第3話(1)今後について

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「……お待たせしました。それでは参るとしましょう」




 立派な建物から出てきたアヤカが俺の所にやってくる。俺は口を開く。




「えっと……」


「? どうかされましたか? キョウ殿?」


「い、いや、良いのか? いきなり辞職するだなんて……」


「良いのです」


「引き留められなかったのか?」


「まあ、それなりには……ただ、拙者が一度言い出したら聞かない頑固な性格だというのも皆はよく分かっているので……」


「とは言ってもだな……」




 俺は鼻の頭をポリポリと擦る。困ったことになったな……。アヤカが首を傾げる。




「何か問題がありますでしょうか?」


「いや、問題だらけだろう……」


「そうでしょうか?」


「ええっと……アヤカ殿は……」


「アヤカで構いません……」




 アヤカはそう呟いて、ポッと顔を赤らめる。これって、もしかして、いや、もしかしなくてもあれだよな……。ま、まあ、それについては、今はいいだろう。




「ア、アヤカは……」


「はい」


「俺についていくと決めたとか言っていたよな?」


「ええ、そのように申し上げました」




 アヤカが首を縦に振る。俺は右手の人差し指をピッと立てる。




「そこでまず問題が色々と発生している……」


「なにがでしょうか?」




 アヤカが首を捻る。




「白状すれば、俺自身がまったくのノープランなんだ」


「それは大体察しがつきます」


「あ、そ、そう……」


「ええ、プランがあるのならそんな恰好はしません」




 アヤカが俺の体を指し示す。そう、俺は相変わらず、腰に海藻を巻き付けた、ほぼ全裸状態なのだ。周囲を歩く人々の視線が痛い、っていうかシンプルに恥ずかしい。




「そ、そう! この恰好はさすがにマズいだろう?」


「……」


「なんだよ、黙り込んで……?」


「いえ、ちゃんとご自覚があったのですね……」


「あるよ、そりゃあ……」




 厳密に言えば、『転生したぜ、ヒャッハー!』みたいな、転生後特有のハイテンション――転生は初体験だから、よくは知らんけれど――が落ち着いて、冷静になったっていうところかな……。アヤカが顎に手を当てて考え込む。




「ふむ……」


「………」


「…………」


「……………」


「……別にそのままでもよろしいのでは?」


「それなりに長考したわりにその結論⁉」


「よくお似合いですよ」


「お似合いもクソもないだろう」


「センスというものは人それぞれですから……」


「センスというか、それ以前の問題だろう」


「それ以前ですか?」


「ああ、文明人になる必要があると思うのだが」


「無理に背伸びなどしなくても……」


「そこは無理にでも無理する局面だろうが」


「……しかし、よく鑑みてください」


「鑑みる?」




 俺は首を傾げる。




「そうです。ご自身の強さというものを……」


「強さ……」




 確かに特殊というか、チートじみたスキルをいくつも所有してはいるが……。




「もうお分かりでしょう?」


「いやいや、さっぱり分からんぞ」


「あそこまでの強さがあるのならば……」


「あるのならば?」


「文明などあとから勝手についてきます」


「いや、その理屈はおかしいって」




『文明の先を往く』って言うと、なんだか聞こえは良いけれども、意味が分からない。




「まあ、要するに衣服など不要だということです」


「なんでそうなるんだよ」


「逆に問いますが、なんで衣服を着たいのですか?」


「そんなの決まっているだろう。恥ずかしいからだよ」


「そういうことに興奮を覚える殿方もいらっしゃると聞きますが?」


「どこで聞いたんだよ。否定はしきれないが、あまりにも極端過ぎるだろう」


「本当に大事な部分はお隠しになられておりますし……大丈夫です」


「何が大丈夫だ。国の風紀を著しく乱す存在として、警吏にでも捕まるんじゃないか?」


「その点では心配は要りません」


「え?」


「自分で申すのもなんですが……拙者はこの国ではそれなりに名前も顔も知られております。職を辞したといえ、拙者がついていれば問題はないでしょう」




 いや、問題があると思うのだが……。




「……とりあえず安価の衣服でもいいから買ってくれるという発想はないんだな」


「先立つものがありません」


「は?」




 アヤカが手のひらをひらひらとさせる。




「退職金はほとんど寄付してしまいましたので……数日分の路銀しかありませんね」


「な、なんでそんなことを⁉」


「拙者の極めて身勝手な理由で職を辞したわけですから、あまりにも高額なお金を受け取ってしまっては、国民の方々に申し訳が立ちません」


「そ、そんな……」




 俺はがっくりとうなだれる。アヤカが不思議そうにする。




「そんなにうなだれるようなことですか?」


「うなだれるだろう! 飯はどうする⁉ 無銭飲食をしろと⁉」




 俺は頭を上げるとともに声を上げる。アヤカが腕を組む。




「まあ、それはさすがに聞こえが悪いですね……では、稼ぐしかありませんね」


「稼ぐだって? この恰好のやつを雇ってくれる物好きがいるとは思えないが……」




 俺は両手を広げる。アヤカが笑みを浮かべる。




「店などで働くよりも、手っ取り早く稼げる方法がありますよ」


「ええ?」




 それから数十分後、俺たちは街の郊外にいた。




「シャア!」


「ふん!」


「ギャアア⁉」




 俺は飛びかかってきた大きいトカゲのようなモンスターを一撃で打倒する。




「なるほど、モンスター退治ね……」


「ええ、モンスターの腸でも心の臓でも組合――国際的にはギルドというそうですね――に持って帰れば、治安維持の報酬を受け取れます」


「そういう仕組みか……」


「……なにやら騒がしいと思ったら、モンスター狩りかえ?」


「誰だ⁉」

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