エリーとオリビアの言葉にアヤカがムッとする。しばらくして、俺たちは南にある街へと到着する。アヤカの話では、南方では一番大きい街だそうだ。俺はオープンカフェの――雰囲気的には茶屋と言った方が適切なのかもしれない――外から見える席に腰かける。




「お待たせ~♪」


「オリビア、随分とご機嫌だな」


「思った以上に良いものが手に入ったからね♪」




 オリビアが銃を見せてくる。俺が首を傾げる。




「そんなに良いものなのか?」


「最新鋭のタネガシマだよ、そうそう手に入らないよ。他の国なら数ヶ月待ちはザラだ」


「へえ……」


「良いね~」


「良いか」


「ほっぺにスリスリしたくなるよ~」


「そんなにか……」


「いやあ、この街に来ると決めてくれてありがとう~」


「お礼を言われるようなことでもないさ」




 俺は手を左右に振る。




「ふう、重たかったでありんす……」


「!」




 戻ってきたエリーがテーブルにドサッと袋を置く。




「それなりにものが揃っていて良かったでありんす」


「な、なにをそんなに買ったの?」


「食料でありんす」


「エ、エリー、そんなに食べるの? い、意外だな……」


「ふふっ、あちきの分ではありんせん」


「え?」


「この子たちの分でありんす」


「あ、ああ……モンスターたちの……」




 エリーが本を取り出して、トントンと叩く。オリビアが頷く。アヤカも両手一杯に荷物を抱えて、戻ってくる。




「どうも、お待たせしました……」


「‼」


「大体、目当てのものは買えました……」


「ア、アヤカ、これは……?」


「諸々の生活用品だ」


「せ、生活用品?」


「ああ、買えるときに買っておかないとな……」


「そ、そんなに買ってどうするのさ?」


「どうするとは?」


「い、いや、持ち運びが大変じゃないか」


「キョウ殿、いつものようにお願いします……」


「ああ……」


「⁉」




「【特殊スキル:限りなく無限に近いアイテムボックスを発動しました】」




 俺は透明な空間に、アヤカたちが買ってきたものを収納する。オリビアがそれを見て、唖然とする。まあ、無理もないな。俺にも仕組みがよく分からんのだから……。

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